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◇クラシック音楽CD◇カルミナ四重奏団のシューベルト:弦楽四重奏曲「死と乙女」/「ロザムンデ」

2012-08-07 10:43:21 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

シューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」
        :弦楽四重奏曲第13番「ロザムンデ」

弦楽四重奏:カルミナ四重奏団
          ヴァイオリン:マティーアス・エンデルレ/ヴァイオリン:スザンヌ・フランク/
          ヴィオラ:ウェンディ・チャンプニー/チェロ:シュテファン・ゲルナー

CD:コロムビアミュージックエンタテインメント DENON COCO‐70970

 弦楽四重奏曲は、ハイドンやモーツァルトの作品について見ると、いかにも宮廷の音楽らしい雅な雰囲気に包まれたものが多く、リスナーもそれ以上のものはこれらの作品に求めることはない。また、シューマンやブラームスの弦楽四重奏曲は、ロマンの香りが発散されるような情緒纏綿とした趣に彩られ、リスナーはロマンの想い浸リきる。これらの弦楽四重奏曲とがらりと趣の違うのがベートーヴェンの弦楽四重奏曲である。個人の精神の奥深く宿る感情の思いの丈を精一杯吐露した独白のような曲が多く、そう気安く入り込めそうもない世界を形成している。これらに対してシューベルトの弦楽四重奏曲はというと、作曲された時代によりその性格が異なり、全15曲を通して聴いてみると、他の作曲家の弦楽四重奏曲の性格を全て内包しているようにも思えてくる。第11番までは、ハイドンやモーツァルトの作品のように典雅に、あくまでも親密な者同士が音楽を楽しむ雰囲気が強い。それが発展し、今回のCDである第13番「ロザムンデ」のように、ロマンの香りが濃い作品となり、さらに、第14番「死と乙女」のように、深遠で精神的なベートーヴェンの作品のような深みのある作品へと繋がっている。

 今回のシューベルトの弦楽四重奏曲を演奏しているのは、たびたび来日して日本のファンも多い、お馴染みのカルミナ四重奏団である。カルミナ四重奏団は、スイスのチューリッヒを拠点として1984年に創設された。結成早々、数々の国際コンクールで入賞を重ね、国際的演奏活動を展開し、これまで世界トップクラスの弦楽四重奏団として、その地位を確固たるものにしている。録音にも積極的に取り組み、これまでグラモフォン賞、ディアパソン誌賞、ドイツ・レコード大賞を受賞。また、グラミー賞にノミネートされるなど常に話題を集めてきた。古典的な弦楽四重奏曲に取り組む一方、シマノフスキの弦楽四重奏曲、さらにはシェーンベルクやベルクの弦楽四重奏曲に取り組むなど、意欲的な取り組みをしてきている。「世界のトップクラスの弦楽四重奏団の中で、カルミナ四重奏団が当代きっての大胆なアンサンブルであるのは間違いなく、常にユーモアと洗練が交錯した演奏を聴かせてくれる」(シュトゥットガルト・ナッハリヒテン・ニュース紙)と評価も高い。このCDでもその実力を十分に見せ付けている。従来我々リスナーが聴き慣れた美しい「死と乙女」や「ロザムンデ」を、このCDに期待すると肩透かしを食う。そこにあるのは大胆な発想に基づいてシューベルトの心情に迫る、カルミナ四重奏団ならではの息づかいがある。これまでに無い、新鮮で深みのあるシューベルトの弦楽四重奏曲を聴くことができるのだ。

 第14番「死と乙女」は、第13番「ロザムンデ」と同時期に着手されたが、何らかの事情で放置されていたという。「死と乙女」という標題は、1717年にシューベルトがマティアス・クラウディスの詩に作曲した歌曲「死と乙女」に由来する。つまり、シューベルトがそれまでの曲想とは異なり、「死」という問題に真正面から取り組んだ弦楽四重奏曲なのである。このため全4楽章が全て短調で書かれており、この意味ではベートーヴェンの四重奏曲に比較的近い性格の曲と言えるかもしれない。ただ、さすがシューベルトの曲らしく、ベートーヴェンの曲のように精神の奥へ奥へと入り込むようなことはなく、一部にロマン的雰囲気を残しながらの展開となる。第1楽章のカルミナ四重奏団の集中力は限りなく強く、それがリスナーの心を強く掴んで離さない。第2楽章の「死と乙女」の変奏曲の演奏でカルミナ四重奏団は、あくまで曲の内面に入り込み、深く深く追求して、その結果、シューベルトの死に対する恐怖のような感情を余す所なく表出することに成功している。第3楽章のロンド形式の曲は、メリハリの利いた演奏に終始する。第4楽章は、第2楽章の「死と乙女」の変奏曲を受けたような雰囲気を漂わす。カルミナ四重奏団は、「死」という重いテーマを充分に意識した演奏に徹している。全4楽章を通し、カルミナ四重奏団が「死と乙女」という曲を、原点に戻って再構築して演奏しているという印象を強く受ける。

 第13番「ロザムンデ」は、シューベルトがそれまでの古典的な手法をかなぐり捨て、シューベルト独自の思い切った手法によるロマンの香りたつ記念碑的弦楽四重奏曲だ。第2楽章に劇音楽「ロザムンデ」からのメロディーが取り入れられている所から名付けられた。ただ、ロマン的な曲には違いないのではあるが、どことなく悲哀を含んだ曲でもあり、次の第14番「死と乙女」を予言するような側面も持ち合わせている。シューベルトが弦楽四重奏曲において、独自の立場を切り開く、きっかけともなった曲であることを忘れてはなるまい。ここでのカルミナ四重奏団の演奏は、深みの点で他の四重奏団を一歩リードしている。第1楽章の哀愁を帯びたメロディーをカルミナ四重奏団は実に巧みに表現する。そのスケールの大きな表現力は、限りなく説得力がある。名演だ。第2楽章はお馴染みの「ロザムンデ」のメロディー。ここもカルミナ四重奏団の演奏は、単に表面的な演奏以上の深みがあり、新鮮な感覚が素晴らしい。第3楽章も、かつて作曲した曲が引用された楽章となっているが、そのスケールとロマンの香りに、リスナーは何時ともなく酔いしれる。カルミナ四重奏団の演奏は、それまでの演奏スタイルをがらりと変え、ここでは徹底的に歌う。第4楽章は、情緒たっぷりの活き活きとした楽章であり、何か生きる喜びを感じさせられる。カルミナ四重奏団の演奏は、ここでは実に溌剌としているのが印象的。(蔵 志津久)


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