★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽◇ロータス・カルテットのシューマン:弦楽四重奏曲全曲(第1番~第3番)

2011-01-20 13:37:09 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

シューマン:弦楽四重奏曲全曲(第1番~第3番)

弦楽四重奏:ロータス・カルテット(第1ヴァイオリン:小林幸子/第2ヴァイオリン:藤村 彩/     
                     ヴィオラ:山碕智子/チェロ:斎藤千尋)

CD:LIVE NOTES WWCC‐7524

 弦楽四重奏曲は、いわばクラシック音楽の奥座敷に当る場所に置かれた作品群という感じがする。あまり表には出ない(出たがらない?)方が幸せであるし、華やかすぎる場所ではどうも居心地が悪いのである。32曲のピアノソナタを作曲したベートーヴェンは、12曲の弦楽四重奏曲を書き残しているが、この対比がまた際立っている。ピアノソナタは、ベートーヴェンの激しい自己主張に貫かれ、外に向かって何事かを訴えているような曲が多いのに対して、弦楽四重奏曲の方はというと、ベートーヴェンの内省の吐露とでも言ったらよいような、自己の内面と対話しているような、内に向かって書かれた曲が多い。そんな性格を持つ弦楽四重奏曲であるが、そのリスナーはというと、私が見る限りクラシック音楽が一番好きな人達ではないかと思う。クラシック音楽に、単に表面的な華やかしさを追い求めるのではなく、高い精神を追い求めるような傾向がある人達なのである。だから弦楽四重奏団のレベルが、その国のクラシック音楽のレベルを現しているといってもいいのかもしれないほどだ。

 わが国には、以前から弦楽四重奏の演奏に取り組んでいる演奏グループが数多く存在し、現在も地道な演奏活動を行っている。これらの演奏会に行くと、オーケストラのコンサートとは何処か違う雰囲気に包まれているのだ。クラシック音楽を人生の伴侶と考えているような人達の集まりかのような、あたたかくもまた緊張した雰囲気に包まれる。そんな日本の弦楽四重奏団の中で、1992年に結成された大阪のロータス・カルテットの存在は、大いに注目すべきものがある。創立当初は4人とも女性(現在は第2ヴァイオリンが元シュトゥットガルト弦楽四重奏団の第1ヴァイオリン奏者マティアス・ノインドルフに交代している)で、時々メンバーが集まり演奏するのではなく、当初から常設の弦楽四重奏団を目指したというから半端ではない。1993年に大阪国際室内楽コンクール弦楽四重奏部門で第3位に入賞した後、全員でドイツに渡り、シュトゥットガルト音楽芸術大学に入学。そしてメロス弦楽四重奏団に師事したというから、もうこれは踏ん切りがいいというか、凄い決断力だと感心させられる。

 まあ、ここまでならそんなに騒ぐことでもないかもしれないが、ここからが凄い。メロス弦楽四重奏団のほかに、アマデウス弦楽四重奏団やラ・サール弦楽四重奏団にも薫陶を受け、次第に実力を付けたロータス・カルテットは、1997年、ロンドン国際弦楽四重奏コンクールでメニューイン特別賞、パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクールで第3位特別賞、BDI音楽コンクール弦楽四重奏部門で第1位と国際コンクールでの受賞を重ねるのだ。そして、現在ではメロス弦楽四重奏団なき後、ドイツにおいて、その穴を埋めるまでの存在に成長を遂げているという。このように国際的に活躍している日本の弦楽四重奏団は、ほかに有名な東京カルテットが存在するだけだ。最近は、国際コンクールで優勝する日本の若い演奏家がマスコミなどで大きく取り上げられているが、ロータス・カルテットは、それらに劣らずの活躍とみていいだろう。ただ、最初に書いた通り、弦楽四重奏団は、クラシック音楽界の中でも地味な存在であることが、あまりマスコミに取り上げられない理由ということになろうか。

 今回は、そんなロータス・カルテットが2003年1月に横浜で録音したCDを取り上げたい。メンバーは設立時のメンバーとなっている。曲はシューマンの弦楽四重奏曲全曲(第1番~第3番)である。シューマンの弦楽四重奏曲は、多分にベートーヴェンの弦楽四重奏曲に影響を受けているといわれるが、実際聴いてみればそう内省的にならず、シューマン独特のロマンの香りも随所に顔を出し、何回も聴くうちにその良さが分ってくるような性格の曲である。もし、演奏団体名を知らずに、第1番の出だしの部分を聴いたとしたら、「これはヨーロッパの弦楽四重奏団に違いない」と感じるはずだ。それほど弦の響きが豊かで奥行きが限りなく深い。東欧の弦の響きに近いものを持っている。それにしてもその演奏スタイルは、演奏技術を見せびらかすというところから一番遠い所にあるといっていい。これは心からの共感をもってシューマンの世界を表現しているとしか言いようがないほどの秀演である。第1番のしみじみとした豊かな世界、第2番の軽やかな足取りを連想させる世界、そして、第3番のベートーヴェンの弦楽四重奏を思い出させるような堂々とした世界―ロータス・カルテットは、ものの見事それぞれの持つ世界を描き切っている。今こんな素晴らしい弦楽四重奏団を我々が持っていること自体を誇りに思う。3曲を聴き終わった後、無性に嬉しくなってしまった。(蔵 志津久)


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ◇クラシック音楽◇コンサート情報 | トップ | ◇クラシック音楽◇コンサート情報 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

室内楽曲(弦楽四重奏曲)」カテゴリの最新記事