★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ムター&トロンハイム・ソロイスツのヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」

2011-05-24 11:26:57 | 古楽

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」
         「悪魔のトリル」

ヴァイオリン&指揮:アンネ=ゾフィー・ムター

弦楽合奏:トロンハイム・ソロイスツ

CD:ユニバーサル ミュージック UCCG‐50075

 ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集「四季」ほど、日本のリスナーに愛されているバロック音楽は他にあるまい。クラシック音楽ファンは言うに及ばず、クラシック音楽を聴く機会が少ない人々にまでその名は知れ渡っている。この理由の一つは、「四季」という表題が(ヴィヴァルディが付けたものではないようであるが)、日本人なら誰でもぐっとくるネーミングであるからだろう。日本のいい所を日本人に挙げさせると、必ず「四季があること」という項目が入ってくる。古来、万葉の頃から日本人は、四季の移り変わりに敏感に反応し和歌などに詠み連ねてきた。一般にバロック音楽というと、多くの日本人にとっては、理解し難い宗教色の印象が濃く、ともすると敬遠気味となる。ところが、ヴィヴァルディの「四季」だけは、日本人の感覚で捉えることができるので、理屈を超えて良い印象を持つようだ。ヴィヴァルディの「四季」を聴いて、クラシック音楽ファンになった人も少なくないはずだ。それに、曲の身の丈も日本人に合っているように思う。何かしら日本古来の古楽にも似て、こじんまりとしたまとまり感が、これまた日本人向きだ。

 そんなことで、これまでどれほど多くのヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」が発売されて来たことであろうか。その中には名盤も数多く、その中から1枚を選ぶのは至難の技だ。そこで今回は、思い切って“ヴァイオリンの女王”ことアンネ=ゾフィー・ムターがヴァイオリン&指揮と指揮をし、弦楽合奏がトロンハイム・ソロイスツの盤を聴いてみたい。このトロンハイム・ソロイスツは、1988年に結成された若手17人からなるノルウェーのアンサンブルである。しかもこれはライヴ録音というから珍しい。曲の性格上、「四季」の演奏は、完璧に弾き込んだ方が、より曲の真髄に迫ることができそうな感じがして、一般にはスタジオ録音盤の方を勧めたい、とは思う。しかし逆にいうと、ムターの最近の円熟味を、切れ味がいいライヴでの一発勝負が聴けるところがこの盤の最大の売りなのだ。聴いてみると、ムターの感受性豊かなヴァイオリン&指揮が実に新鮮であり、そのムターが意図する「四季」を必死になって再現しようとしている、トロンハイム・ソロイスツの若き弦の響きがこれまた新鮮で、従来の「四季」の古色悄然としたイメージ(言い過ぎか)を一新した快演といってもいいのではなかろうか。

 第1協奏曲「春」。第1楽章は、極普通のテンポで始まる。ムターはただいたずらに自分の表現を強調するより、ヴィヴァルディの豊かな感受性を大事にして演奏するが、その演奏内容は、限りなくまろやかで思わず聴いていても笑顔がこぼれるといった感もして、納得のいく演奏。第2楽章は、微妙なニュアンスを巧みに演出しており、ムターの感性が一挙に顔を覗かせる。繊細でしかもゆったりとした雰囲気に思わず聴き惚れる。第3楽章は、トロンハイム・ソロイスツの若々しいアンサンブルを心ゆくまで堪能できる。少々未熟な響きのようにも聴こえるがそこは若さでカバーといったところか。第2協奏曲「夏」の第1楽章は、周到に準備された弦の響きが誠に美しく、リスナーの心に直接強いインパクトを与えるのに成功しているようだ。第2楽章は、稲妻と雷の表現のライヴ独特の生なましさがいい。「四季」のライヴの良さを実感できる。第3楽章の迫力はムターならではでの個性溢れるものに仕上がって聴き応えたっぷり。

 第3協奏曲「秋」の第1楽章は、ヴィヴァルディの「四季」の代名詞みたいな楽章であるが、ムター&トロンハイム・ソロイスツのコンビは、「四季」をバロック音楽としてではなく、現代にも通用する感覚で演奏するので、思わず聴いていて手に汗握るというとオーバーであるが、もうバロック音楽を越えて、ヴィヴァルディが現代に蘇ったような素晴らしい演奏を聴かせてくれる。第2楽章は、一転して緩やかで幽玄の趣いっぱいの楽章だが、ムター&トロンハイム・ソロイスツはさらりと表現してそつがない。第3楽章は、「狩り」の音楽だそうであるが、ここではムターのヴァイオリンが俄然本性を現して迫力充分。第4協奏曲は「冬」。第1楽章は、寒さで凍える表現がライヴならではの鋭い表現となっており、聴いていて十分の満足感が得られる。ムターとトロンハイム・ソロイスツの息がぴたりと合っているところも聴きどころ。第2楽章。この楽章だけ聴いても「四季」はいいなと感ぜられるほどの名曲。ムターのヴァイオリンも夢見るように美しいメロディーを奏でる。ここでも現代的な「四季」となっており、自然体で聴くことができる。そして、最後の第3楽章に入っていくが、ムター&トロンハイム・ソロイスツは、あたかも思いのたけをぶつけるように情熱的な演奏に終始する。最後は陰影が強調されたライヴのいいところが前面に押し出された演奏で終わる。(蔵 志津久) 


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