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◇クラシック音楽CD◇小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラのベートーヴェン:交響曲第5番「運命」/第7番

2017-04-11 07:50:01 | 交響曲(ベートーヴェン)

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」/第7番

指揮:小澤征爾

管弦楽:サイトウ・キネン・オーケストラ

録音:2000年9月8日~10日(交響曲第5番「運命」)、1993年9月4日~12日(交響曲第7番)<ライヴ録音>

CD:ユニバーサルミュージック UCCD‐50003

 サイトウ・キネン・オーケストラは、長野県松本市で毎年8、9月に開かれる「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」(旧称:「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」)において編成されるオーケストラで、サイトウ・キネン財団が運営している。桐朋学園創立者の一人である斎藤秀雄の没後10年にあたる1984年、斎藤に師事した小澤征爾と秋山和慶を中心に、国内外で活躍する斎藤の教え子たちが結集し、同年9月に東京と大阪で開かれた「斎藤秀雄メモリアル・コンサート」で特別編成されたオーケストラを母体としている。ヨーロッパやアメリカへもコンサートツアーを行い、1990年にはザルツブルク音楽祭へ出演するなど世界的にも高い評価を受けている。2008年にはグラモフォン誌による“世界のトップ20オーケストラランキング”にも選ばれた。また、2016年小沢征爾がサイトウ・キネン・オーケストラを指揮した、まつもと市民芸術館における歌劇「こどもと魔法」(ラヴェル作曲)の演奏を収めたアルバムが「グラミー賞」の最優秀オペラ録音賞を受賞した。設立当初は斎藤の弟子や桐朋学園音楽部卒業生が中心であったメンバーも、近年ではメンバーの高齢化などから斎藤の孫弟子や外国人演奏者の出演が多くなってきている。

 指揮の小澤征爾は、1935年、満洲国奉天市(中国瀋陽市)に生まれる。齋藤秀雄の指揮教室に入門。桐朋学園短期大学(現在の桐朋学園大学音楽学部)を卒業後、1959年貨物船で単身渡仏。1959年パリ滞在中に第9回「ブザンソン国際指揮者コンクール」第1位となったほか「カラヤン指揮者コンクール」第1位となり、指揮者のヘルベルト・フォン・カラヤンに師事。1960年「クーセヴィツキー賞」を受賞。指揮者のシャルル・ミュンシュ、レナード・バーンスタインに師事。1961年ニューヨーク・フィルハーモニック副指揮者に就任。1970年タングルウッド音楽祭の音楽監督に就任。同年サンフランシスコ交響楽団の音楽監督に就任。1973年にはボストン交響楽団の音楽監督に就任したが、以後30年近くにわたり同楽団の音楽監督を務めた。2002年日本人指揮者として初めて「ウィーン・フィルニューイヤーコンサート」を指揮。同年ウィーン国立歌劇場音楽監督に就任。2008年文化勲章を受章。2010年ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団により、名誉団員の称号を贈呈される。2015年「ケネディ・センター名誉賞」を日本人として初の受賞。2016年ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団により、名誉団員の称号を贈呈される。

 サイトウ・キネン・オーケストラにその名を残す斎藤秀雄(1902年―1974年)は、アマチュアのマンドリンクラブの指揮者として頭角を現し、チェリストとしてドイツに渡り、帰国後は子供のための音楽教室の教育に携わり、桐朋学園の創設者の一人となる。独自の指揮法である“斎藤メソッド”を編み出したが、それを1956年に「指揮法教程」として出版した。これによると、指揮法は、7つの運動に分けられている。それらは「叩き」「平均運動」「しゃくい」「瞬間運動」「先入法」「撥ね上げ」「引掛け」と名付けられた。「まず、はじめに『叩き』と称される運動がすくなくとも3か月は続けられた。優秀であれば次の教程に進むことは可能なのだが、『叩き』にはそれだけの時間がかかってしまうのである。これを修了することができなければ、次の課程に進むことは許されない」(中丸美繪著「嬉遊曲、鳴りやまず 斎藤秀雄の生涯」新潮社)。この時の斎藤の教育はかなり厳しいもので、指揮科の生徒たちは「月月火水木金金」(当時の海軍用語で土日返上で働くという意味)の生活を強いられたが、斎藤自身も教室を去るのはいつも夜10時だったという。このような猛特訓を経て、斉藤メソッドをいち早く世界へ向かって体現したのが、桐朋学園音楽科の一期生の小澤征爾、さらに秋山和慶たちだったのである。

 このCDには、小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラによるベートーヴェン:交響曲第5番「運命」と第7番が収められているが、交響曲第7番が1993年9月、そして交響曲第5番「運命」がその7年後の2000年9月のライヴ録音である。この2つの録音でで小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラの持つ2つの側面が聴き取れ興味深いものがある。交響曲第7番の演奏は、自由奔放と言おうか、粗野にも近い男性的な荒々しさを臆面もなく表現する。決して枠にとらわれず、オーケストラのメンバーひとり一人が演奏自体を楽しみながら演奏していることがよく聴き取れる。斎藤秀雄は生徒たちに「アンサンブルは時間の一致じゃない、心の一致だ」と教えていたという。正にこの演奏は、斎藤のこの言葉を体現したことにほかならないとも言えよう。共に演奏する歓びがリスナーに直接伝わってくる。一方、交響曲第5番「運命」は、細部に至るまで神経が行き届いた完成度の高い仕上がりを見せる。これは、小澤征爾がボストン交響楽団と録音した時の雰囲気によく似ている。リズム感に溢れ、そして遠近法のようなダイナミックさで満たされた緊張感ある演奏内容となっている。この伸びのある瑞々しい表現は、脱帽ものと言ってもいいほど。斎藤秀雄が生徒たちに託した夢がここに実現したかのようだ。(蔵 志津久) 


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