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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇クラウディオ・シモーネ指揮のヴィヴァルディ:協奏曲集「調和の霊感」

2011-09-06 10:35:12 | 古楽

ヴィヴァルディ:協奏曲集「調和の霊感」

指揮:クラウディオ・シモーネ

弦楽合奏:イ・ソリスティ・ヴェネティ(ヴェネツィア合奏団)

CD:ワーナーミュージック・ジャパン WPCS‐22154/5

 ヴィヴァルディの名を聞くと反射的に「四季」を思い浮かべるリスナーも少なくないであろう。それだけ「四季」は、日本人のクラシック音楽ファンに親しまれ、定着ている証なのだと思う。今回のCDは、このヴィヴァルディの「調和の霊感」と名付けられた、全部で12曲からなる協奏曲集である。こちらの方は、「四季」ほどポピュラーではないが、よく聴き通すと(全部で12曲もあるので少々しんどいのだが)、「四季」に劣らず充実した内容となっており、一度その魅力に取り付かれると、「四季」以上に愛着が出てくるとも言えるバロック期の名協奏曲集なのである。まあ、人間と同じように外形だけで判断してはならないのが音楽で、「調和の霊感」という名称そのものが「四季」ほどに親しみがわかない、ということが今イチ人気が出ない原因ではないかと、私なぞは邪推してしまう。「調和の霊感」と言われると神秘的なことは感じられるが、あまり親しみのある言葉ではない。そもそも、「四季」はもともと12曲からなる協奏曲の最初の4曲をピックアップしたものであり、もし、イ・ムジチ合奏団が「四季」の名を付けずに、原曲のまま全12曲を演奏し続けたら、今ほどの人気がでたかどうか疑わしいと思う。

 バロック音楽全盛に時代に比べ、現代は忙しない時代になっているのだから、この「調和の霊感」も、全12曲を全部続けて聴く必要はないわけであり、私に言わせて貰えば、「四季」に対抗するわけではないが、この「調和の霊感」は最後の4曲をピックアップして聴けば全曲の真髄を味わうことができ、しかも、時間に追い掛け回される現代でも、充分に時間の余裕を持って聴くことができると確信している。そんなわけで、前12曲からなる「調和の霊感」の第9曲~第12曲を聴いてみることにしよう。第9曲の第1楽章はアレグロの楽章で、伸びやかな弦の響きが誠に心地よく、よく晴れた草原で思い切って背伸びをしたような爽快さが堪らない。第2楽章のラルゲットは、正に天上の音楽のようであり、心が救われるような気分に浸ることができる。第3楽章は、如何にもバロック音楽スタイルで軽快なテンポが聴くものの心を解きほぐしてくれる。第10番の第1楽章は、お祭りのような雰囲気で盛り上がれる。何か日本の祭りのような雰囲気もあり、親しみが持てる。第2楽章は、ラルゴ-ラルゲット-ラルゴの楽章で、ヴァイオリン奏者の巧みな弓使いにほれぼれとしてしまう。第3楽章は実に堂々としていて、バロック音楽の真髄に触れたようでもあり、音そのものの魅力に思わず惚れ惚れしてしまう。

 第11番は、第7番と同じく全部で4つの楽章を持つ(その他の曲は全て3楽章からなる)。第1楽章は、何か「四季」の音楽にも通じてリスナーに訴えかけるような余韻が素晴らしい。第2楽章は、低音の弦の響きの響きが一際効果的であり、テンポも現代的であり、現代人にも共感が得られよう。第3楽章は、訴えかけてくるようなメロディーが一度聴いたら忘れられない印象をリスナーに強く与えてくれる。ヴィヴァルディ・マジックとでも呼んだらいいような演出効果には思わず脱帽させられる。第4楽章のアレグロは、疾走するスピード感が絶妙であり、この部分だけ取り出して現代感覚をたっぷり味わえる。第12曲の第1楽章は、逆にバロック時代の王宮の一室での式典を見ているような典雅さが何とのいえない雰囲気を醸し出す。同時に何か声を出して口ずさみたくなるようでもあるのだ。第2楽章は、それはそれは、優雅な美しさに満ち溢れた音楽の世界が静々と進んでいく。何とも表現しがたい雅な佇まいがそこにはある。最後の第3楽章は、宮殿で舞踏会が始まったような華やかさが一面を覆いまばゆいばかりだ。

 今回、「調和の霊感」の最後の4曲、第9番~第12番を通して聴いてみたが、「四季」に劣らず、いや「四季」を上回る魅力に溢れた協奏曲集であるという印象を強く受けた。「四季」のファンのリスナーには、特に「調和の霊感」最後の4曲を聴いてほしいものだ。このCDで演奏しているのがクラウディオ・シモーネ指揮のイ・ソリスティ・ヴェネティであり、実にメリハリの効いた演奏であると同時に、情感溢れる雰囲気もたっぷりと味あわせてくれる演奏にもなっており、理想的な「調和の霊感」を再現してくれている。録音場所がトリノのストゥビニージ宮ということで、スタジオ録音とは一味も二味も違った演奏に仕上がっているようだ。指揮のクラウディオ・シモーネ(1934年生まれ)は、イタリアの指揮者であり、これまで多くの録音を通じて日本のファンにもお馴染みである。指揮ぶりは、正統的できっちりとした演奏が特徴だが、このCDでも情緒溢れる演奏も存分に取り入れ、その演奏に思わず引き込まれてしまうほどの出来上がりを見せている。イ・ソリスティ・ヴェネティ(ヴェネツィア合奏団)は、クラウディオ・シモーネが設立した、イタリア・ヴェネツィアを本拠地とする弦楽アンサンブルであり、度々来日している。このCDでも一糸乱れぬ見事な弦楽合奏を聴かせてくれている。(蔵 志津久)


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