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◇クラシック音楽◇NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

2019-12-24 09:49:02 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー


<NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー>


~辻井伸行と優勝を分け合ったチャン・ハオチェンとセガン指揮フィラデルフィア管弦楽団の共演~

     
                        
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
  
   ブラームス:6つの小品 作品118から第2曲(アンコール)

ドボルザーク:交響曲第9番「新世界から」
  
   ラフマニノフ:「ヴォカリーズ」(アンコール)
        <セガン自身から「今夏の台風による日本の被災者へ捧げる」とのコメント付き>

ピアノ:ハオチェン・チャン            
                       
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン

管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団

収録:2019年11月7日、NHKホール 

放送:2019年12月10日(火) 午後7:30~午後9:10   
 
 ピアノのチャン・ハオチェン(1990年)は、中国、上海出身。5歳の時、上海音楽ホールでバッハの2声のインヴェンション全曲とハイドンとモーツァルトのピアノソナタを演奏してデビュー。6歳でオーケストラと共演。15歳の時渡米し、カーティス音楽学校に入学。2002年第4回「若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクール」優勝。2007年第4回「中国国際ピアノコンクール」優勝。2009年第13回「ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール」で、辻井伸行と共に優勝を分け合う。
 
 指揮のヤニック・ネゼ=セガン(1975年生まれ)はカナダ出身。ケベック音楽院モントリオール校とプリンストンのウェストミンスター・クワイヤー・カレッジで学ぶ。19歳でモントリオール・ポリフォニー合唱団の監督に就任。モントリオール・オペラの合唱指揮者も務めた。2000年グラン・モントリオール・メトロポリタン管弦楽団の首席指揮者並びに芸術監督に就任。2012年フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督に就任。2013年カーティス音楽院メンター・コンダクターに就任。2018年メトロポリタン歌劇場音楽監督に就任。
 
 今夜、最初の曲のラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番は、1900年秋から1901年4月にかけて作曲され、全曲初演は1901年11月9日に行われた。発表以来、あらゆる時代を通じて常に最も人気のあるピアノ協奏曲の一つ。ロシアのロマン派音楽を代表する曲の一つであると同時に、ピアノの難曲として知られ、きわめて高度な演奏技巧が要求される。初演は大成功に終わり、その後も広く演奏されて圧倒的な人気を得ている。同曲の成功は、ラフマニノフがそれまでの数年間にわたるうつ病とスランプを抜け出す糸口となったことでも知られる。

 早速、ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番の演奏を聴いてみよう。私などは、中国人ピアニストと聞くと、直ぐに技巧的な完璧さが強調される演奏内容を思い浮かべるが、ハオチェン・チャンはこれとは全く関係なく、ロマンの薫りがそこはかとなく漂う、実に抒情的な演奏内容に強く引き付けられた。出身国を知らなければ、ヨーロッパのピアニストではないかと感じたほどだ。第2楽章では、詩人が詩を紡ぎだすような自然さが何とも魅力あふれるものに仕上がっていた。特に、間の取り方が筆舌に表せないほど素晴らしい出来だ。しかも、技術的にも優れた演奏であることは、聴いていてどこにも違和感を全く感じられないことでも証明されよう。今夜のハオチェン・チャン演奏を聴くと、「ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール」で、辻井伸行と共に優勝を分け合ったのは至極当然な結果だったということが歴然とする。
 
 今夜、次の曲は、ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」。ドボルザークは、1892年、ニューヨークにあるナショナル音楽院の院長に招かれ、米国へ渡ったが、3年間の在米中に、後期の重要な作品が少なからず書かれている。この作品は弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」、チェロ協奏曲と並んで、ドヴォルザークのアメリカ時代を代表する作品。「新世界より」という副題は、新世界アメリカから故郷ボヘミアへ向けてのメッセージ、といった意味合いを持っている。

 今夜のヤニック・ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管弦楽団のドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」の演奏は、フィラデルフィア管弦楽団の持ち味が全面に出た演奏内容であった。人為的に誇張することは決してなく、全体に大らかさが滲み出ており、本来のアメリカ(現在はどうかは分からないが)が持つ、懐の深さが際立った演奏内容に終始した。よく、華やかな"フィラデルフィア・サウンド"ということが言われるが、今夜の演奏を聴くと、むしろ、フィラデルフィア管の底光りするような豊かな響きに酔わされた。私には、ヤニック・ネゼ=セガンが、楽団員一人一人に、表面的な"華やかさ"より、ドボルザークの心の内から湧き出す"郷愁"を前面に引き出すようにとの要求を出したのではないかと言う風に感じられた演奏内容であった。ヨーロッパのオーケストラとは一味違う、明快・直裁な表現に加えて、演奏のする喜びがリスナーにストレートに伝わってくる貴重な体験を味あわせてくれた。今夜の2曲を、当日、生の演奏で聴いた方は、何ものにも代えがたい体験だったに違いない。(蔵 志津久)

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