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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇カルミナ四重奏団のドビュッシー/ラヴェル:弦楽四重奏曲

2014-09-09 10:27:25 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

 

ドビュッシー:弦楽四重奏曲 第1楽章 活気をもって、きわめて決然と    
                   第2楽章 十分に生き生きと、リズミックに    
                   第3楽章 アンダンティーノ、穏やかで表情豊かに    
                   第4楽章 ごく中庸に   

ラヴェル:弦楽四重奏曲 第1楽章 アレグロ・モデラート。きわめて穏やかに    
                第2楽章 十分に生き生きと、非常にリズミックに    
                第3楽章 非常にゆるやかに    
                第4楽章 生き生きと激しく

弦楽四重奏:カルミナ四重奏団

          マティーアス・エンデルレ(ヴァイオリン)
          スザンヌ・フランク(ヴァイオリン)
          ウェンディ・チャンプニー(ヴィオラ)
          シュテファン・ゲルナー(チェロ)

CD:DENON COCO‐73173

 このCDで演奏しているカルミナ四重奏団は、スイスの弦楽四重奏団で、1984年に結成された。ヴィンタートゥーア音楽院で学んだスイス出身の3人のメンバーは、アメリカとフランスで研鑽している。残る一人はアメリカ出身で、インディアナ大学で学んだ後、スイスで研鑽した。このカルミナ四重奏団は、1987年、イタリアのレッジョ・エミリアで行われた「パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏団コンクール」で1位なしの2位に入賞を果たし、一躍その名を世界中に轟かせることとなった。この時5人の審査員はこの「1位なしの2位」という決定に抗議して声明を出したほど。以後、「シャーンドル・ヴェーグ」「アマデウス弦楽四重奏団」「ラサール弦楽四重奏団」等に師事したほか、ニコラウス・アーノンクールからは、古楽奏法を習得するなど、幅広い技法を習得。これにより、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームス、シューベルト、ラヴェル、ベルクなど、そのレパートリーは幅広いものがある。

 1994年にはチューリッヒで、“カルミナ四重奏団と仲間たち”という室内楽シリーズを企画し、世界で活躍するカルテットを招いたほか、1996年~98年には、6つのカルテットとともに「ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会」をヨーロッパ9か国15都市で開催し、話題を集めた。そして現在のカルミナ四重奏団は、ヨーロッパ屈指のカルテットとしての名声を得るに至っている。録音活動も活発に展開し、これまで批評家からも高い評価を受けてきた。「英グラモフォン賞」「仏ディアパゾン・ドール」「仏ル・モンド・ドゥ・ラ・ミュジーク誌」のChoc(最高評価)、「ドイツ批評家賞」など数々の賞を獲得し、グラミー賞にもノミネートされたこともある。現在、スイス・ヴィンタートゥーアのチューリッヒ音楽大学を拠点として、世界各国で演奏活動を展開している。

 このCDは、有名なドビュッシーとラヴェルの弦楽四重奏曲を1枚に収めたもの。ドイツ・オーストリア系では定評のあるカルミナ四重奏団が、フランス音楽を代表する2曲の弦楽四重奏曲をどう弾きこなすか、興味深い録音ではある。ドビュッシーの弦楽四重奏曲は、1893年に完成した曲で、ちょうどその頃「牧神の午後への前奏曲」も作曲されており、いかにもドビュッシーらしい充実した作品が次々と生まれている時期に当たる。このドビュッシーの弦楽四重奏曲は、弦楽四重奏曲史上画期的作品となった。ドイツ・オーストリア系の弦楽四重奏曲は、あたかも交響曲のように厳格なソナタ形式をベースとしている曲がほとんどだが、ドビュッシーの弦楽四重奏曲は、そんなことを無視するがごとく、全体に茫洋とした雰囲気が覆ったような曲に仕上がっている。ドイツ・オーストリア系の弦楽四重奏曲を聴きなれた耳には、一瞬何事が始まったのか?という思いに陥るほど。しかし、じっくりと聴くと、その底には、人間が感じる微妙な感覚の揺らぎがあることが感じ取れる。ドイツ・オーストリア系の弦楽四重奏曲が取り込めなかった感性が、ここには息づいている。ここでのカルミナ四重奏団の演奏は、曲自体の輪郭をしっかりと押さえ、ドビュッシーらしい幽玄さの中に、一本の線が真っ直ぐに伸びているような、明快さを持ち合わした内容となっている。

 一方、ラヴェルの弦楽四重奏曲は、ドビュッシーの弦楽四重奏曲に遅れること10年後の1903年に完成している。フォーレに捧げられたことでも分かるように、実に優美で優しさに満ち満ちた弦楽四重奏曲に仕上がっている。ドビュッシーの弦楽四重奏曲がドイツ・オーストリア系の弦楽四重奏曲に挑戦状を叩きつけるがごとく革新性が込められているのに対し、ラヴェルの弦楽四重奏曲は、むしろ古典的な弦楽四重奏曲に回帰したかのように安定感のある曲となっている。しかし、そこにはやはり、ラヴェルの持つフランス音楽の神髄みたいな感性が盛り込まれ、ある意味ドビュッシーとは一線を引くが、人間の持つ微妙な感性がフルに発揮されている。ここでのカルミナ四重奏団は、ドビュッシーで見せた明快な演奏内容は姿を消し、むしろ幽玄な世界をそこはかとなく醸し出す演奏スタイルに終始する。このことが、見事に的中してと言ったらいいのであろうか、2曲の弦楽四重奏曲が、それぞれ異なった姿を浮かび上がらせているのだ。これは、カルミナ四重奏団の“演技力”が図抜けている証明となろう。そして、この2曲の演奏の白眉とも言えるのが、それぞれの第3楽章である。ここでのカルミナ四重奏団の演奏の質の高さには、誰もが納得する。(蔵 志津久) 


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