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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ギレリス/ムラヴィンスキーのチャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番

2009-05-21 09:14:24 | 協奏曲(ピアノ)

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番
           ピアノソナタop80

ピアノ:エミール・ギレリス

指揮:エフゲニー・ムラヴィンスキー

管弦楽:レニングラード・フィルハーモニー交響楽団(現サンクトペテルブルグ・フィル
     ハーモニー交響楽団)

CD:Rossian Disc RD CD 11 170

 このチャイコフスキーのCDは、ピアノ協奏曲第1番が1971年3月30日・レニングラード・フィル大ホール、ピアノソナタop80が1962年・モスクワにおける、ともにライブ録音盤である。ライブ録音にしては音質が良く、今でも十分にその演奏を楽しむことができる。ピアノ協奏曲第1番におけるエミール・ギレリスの出来は最高で、完璧な技巧によって裏打ちされた鬼気迫るほどの壮絶な演奏振りは、絶対に他のCDでは得られない完全燃焼の名演だ。何かに追われているかのような凄まじい迫力で弾きこなす反面、なんともいえない柔らかで馥郁とした味のある演奏は、ギレリスならではの演奏だ。やはりライブ録音は演奏家が持っている能力のすべてを曝け出す魔力がある。

 さらに、ムラヴィンスキーの指揮がギレリスに負けず劣らず、チャイコフスキーの暗い情念が渦巻くような世界を十二分に描き切っており、聴く者を満足させずには置かない。ギレリスのピアノとムラヴィンスキーの指揮ぶりとが激しく交差して展開される様は迫力満点で、クラシック音楽の醍醐味を存分に味あわせてくれる。この演奏を聴いていると、1970年~1980年頃がクラシック音楽にとっては、一番幸福な時ではなかったか、と思わず感じてしまうほどである。

 チャイコフスキーのピアノ協奏曲には数多くのCDがあるが、私はロシアの演奏家によるものが一番しっくりと聴ける。ロシア以外の演奏家でチャイコフスキーを得意にしている人はたくさんおり、CDも数多く残されているが、これらは演奏技術的には優れていても何かが欠けている。ロシア特有の力強さとほの暗さとで、ロシア出身の演奏家には一歩及ばないとでも言ったらいいのであろか。ロシア演奏家の最高峰であるギレリスとムラヴィンスキーの生演奏を収録したこのCDは、その意味で永遠の名録音として残しておきたい一枚ではある。

 今では名曲中の名曲のこのチャイコフスキーのピアノ協奏曲も、作曲された当初はそうでもなかったというから分からない。当時の名ピアニスト ニコライ・ルビンシュテインなどは「無価値で演奏不可能」と一刀両断したそうだ。当時のもう一人の名ピアニスト ハンス・フォン・ビューローが「これほど独創的な作品はない」と評価してやっと世に出たという。ブルックナーの交響曲も作曲当初は演奏不可能と皆にそっぽを向かれたというから、似たような話だ。このCDには、あまり演奏されないチャイコフスキーのピアノソナタが収録されている。第2、3楽章などはなかなか叙情味に溢れ、聴き心地がいい。(蔵 志津久) 


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