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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ポリーニと今は亡きアバドのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番/第5番「皇帝」

2014-10-07 11:49:35 | 協奏曲(ピアノ)

 

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番/第5番「皇帝」

ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ

指揮:クラウディオ・アバド

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

CD:ユニバーサルミュージック UCCG-2076(ライヴ録音)

 このCDは、マウリツィオ・ポリーニのピアノ、クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルの伴奏による演奏会のライヴ録音盤である。アバドは残念ながら2014年1月20に亡くなってしまったが、ポリーニは、未だ現役として活躍している。この現代を代表する二人の演奏家にによるベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番/第5番というのであるから、演奏内容は優れたものになっていることは、聴く前から充分に想像できるが、果たして二人がどうベートーヴェンに取り組むのかの興味は尽きない。マウリツィオ・ポリーニ(1942年生まれ)は、イタリア・ミラノの出身。1957年、15歳でジュネーブ国際コンクール第2位。1960年、18歳で第6回ショパン国際ピアノコンクールで第1位。その後、ミラノ大学で物理学を学び、イタリアの名ピアニストのアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリに師事する。1974年、初来日を果たしている。現在、世界最高峰のピアニストとして高い評価を得ているのはご存じの通り。

 指揮のクラウディオ・アバド(1933年ー2014年)は、ポリーニと同じ、イタリア・ミラノ出身。ウィーン音楽院で学ぶ。1959年に指揮者デビューを果たした。1968年ミラノ・スカラ座の指揮者となり、1972年には音楽監督、1977年には芸術監督に就任。さらに、1979年ロンドン交響楽団の首席指揮者、1983年には同楽団の音楽監督に就任した。1986年には、ウィーン国立歌劇場音楽監督に就任。その後、カラヤンの後任としてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督に就任し、現代最高の指揮者としての名を欲しいままとする。2000年に病魔に倒れたが、ベルリン・フィル辞任後もルツェルン祝祭管弦楽団などを指揮し活躍していた。来日直前の今年、胃癌により80年の生涯を閉じた。このCDの演奏は、1992年12月と1993年1月で、アバド60歳という指揮者として脂の乗り切った時に、手兵ベルリン・フィルを指揮した演奏を聴くことができる。

 ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番は、1806年に作曲された作品。ピアノ協奏曲として、冒頭が独奏楽器のみで開始されるなど、第5番と並んで革新的手法が採用されていることで知られる。今でこそピアノ協奏曲の名曲として知られる同曲ではあるが、初演時には不評であったらしく、ベートーヴェンの死後、メンデルスゾーンが取り上げてから評価が定まったという。第5番が男性的な力強さの「皇帝」という名称で親しまれているが、この第4番は、女性的な優美さが特徴であり、さしずめ「女王」とでも呼んだらいいのではとも思われるほど。ここでのポリーニの演奏は、ポリーニ特有の透明感あるピアノタッチが冴えわたり、流れ出るような繊細さが辺りを覆い尽くし、滅多に聴くことにできない優雅な第4番の演奏となった。ピアノの一音一音がキラキラと光り輝くような美しさに彩られている。それでいて、きちっとしたメリハリを持っている演奏ため、情緒にながされることは決してない。アバド指揮ベルリン・フィルは、そんなポリーニのピアノ演奏に後ろから寄り添うように伴奏するが、時折、前面に出て、演奏全体を高揚感あるものにしている。

 ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番は、1809年に完成した作品で、「皇帝」の名で知られている。「皇帝」という名はベートーヴェンが付けたものではなく、後世付けられたもので、曲が「皇帝」のように威風堂々としているからとか、ピアノ協奏曲の中の「皇帝」だからとか、諸説ある。「皇帝」の第1楽章の出だしを聴いただけで、誰もがその威厳に満ちた堂々とした佇まいに圧倒されるであろう。ここでのポリーニのピアノ演奏は、第4番とは趣をがらりと変え、男性的な力強さに満ち満ちた豪快なピアノタッチが印象的だ。テンポも中庸を心得、非常に安定感のあるバランスの良い演奏となった。ポリーニのピアノ演奏は、透明感のある音質に加え、常に音が流れ、自然な音づくりが特徴といえようが、ここでは、さらに力強さも加わり、「皇帝」を演奏するには、申し分ないものになった。アバド指揮ベルリン・フィルの伴奏も、第4番の時のようなポリーニを後ろから支えるのではなしに、最初からポリーニのピアノと対等に渡り合うような存在感を見せつける。ポリーニとアバド指揮ベルリン・フィルとががっぷりと組み合うことによって、如何にも「皇帝」らしい、男性的な威厳のある演奏内容となっており、リスナーはその演奏内容に酔わされること請け合いだ。特に第2楽章でポリーニの独白のようなピアノとアバド指揮ベルリン・フィルとが微妙に絡み合う様は秀逸。(蔵 志津久)


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