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●クラシック音楽●NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー(沖澤のどか指揮NHK管弦楽団とデニス・コジュヒン演奏会)

2024-06-25 09:55:50 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー



<NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー>




~沖澤のどか指揮NHK管弦楽団とデニス・コジュヒン演奏会~



イベール:交響組曲「寄港地」
ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
チャイコフスキー:子どものアルバム 作品39から第24曲「教会で」(アンコール)
ドビュッシー:夜想曲

ピアノ:デニス・コジュヒン

指揮:沖澤のどか

管弦楽:NHK管弦楽団

合唱:東京混声合唱団

放送:2024年6月14日 、午後7:30〜午後9:10、NHKホール(ライヴ放送)


 今夜のNHK-FM「ベストオブクラシック」は、2024年6月14日にNHKホールでおこなわれた「NHK交響楽団 第2014回定期公演」のライヴ放送で、指揮は沖澤のどか、ピアノ独奏はデニス・コジュヒンにより、イベール:交響組曲「寄港地」、ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲、ドビュッシー:夜想曲の3曲が演奏された。


 ピアノのデニス・コジュヒン(1986年生まれ)は、ロシア、ニジニ・ノヴゴロド出身。マドリードのレイナ・ソフィア音楽院で学ぶ。卒業時には、卒業証書と学年最優秀生徒賞をスペインのソフィア王妃から直々にを授与された。また、「セルバンテス・トリオ」で最優秀室内楽グループ賞を2度受賞している。マドリッド留学後、コモ湖国際ピアノアカデミーに招かれ、ディミトリ・バシキロフ、フー・ツォン、スタニスラフ・イオデニッチ、ピーター・フランクルなどから指導を受けた。2006年「リーズ国際ピアノコンクール」第3位。2010年「エリザベート王妃ピアノ・コンクール」第1位。これまでにロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ロンドン交響楽団、ベルリン・シュターツカペレ、イスラエル・フィルハーモニック、シカゴ交響楽団、フィラデルフィア管弦楽団、サンフランシスコ交響楽団など、世界の主要オーケストラと頻繁に共演するほか、日本では、東京フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団などとも共演している。

 指揮の沖澤のどか(1987年生まれ)は、青森県三沢市出身。東京藝術大学音楽学部指揮科首席卒業。卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。同大学院音楽研究科指揮専攻修士課程修了。2011~2012年、オーケストラ・アンサンブル金沢指揮研究員。2015年、フェリックス・メンデルスゾーン基金の奨学生に選出。2017年、ダニエレ・ガッティとロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団によるマスタークラスに参加。2018年第18回「東京国際音楽コンクール〈指揮〉」にて、女性として初めて第1位及び特別賞、齋藤秀雄賞を受賞。第7回「ジュネス・ミュジカル・ブカレスト国際指揮者コンクール」第3位。第1回「ニース・コートダズール・オペラ指揮コンクール」セミファイナリスト。2019年第56回「ブザンソン国際指揮者コンクール」優勝、同時に聴衆賞及びオーケストラ賞受賞。同年、ハンス・アイスラー音楽大学ベルリン修士課程オーケストラ指揮専攻を修了。2020年よりベルリン・フィルのカラヤン・アカデミーの奨学金を受け、キリル・ペトレンコの助手となる。2022年3月には、急病のペトレンコの代役としてベルリン・フィルを指揮した。メルボルン交響楽団、MDR交響楽団、トーンキュンストラー管弦楽団との定期公演に登場。2023年第21回「齋藤秀雄メモリアル基金賞」受賞。2023年4月京都市交響楽団の第14代常任指揮者に就任。2024年「セイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)」首席客演指揮者に就任。現在、ベルリン在住。


  今夜、最初の曲は、イベール:交響組曲(3つの交響的絵画)「寄港地」。この曲は、1922年、イベールが32歳のときの作品。イベールが「ローマ大賞」受賞によるローマ留学中に書かれた作品で、イベールの出世作となった。イベールは戦争中に海軍士官として地中海を航海したが、各地に寄港した際に接した異国の風物の見聞や、ローマ留学中のスペイン旅行から得た印象がこの曲には盛り込まれている。第1曲「ローマ~パレルモ」(ローマを出航し、地中海をシチリア北岸の港パレルモへと向かう航海の描写)、第2曲「チュニス~ネフタ」(チュニジアの港町チュニスから、南の奥地の町ネフタへ向かう旅の情景)、第3曲「バレンシア」(スペイン東部の港町バレンシアの情景)の3曲からなる。

 今夜の沖澤のどか指揮NHK交響楽団によるイベール:交響組曲「寄港地」の演奏は、従来のNHK交響楽団の印象をがらりと変え、あたかもフランスのオーケストラのごとく、一音一音を明解に、明るく、きらびやかに演奏しきったことが強く印象に残った。沖澤のどかの指揮は、全体に曲の輪郭をくっきりと際立たせ、躍動感あふれ、少しもあいまいな表現はない。弱音から流れるように音づくりを進め、徐々にオーケストラを激しく鳴り響かせるその手腕は、見事というほかにない。あたかも名優が名演技を披露しているかごとくに、全てが劇的に進行して行く。聴いていて指揮者とオーケストラに間の距離が極めて近い感じがして、この上なく躍動感にあふれた演奏内容に好感が持てた。


 今夜、2曲目は、ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲。この曲は、ラヴェルが第一次世界大戦で右手を失ったピアニスト、パウル・ウィトゲンシュタインの依頼を受けて作曲したピアノ協奏曲。作曲は1929年冬に始められ、およそ9ヶ月後の1930年に完成した。1931年11月27日、ウィーンでロベルト・ヘーガー指揮、ウィトゲンシュタインのピアノ独奏で初演が行われたが、ウィトゲンシュタインは楽譜通りに弾き切れずに、勝手に手を加えて演奏し、その上ピアノがあまりにも難技巧にこだわりすぎていると非難したため、ラヴェルとウィトゲンシュタインとの仲はこれ以降険悪となったという。その後、1933年1月27日に、ジャック・フェヴリエのピアノ独奏により楽譜通りパリで再演された。

 今夜のデニス・コジュヒンのピアノ独奏と沖澤のどか指揮NHK交響楽団によるラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲の演奏は、デニス・コジュヒンのピアノ独奏が、極めて集中力と緊張感の高いものに終始し、聴き終わってみると改めてこの曲の神髄に触れることができた満足感に浸ることができた。デニス・コジュヒンの演奏は、演奏するのは難曲中の難曲と言われるこの曲を、リスナーには少しもそのような印象持たせず、ただ、ひたすらに鍵盤上で繰り広げる研ぎ澄まされた鋭角のあるピアノの響きを思う存分リスナーに送り届けてくれた。さすが「エリザベート王妃ピアノ・コンクール」の覇者だけのことはある。アンコール曲では別の一面も聴かせてくれたデニス・コジュヒンの今後の活躍に注目したい。


 今夜、最後の曲は、ドビュッシー:夜想曲。この曲は、ドビュッシーが1897年から1899年にかけて作曲した「雲」「祭」「シレーヌ」の3曲からなる管弦楽組曲様式で書かれた作品。ドビュッシーは、この曲にたどり着くまで「3つの黄昏の情景」、独奏ヴァイオリンと管弦楽のための「夜想曲」を作曲し、1897年12月になって、ようやく現在の形での「夜想曲」に着手することになった。当時、ドビュッシーは「牧神の午後への前奏曲」を完成させ、「ペレアスとメリザンド」に着手していた。この曲の初演は、「雲」と「祭」の2曲が1900年12月9日にパリにおいてカミーユ・シュヴィヤール指揮ラムルー管弦楽団で行われ、翌1901年の10月27日に同じコンビにて全3曲の初演が行われた。

 今夜の沖澤のどか指揮NHK交響楽団によるイベール:ドビュッシー:夜想曲の演奏は、基本的には最初の曲のイベール:交響組曲「寄港地」の演奏と同じことが当てはまるが、より妖艶さを増した曲想に合わせた変身ぶりが見事に決まった感じを受けた。あのNHK交響楽団をしてドビュッシーの世界にどっぷりと引きずり込む沖澤のどかの手腕はなかなたいしたものである。ここまで聴いてきて、沖澤のどかの指揮ぶりは、どことなく小澤征爾の指揮の躍動的なエネルギーを感じさせることに気づいた。今回、沖澤のどかが「セイジ・オザワ松本フェスティバル(OMF)」の首席客演指揮者に就任したのも、むべなるかなといったところ。(蔵 志津久)
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