★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CDレビュー◇カツァリスのバッハ:チェンバロ協奏曲第1番/第5番/第3番/第6番

2019-08-06 09:39:20 | 協奏曲(ピアノ)

バッハ:チェンバロ協奏曲第1番 ニ短調 BWV1052
                             第5番 ヘ短調 BWV1056          
                第3番 ニ長調 BWV1054          
                第6番 ヘ長調 BWV1057

ピアノ:シプリアン・カツァリス

指揮:ヤーノシュ・ローラ

管弦楽:フランツ・リスト室内管弦楽団

CD:ワーナーミュージック・ジャパン WPCS‐21047

 バッハのチェンバロ協奏曲は、チェンバロ1台用は全部で8曲遺されている。このほか、2台用が3曲、3台用が2曲、4台用が1曲ある。これらのチェンバロ協奏曲は、当時バッハがライプツィヒのコレギウム・ムジクムの指揮者を務めていたため、その演奏会のために作曲された。しかし、その多くは、バッハの旧作か他の作曲家たちの作品を編曲したもの。また、2台用~4台用を書いたのは、長男や次男、さらには弟子たちが演奏するために書かれたようだ。このCDに収録されている曲の由来は次の通り。第1番の原曲は、消失したヴァイオリンのための協奏曲であると考えられている。ただし、原曲がバッハ自身の作品であったかどうかについては確証がない。第5番 の原曲は、消失したヴァイオリン協奏曲 ト短調であるとされているが、この原曲もバッハ自身の作品か、他の作曲家の作品であるかどうか不明。第2楽章はカンタータ第156番「わが片足すでに墓穴に入りぬ」のシンフォニアと同一の音楽で、「バッハのアリオーソ」として親しまれている。第3番の原曲は、バッハのヴァイオリン協奏曲第2番。第6番の原曲は、バッハのブランデンブルク協奏曲第4番である。

 ピアノのシプリアン・カツァリス(1951年生まれ)は、フランス、マルセイユ出身。1964年パリ音楽院に入学。1969年ピアノで最優秀賞を受賞。さらに室内楽でも1970年最優秀賞を受賞した。 1966年シャンゼリゼ劇場において、パリで最初の公開コンサートを開く。1970年「チャイコフスキー国際コンクール」に入賞。1972年ベルギーで行われた「エリザベート王妃国際音楽コンクール」において9位入賞。同コンクールでは、西欧出身者として唯一の入賞者であった。1974年ヴェルサイユで「ジョルジュ・シフラ国際ピアノコンクール」に出場し、最優秀賞を受賞する。1977年ブラチスラヴァにおけるユネスコ主催の「国際青年演奏家演壇」に入賞。 カツァリスの演奏は超絶技巧的な面と詩人的な両面を併せ持つ。代表的な録音に、ショパンのワルツ集やベートーヴェン交響曲全集(フランツ・リスト編曲)がある。現在は、カツァリス自身が設立したレーベル「PIANO21」において様々なレコーディングや自身の過去の録音の復刻を行っている。

 フランツ・リスト室内管弦楽団の音楽監督のヤーノシュ・ローラ(1944年生まれ)は、ハンガリー、ケーテレク出身。1957年から1962年までバルトーク音楽高等学校でヴァイオリンを学び、1963年からフランツ・リスト音楽院に進学。在学中の1963年からフランツ・リスト室内管弦楽団に参加。1968年に音楽院を卒業し、翌年にはハンガリー放送主催のヴァイオリン・コンクールで第3位入賞。1979年からフランツ・リスト室内管弦楽団の音楽監督(コンサートマスター)を務めている。フランツ・リスト室内管弦楽団は、ハンガリーのブダペストに本拠地がある室内オーケストラで、1963年にフランツ・リスト音楽院教授のフリギエシュ・シャンドールを中心として、同音楽院の学生達により設立。基本編成は弦楽アンサンブルだが、曲により管楽器も加わる。基本的には指揮者を置かず、ローラのリーダーシップにより演奏を行っており、高いアンサンブル精度を誇る。

 バッハのチェンバロ協奏曲は、チェンバロ(ハープシコード、クラブサン)で演奏されるのが基本であるが、最近ではピアノでの演奏も多くなってきている。このCDのカツァリスもピアノで演奏している。この場合、チェンバロ協奏曲ではなくピアノ協奏曲と表記される場合もある。このCDでのカツァリスのピアノ演奏は、流麗そのものであり、全体にキラキラと光り輝くような躍動感に包まれている。音色は透き通っているが、冷たさは微塵も感じられず、逆にその暖かい音色にリスナーは癒される。カツァリスはフランス人であるが、どことなくイタリア風の明るさを思わせるような演奏に思わず引き付けられる。特筆されるのは、緩やかな楽章での細やかな神経が行き届いた演奏内容だ。例えば、第1番の第2楽章や第5番の第2楽章などを聴いていると、静寂の中に深い精神的な営みが繰り広げられ、あたかもカツァリスの独白を聴く思いがする。全4曲を聴き終えると、バッハのチェンバロ協奏曲が持つ全体の構成美が、リスナーの前にくっきりと浮かび上がるような演奏内容に仕上がっている。特に、カツァリスの真摯なその演奏内容には感動すら覚える。フランツ・リスト室内管弦楽団も、カツァリスにぴたりと寄り添い、深みのある音づくりに成功している。(蔵 志津久) 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ◇クラシック音楽◇コンサート情報 | トップ | ◇クラシック音楽◇コンサート情報 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

協奏曲(ピアノ)」カテゴリの最新記事