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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇オイゲン・ヨッフムのブラームス:交響曲第3番

2012-02-21 10:32:30 | 交響曲(ブラームス)

ブラームス:交響曲第3番

指揮・オイゲン・ヨッフム

管弦楽:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

CD:TOCE‐6929

 ブラームスの音楽は、クラシック音楽らしく、厳格で重々しい印象の曲が多い。この辺がブラームスが好きかどうかの分かれ目になると思う。クラシック音楽に伝統的な重厚さを求めるリスナーにとって、ブラームスは神様的存在になるであろうし、逆にそうでないリスナーにとっては、ブラームスの音楽は、やたら重々しく息苦しく感じるであろう。実はこの対立構造は、ブラームスが作品を発表している時から巻き起こっていたものだ。所謂、ブラームス派とワグナー派の対立である。この2派は、根本的に対立したというより、むしろ近親憎悪的な色合いが濃いのである。というのは、ある意味では、ベートーヴェンの後継者としてどちらが正統的なのか、といった争いの側面を持っており、水と油の対立とは少々異なる。ワーグナーは、ベートーヴェンの第九交響曲を指揮し、盛んに広めようとしていたわけであり、その延長線上に“楽劇”の創造という威業を成し遂げた。一方、ブラームスは、シューマンとの出会いにより、ベートーヴェンのつくり上げた音楽の中の古典的要素を大切にし、さらにロマン的な要素を付け加えた作品を発表して行った。その結果として、二つの派は対立するという構図が生じてしまったわけである。

 そんなブラームス派が最も愛好する作品に4つの交響曲がある。それらはいずれもベートーヴェン以降、交響曲の分野で最も重要な作品とみなされていることでも、その位置づけの高さが分る。その後の交響曲の作曲家を挙げるとすると、ブルックナー、マーラーそれにショスタコーヴィッチぐらいであり、このことからも、ブラームスの4つの交響曲が如何に現在でも重要であるかを推し量ることができよう。今回はこの中から第3番を聴いてみよう。この第3番は、ブラームスの「英雄交響曲」と言われることがある。それは、この交響曲がブラームスにしては明快な音楽となっている上、外部に向かって、大らかに主張を繰り広げるような雰囲気を持っているからだろう。あたかもベートヴェンの交響曲第3番「英雄」を連想させるためでもあるからかもしれない。ブラームスにしては比較的短い曲であり、晦渋さがなく、聴きやすいことも好まれる理由の一つだろう。残りの3つの交響曲のうち、第1番は「第十交響曲」と言われる通り、ベートーヴェンの「第九交響曲」を継ぐ内容を持つ交響曲として、現在でも高い評価を得ている。交響曲第2番は、ブラームスの「田園交響曲」とも言われ、牧歌的で爽やかな印象を持つ。そして交響曲第4番は、いかにもブラームスらしい内向的な側面と古典音楽に回帰したような面を併せ持つ優れた交響曲。

 ここで指揮しているのは、ドイツ・オーストリア音楽の指揮では、当時一際高く評価されていたドイツ人指揮者オイゲン・ヨッフム(1902年―1987年)である。ミュンヘン音楽大学に学んだ後、メンヒ=グラドバッハ歌劇場の補助指揮者および第二楽長からキャリアをスタートさせている。1929年―1930年、フルトヴェングラーの推薦でマンハイム国立劇場第一楽長を務めた。若くしてフルトヴェングラーの推薦を受けたということから見ても、ドイツ・オーストリア音楽の指揮において若くしてい如何に優れた才能を発揮していたかが推測できる。1934年から第二次世界大戦後の1945年まで、ハンブルグ国立劇場およびハンブルグ・フィルの音楽監督・常任指揮者として活躍。まだ30歳を超えたばかりという若さであった。1949年にバイエルン放送交響楽団の創設に参画し、同楽団をドイツ有数のオーケストラに育て上げている。1961年―1964年にアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の常任指揮者を務めた。さらにバイロイト音楽祭やヨーロッパ各国において客演し、中でもこのCDで演奏しているロンドン・フィルからは名誉指揮者の称号を与えられるほど関係が深かった。録音でもオイゲン・ヨッフムは、今に残る業績を残している。それは、ベートーヴェン/ブラームス/ブルックナーの交響曲全集であり、今に至るまでいずれも高い評価が与えられている。今回のCDはそのブラームス交響曲全集の中の1枚である。

 ブラームス:交響曲第3番の第1楽章は、実に堂々と悠然と演奏が始まり、この響きを聴いただけでオイゲン・ヨッフムの指揮するブラームスの奥深さに思わず引き込まれるようである。実に淡々と演奏が進むが、少しの弛緩もなく、心地良い緊張感がリスナーの全身に染み渡る。ブラームスの音楽の重厚さが、こんなにも心地良いものかと改めてブラームスの音楽の凄さを実感させられる。第2楽章は、何か物語でも聴かされているようでもあり、そのゆっくりとしたテンポの合間から時折覗かせる、高揚感は何物にも代えられない充実感を実感することができる。遠近手法で書かれた風景画を見ているようでもあり、心地良い雰囲気を堪能できる。ここでもオイゲン・ヨッフムの指揮は、伸びやかに、深みのあるブラームスの世界を描き出し、誠に見事と言うほかない。第3楽章は、懐かしさに溢れ、しかも分厚いロマンチックなメロディーがリスナーの前にば~と広がる。ここではオイゲン・ヨッフム&ロンドン・フィルは、完全に一体化して、実に繊細な演奏をリスナーに聴かせてくれるのだ。この辺はもうオイゲン・ヨッフム&ロンドン・フィルしか表現不可能なような境地の演奏であり、リスナーは身も心もただただ聴き惚れてしまう。最後の第4楽章は、第1楽章と同様、堂々とした構えのブラームスがそこには聳える。圧倒的な力強さなのであるが、オイゲン・ヨッフムは一方的にオーケストラを鳴らすことはしない。あくまで手綱を絞り、時折瞬間的に爆発させるのだ。ブラームスを知り尽くしたオイゲン・ヨッフムの指揮に、リスナーは知らず知らずのうちに魅入られてしまう。(蔵 志津久)


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