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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ツィマーマンのリスト:ピアノ協奏曲第1番/第2番/「死の舞踏」

2014-12-09 10:19:12 | 協奏曲(ピアノ)

リスト:ピアノ協奏曲第1番/第2番
    ピアノとオーケストラのための「死の舞踏」

ピアノ:クリスティアン・ツィマーマン

指揮:小澤征爾

管弦楽:ボストン交響楽団

CD:ユニバーサルミュージック UCCG‐2081

 ピアノのクリスティアン・ツィマーマンは、1956年、ポーランドのサブジェに生まれる。カトヴィツェ音楽院でアンジェイ・ヤシンスキに師事する。1973年ベートーヴェン国際音楽コンクール優勝。1975年第9回ショパン国際ピアノコンクールで史上最年少(18歳)優勝を果たす。1996年にはスイスのバーゼル音楽院の教職に就き、後進の指導にも当たる。1999年、ショパン没後150年を記念して、ポーランド人の若手音楽家をオーディションで集め、ポーランド祝祭管弦楽団を設立。2005年、フランスのレジオン・ドヌール勲章(シュバリエ章)を受章した。指揮の小澤征爾は、1935年、満洲国奉天市(中国瀋陽市)に生まれる。1951年、成城学園高校で齋藤秀雄の指揮教室を経て、桐朋学園短期大学で学ぶ。1959年から単身渡仏。1973年、ボストン交響楽団の音楽監督に就任。2002―2010年のシーズンまでウィーン国立歌劇場の音楽監督を務めた。 2008年文化勲章を受章。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団名誉団員。

 リストのピアノ協奏曲第1番は、4つの連続した部分から構成され、全体は単一楽章性で書かれている。第3楽章でトライアングルが活躍することから、「トライアングル協奏曲」とも言われる。初演は1855年、ヴァイマルの宮廷でベルリオーズの指揮と作曲者自身のピアノ演奏によって行われた。このCDでのツィマーマンは、流れるような抒情的味をふんだんに盛り込んだピアノ演奏を聴かせる。もうこれはリストの作品と言うよりは、ショパンのピアノ協奏曲を思い起こさせるような幻想の世界へと迷い込むようである。所々で小澤征爾指揮のボストン交響楽団が全開で伴奏を聴かせようやく、「そうだこれはリストのピアノ協奏曲だった」と思わせるほど異次元のリスト:ピアノ協奏曲第1番となっている。しかし、このことは、ツィマーマンの演奏に限っては、マイナス評価でなく、曲の持つ可能性に新たな次元を切り開くというプラスの評価となる。この録音は、ツィマーマンが現在世界最高峰のピアニストの一人であることを実証するような演奏内容と言えよう。

 リストのピアノ協奏曲第2番は、当初「交響的協奏曲」という名称が付けられていたが、後に取り下げられた。全体は6つの部分からなる単一楽章で書かれており、ピアノ協奏曲第1番よりもさらに形式が自由で、狂詩曲風あるいはピアノと管弦楽が一体になった交響詩的な性格が顕著となっている。リスト:ピアノ協奏曲第2番におけるツィマーマンは、第1番の時とはがらりと性格を変え、構成美を前面に打ち出した力強いピアノ演奏を聴かせる。この曲の“ピアノと管弦楽が一体になった交響詩”という性格が、手に取るように分かる。まるで、物語を語るようなツィマーマンのピアノ演奏に、多くのリスナーは満足を覚えるであろう。それを一層引きた立てているのが小澤征爾指揮のボストン交響楽団の伴奏だ。このオーケストラの十分な厚みのある音は、それだけで魅力たっぷりだ。ピアノとオーケストラがあたかも対話しながら曲が進んでいく様が、何とも言えず魅力的で、聴き惚れる。ツィマーマンと小澤征爾とボストン交響楽団の持つ高い音楽性が、深いところで結び付いているのだ。

 リストのピアノとオーケストラのための「死の舞踏」の原題は「死の舞踏-『怒りの日』によるパラフレーズ」であり、グレゴリオ聖歌の「怒りの日」の旋律を用いた一種の変奏曲となっている。リストは1838年にイタリアを旅したが、その時、ピサの墓所カンポサントにある14世紀のフレスコ画「死の勝利」を見て深い感銘を受けたと言われる。ここでの霊感をもとに、最後の審判を想起させる「怒りの日」を主題として用い、ピアノとオーケストラのための管弦楽曲を作曲したのが「死の舞踏」である。1849年に一旦完成したが、その後改作を重ね、初演は、1865年にハンス・フォン・ビューローの指揮で行われた。このCDで、ツィマーマンのピアノ演奏は、実に重く、悲しく進行する。これまでのピアノ協奏曲の華やかな世界とは一転決別して、ここでは深い精神性に貫かれた神聖で劇的な世界を表現し尽す。ツィマーマンの演奏は、あたかも鋭く先の尖った槍のような武器を持って戦う戦士の姿を思い起こさせられる。ここまで聴いてきて、このCDアルバムにおいてツィマーマンは、3つの異なるリストの姿を描き分け、リスナーに届けることに狙いがあったように読み取れた。(蔵 志津久)


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