★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇マイスキー&アルゲリッチの京都コンサートホールでのライヴ録音

2015-07-07 11:30:33 | 室内楽曲(チェロ)

ショパン:チェロソナタ
フランク:チェロソナタ(原曲:ヴァイオリンソナタ)
ドビュッシー:チェロソナタ
ショパン:序奏と華麗なるポロネーズ

チェロ:ミッシャ・マイスキー

ピアノ:マルタ・アルゲリッチ

CD:ユニバーサルミュージック UCCG 6146

 このCDは、チェロのミッシャ・マイスキーとピアノのマルタ・アルゲリッチの日本での共演をライヴ録音したもの。二人の共演はだいぶ前から行われていたようで、1981年には既に二人の共演の録音が遺されているのだそうだ。2000年11月に二人は、日本での共演を5つの都市で行ったが、そのうち11月10日に京都コンサートホールで開催された模様を収録したのがこのCDなのである。当日は、シューマンの「民謡風の5つの小品」も演奏されたが、このCDにはこれ以外の3曲とアンコール曲のショパン:序奏と華麗なるポロネーズが収められている。ミッシャ・マイスキー(1948年生まれ)は、ラトヴィアの出身。レニングラード音楽院付属音楽学校で学ぶ。1965年、17歳で全ソビエト連邦音楽コンクールで優勝し、同年、デビューを果たす。1966年、チャイコフスキー国際コンクールで6位入賞。身内の問題で旧ソビエト政府により逮捕されてしまうが、その後、国外移住を認められて、1973年イスラエルに移住。同年カサド音楽コンクールで優勝。以後、世界的な名声を得て、現在、世界各国で活発な演奏活動を行っている。しばしば来日しており、ピアニストの娘さんとの共演も、日本の聴衆に披露している。

 ピアノのマルタ・アルゲリッチ(1941年生まれ)は、アルゼンチン出身。1955年家族とともにオーストリアに移住し、ウィーン、ザルツブルク、ジュネーヴ、イタリアなどでピアノを学ぶ。1957年、ブゾーニ国際ピアノコンクール優勝。また、ジュネーブ国際音楽コンクールの女性ピアニストの部門においても優勝。1965年、ショパン国際ピアノコンクールで優勝。その後、徐々に活動の中心をソロ演奏から室内楽に移していく。1990年代に入ると、今度は自身の名を冠した音楽祭やコンクールを開催し、若手の育成に力を入れる。それらは、1998年から「別府アルゲリッチ音楽祭」、1999年からブエノスアイレスにおいて「マルタ・アルゲリッチ国際ピアノコンクール」、2001年から「ブエノスアイレス-マルタ・アルゲリッチ音楽祭」、2002年からルガーノにおいて「マルタ・アルゲリッチ・プロジェクト」を開催している。日本においての「別府アルゲリッチ音楽祭」の取り組みなどが高く評価され、第17回高松宮殿下記念世界文化賞(音楽部門)、旭日小綬章を受章するなど、日本とのかかわりは深い。2007年別府アルゲリッチ音楽祭の主催団体であるアルゲリッチ芸術振興財団の総裁に自ら就任し、1998年以降は別府アルゲリッチ音楽祭のため、毎年来日している。2015年5月には、アルゲリッチの名を冠したコンサートホール「しいきアルゲリッチハウス」(別府市野口原)が完成した。

 最初の曲、ショパン:チェロソナタは、1845年に作曲されたショパン唯一のチェロソナタ。ピアノのパートが華やかに活躍するチェロソナタとして知られる。ここでは、マイスキーのチェロとアルゲリッチのピアノが、あたかも二人が会話を楽しむがごとく、時に闊達に、時にしみじみと弾き分けているところが、聴きどころ。二人の力量が均等なこともあり、主従という感覚は全くない。お互いが手の内を十分に知り尽くしており、その上に立っての音づくりなので、リスナーも豊かな気持ちで聴き取ることができる。マイスキーの奏でるチェロの旋律が何と甘美なことか。アルゲリッチのピアノは、きりりと引き締まり、演奏の全体に立体感を醸し出すことに成功しているようだ。次の曲のフランク:チェロソナタは、有名なヴァイオリンソナタを、チェロで演奏する作品。ヴァイオリンソナタは、1886年に、友人のジェーヌ・イザイの結婚の祝いとして献呈された。フランク独自の循環形式で書かれたこの作品は、全曲が有機的にまとまり、完成度が極めて高いことで、多くの愛好者を持っている。ここでのマイスキーのチェロは、深い思慮を宿したものに仕上がっている。ヴァイオリン演奏では、表現し切れない、この奥深さは、チェロによる演奏の醍醐味である。ヴァイオリン演奏とはまた一味違い、この曲の別の側面が表れる。ここでのアルゲリッチは、マイスキーの引き立て役に徹しているかのようである。確かに、このようなアルゲリッチの演出で、この曲をチェロで演奏する意味づけが、きちんと聴き取ることができた。

 次の曲は、ドビュッシー:チェロソナタ。晩年の1915年の作品。この頃、ドビュッシーは、古典に回帰したような作品を書いているが、この曲もしっとりとした古典的な室内楽という趣を強く感じさせる。この曲では、ショパン:チェロソナタの時と同様、マイスキーのチェロとアルゲリッチのピアノが対等に渡り合い、見事な一体感を生み出している。しかし、そこにはショパン:チェロソナタでは味わえなかった、静寂さが曲全体を覆う様が強く打ち出され、「古典的とは言っても、やはりドビュッシーの世界なのだ」と感じさせる演奏内容となっている。何ものかがゆらゆらと揺れ動くような、微妙な躍動感がリスナーには伝わってくる。ドビュッシーが最晩年に到達した至高の音楽だということが、リスナーの肌にひしひしと伝わってくるようだ。そして、最後の曲が、当日、アンコールで演奏された、ショパン:序奏と華麗なるポロネーズ。この曲がアンコールに演奏されたというのは、誠に贅沢な話。演奏内容は、二人の生き生きした表情がよく表れており、演奏する歓びが肌で聴き取れる。ここでの二人の演奏は、すべてにわたって形式的に、きちっとまとまっている上に、音色が美しいので、聴いていて何とも楽しくなる。何かコンサートの原点に立ち返ったような安心感が広がる。このデュオは、現在考えられる最高の組み合わせ、といって間違いなかろう。(蔵 志津久)


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