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◇クラシック音楽◇NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

2018-06-26 09:36:24 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

 

<NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー>

 

~3人のチャイコフスキー国際コンクール優勝者 諏訪内晶子&ブルネロ&ベレゾフスキー演奏会~   

    
                        

グリーグ:ノルウェー舞曲 作品35         

    ピアノ:ボリス・ベレゾフスキー
                              
コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 作品7
                      
    ヴァイオリン:諏訪内晶子
    チェロ:マリオ・ブルネロ
                              
チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出」 作品50 
                    
    ヴァイオリン:諏訪内晶子
    チェロ:マリオ・ブルネロ
    ピアノ:ボリス・ベレゾフスキー
                              
収録:2017年5月31日、東京・紀尾井ホール

放送:2018年5月25日(金) 午後7:30~午後9:10

 今夜のNHK‐FM「ベストオブクラシック」は、諏訪内晶子が芸術監督を務める「国際音楽祭NIPPON」(2013年から毎年開催)の演奏会の一つで、チャイコフスキー国際コンクール優勝者である 諏訪内晶子(1990年ヴァイオリン部門優勝)、マリオ・ブルネロ(1986年チェロ部門優勝)、ボリス・ベレゾフスキー(1990年ピアノ部門優勝)の3人による演奏会である。 「国際音楽祭NIPPON」は、リゾート地ではなく、街中で開催される音楽祭であり、日常の生活の中にクラシック音楽を聴くという楽しみを加えてほしいという思いが込められている。同音楽祭は、「4つの柱」とし①イントロダクション・エデュケーション(現代作曲家への委嘱として同時代に同じ音楽家として活躍する諏訪内晶子が、旬の作曲家に音楽祭委嘱作品を依頼し、その魅力を紹介。また、幼い頃に質の高い指導を受けることで「世界に通用するスキル」が身につける “マスタークラス”の開催)②コラボレーション with アート(美術館、記念館など、コンサート会場以外の空間で演奏会を開催)③ トップ・クオリティ(芸術監督であり演奏家である諏訪内晶子が、実際の音楽仲間である一流アーティストとの対話を重ねて創り上げるコンサート)④チャリティ・ハート(「音楽を届けるべきところに継続的な支援を行いたい」という理念の下、病院への訪問演奏など、心の通うチャリティ・コンサートを開催)を掲げている。第5回(2017年)「国際音楽祭NIPPON」は、東京、名古屋、久慈(岩手県)を会場に、2017年5月26日~7月30日の期間で開催されたが、岩手県久慈市ではチャリティ・コンサートも開催された。

 ヴァイオリンの諏訪内晶子(1972年生れ)は、東京都出身。1987年「日本音楽コンクール」第1位。1988年「パガニーニ国際コンクール」第2位。1989年「エリザベート王妃国際音楽コンクール」第2位。そして1990年「チャイコフスキー国際コンクール」第1位(最年少、日本人初、全審査員の一致による優勝)、同時にバッハ作品最優秀演奏者賞とチャイコフスキー作品最優秀演奏者賞を受賞した。桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コースを修了後、文化庁芸術家在外派遣研修生としてジュリアード音楽院に留学し、1995年ジュリアード音楽院修士課程修了。同院ではドロシー・ディレイに師事、ベルリン芸術大学でも学んだ。現代作品にも積極的に取り組み、1999年サントリーホールでクシシュトフ・ペンデレツキのヴァイオリン協奏曲第2番「メタモルフォーゼン」を作曲者の指揮で日本初演。2004年石川県立音楽堂コンサートホールで、ジュリアード音楽院の同期生レーラ・アウエルバッハのヴァイオリン協奏曲第2番(作品77)を世界初演。2007年ルツェルン音楽祭でエトヴェシュ・ペーテルのヴァイオリン協奏曲「セヴン」をピエール・ブーレーズの指揮で世界初演。2013年に自ら「国際音楽祭NIPPON」を企画し、現在、芸術監督を務めている。

 ピアノのボリス・ベレゾフスキー(1969年生れ)は、ロシア、モスクワ出身。モスクワ音楽院で学ぶ。1987年「リーズ国際ピアノ・コンクール」で4位入賞。1988年ロンドンのウィグモア・ホールでデビューを果たす。1990年「チャイコフスキー国際コンクール」で優勝。リストの超絶技巧練習曲全曲連続演奏の動画がインターネット上に出回り、一躍有名となった。室内楽にも情熱を注ぎ、レーピン、ボロディン弦楽四重奏団らと共演を重ねている。チェロのマリオ・ブルネロ(1960年生れ)は、イタリア出身。1986年にイタリア人として初めて「チャイコフスキー国際コンクール」で優勝し、以後、国際舞台での活動を開始。これまで世界の一流オーケストラと共演をしているが、とりわけアバドとの共演は長年にわたり、ソリストとして、また「ルツェルン祝祭管」「モーツァルト管」のメンバーとして度々招かれた。チェロ演奏と指揮を同時にこなす“弾き振り”も積極的に行っており、とりわけ1994年に自ら創設した「オーケストラ・ダルキ・イタリアーナ」と演奏活動を展開。またユリ・ケインと共同で立ち上げた新アート・プロジェクト「バッハ・ネットワークス」を、イタリアおよびスイスで上演するなど幅広い活動を展開している。

 今夜の最初の曲は、ボリス・ベレゾフスキーのピアノ独奏によるグリーグ:ノルウェー舞曲。この曲は、ノルウェー農民の間で伝えられた民族舞曲を基に、グリーグ38歳の1881年にピアノ連弾用に書かれた作品。後にボヘミア生まれの音楽家ハンス・ジットによって管弦楽用に編曲された。今夜のベレゾフスキーのピアノ演奏は、誠に快活に、光輝くように進められる。一点の曖昧さもなく、さりとて堅苦しいこともなく、あたかも、聴衆と一緒に「ピアノ音楽を楽しみましょう」とでも語り掛けるように、リズム感満点で一気に弾き進める。次の曲は、ヴァイオリン:諏訪内晶子、チェロ:マリオ・ブルネロによるコダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲。 この曲は、コダーイがバルトークとともに民謡を収集した成果の一つとして、1914年に書かれた3楽章からなる作品。ヴァイオリンとチェロというあまり例のない組み合わせでつくられており、あたかもヴァイオリンとチェロとが対話をするかのように書かれている。ここでのマリオ・ブルネロのチェロの演奏は、深々としたチェロの音色が何とも魅力的。リズムを比較的ゆっくりととり、彫の深いチェロの演奏が響きわたる。それを、諏訪内晶子のきりりと引き締まったヴァイオリン演奏が応えて曲が進んでいく。コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲は、滅多に演奏される曲ではないが、独特の魅力を持った室内楽には違いない。二人の名手により、この曲の持つ真の価値が鮮明となった優れた演奏内容であった。最後の曲は、有名なチャイコフスキー:ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出」。この曲は、チャイコフスキーが、1881年から1882年にかけて作曲した、旧友ニコライ・ルビンシテインへの追悼音楽。この曲での3人の名手たちの演奏は、それぞれの特徴を存分に発揮した名演となった。ボリス・ベレゾフスキーの輝かしいピアノの演奏、マリオ・ブルネロの彫の深い、ビロードのようなチェロの演奏、そして諏訪内晶子の引き締まったヴァイオリンの演奏、どれをとっても申し分ない出来栄えで、3人のまとまりも非常に良く、あたかも常設のピアノ三重奏団のような印象さえ受けた。また機会があれば3人の演奏会を開いてほしいものだ。(蔵 志津久)      


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