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◇クラシック音楽CD◇ターフェルムジーク・バロック管のヘンデル:「水上の音楽」「王宮の花火の音楽」

2012-01-31 10:31:12 | 古楽

ヘンデル:管弦楽曲「水上の音楽」
            管弦楽曲「王宮の花火の音楽」

管弦楽:ターフェルムジーク・バロック管弦楽団

CD:ソニーレコード SRCR2641

 私はヘンデルの名前を見ると、真っ先に思い出すのは管弦楽曲「水上の音楽」や管弦楽曲「王宮の花火の音楽」である。そのくらいポピュラーな曲であり、事実聴いてみると、非常に耳に馴染み、しかも心地良く、なるほど名曲ではあるといつも感じる。ロマン派や現代音楽の感覚からすると、バロック音楽であるこれら2曲の音楽は、ちょっと現代人である我々の感覚とは違うという認識に捉われるが、一方では、音楽自体を素直に聴いてみると、バロック時代の音楽の方が純粋な音楽の悦びに満ち溢れているとも感じられるのだ。つまり、音楽だけの世界に浸りきるという点では、バロック音楽は現在でも、その存在意義を失ってはいないとも言える。ところでバロック音楽とは、どのような音楽を指すのであろうか。一般的には、ヨーロッパ音楽において、17世紀から18世紀半ばまでの音楽を総称して言うようだ。「バロック」の語源は、ポルトガル語の「バロッコ」(ゆがんだ、不揃いな、あるいはいびつな真珠)からきたとも言われている通り、あまりいい意味とも言えなくはない。しかし、逆の意味からは、装飾に富んで、感情を込めた生き生きとした音楽であるとも言える。そして劇音楽(オペラ)や器楽音楽などが相次ぎ登場し、それ以降の西洋音楽の興隆の先駆けになった重要な時代でもあったのだ。

 このCDで演奏しているターフェルムジーク・バロック管弦楽団は、そんなバロック時代の音楽をオリジナル楽器(古楽器)で演奏する演奏団体であり、バロック音を聴くには正にぴったりの楽団である。同楽団は、1979年、カナダのトロントを本拠地として結成された古楽器オーケストラ。ベースとなる奏者は古楽器のスペシャリストの19人で、必要に応じて増強しているそうだ。1981年より、女流のバロック・ヴァイオリニストであるジャンヌ・ラモンが音楽監督兼コンサートマスターを務めている。また同じく1981年にターフェルムジーク室内合唱団を併設している。同楽団の音色は、秋の空を思わせるよう清々しくも鮮やかであり、しかも活き活きとしていて、聴いていて少しも疲れることはない。よく、バロック時代を専門とする楽団は、古色蒼然とした色合いを持っていることも少なくないが、ターフェルムジーク・バロック管弦楽団は、その反対で、現代の我々が聴いても、違和感なくバロック時代の音楽が心地良く耳から聴こえてくる。とても爽やかな古楽器オーケストラだ。

 管弦楽曲「水上の音楽」は、イギリス国王ジョージⅠ世のテームズ河の舟遊びのために作曲され、実際に演奏された曲。作曲年代は、ジョージⅠ世のテームズ河の舟遊びが行われた1715年説と1717年説の2つがあるようだ。現在、遺された楽譜は、「クリュザンダー旧全集版」と「ハレ新全集版」の2つがあり、ともに22の楽章からなっている。このCDは、「クリュザンダー旧全集版」によっている。「ハレ新全集版」によると、全体が3つの組曲に分けられ、第1組曲はホルン、第2組曲はトランペット、第3組曲は木管楽器が特徴的であるという(同CDのライナーノート、筆者:三澤寿喜氏)。曲全体は、いかにも舟遊びの曲らしく、全体に伸び伸びとしており、大らかな気分を満喫することができる。例えば有名な第3曲のアレグロなどを聴くと、前々へと進む船の舳先で、心地良い川風に身を任せ、居ながらにして舟遊びをしているような感覚にさえ思えてくる。「水上の音楽」でのターフェルムジーク・バロック管弦楽団の演奏は、実に緻密に仕上がっており、特に弦と管のバランスが見事と言うほかない。全体はゆったりとしたテンポで進み、現代オーケストラでは到底味わうことが出来ない優雅な雰囲気を醸しだしている。

 管弦楽曲「王宮の花火の音楽」は、8年間続いたオーストリア継承戦争の終結と、戦勝を祝うための記念事業を目的として書かれた曲。祝賀会当日には、序曲の演奏の後、礼砲が鳴らされ、さらに花火が行われたという。この後、花火によって木造の一部に火災が起こったというハプニングがあったが、ヘンデルの「王宮の花火の音楽」の音楽自体は大きな成功を収めたようである。全部で5曲からなるこの曲は、当初管楽器と打楽器のために書かれたが、その後ヘンデル自身によってによって弦楽を伴う形として演奏されている。このCDも管弦楽版によっている。全曲はほとんどがニ長調によっているが、これは祝祭音楽に欠くことのできない金管楽器の特性によるものという。ここでのターフェルムジーク・バロック管弦楽団の演奏は、「水上の音楽」とは、がらりと様相を変え、いかにも戦勝祝賀曲らしく金管楽器を中心に、華やかに、大らかに、そして力強く堂々と奏せられる。その伸びやかな、雄雄しい演奏に、遥か昔のイギリスで多くの人々が集い、戦勝に酔いしれている雰囲気がすぐそこにあるような気分にさせられてしまう。(蔵 志津久)


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