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◇クラシック音楽◇NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

2015-11-24 22:08:40 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

 

<NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー>

 

~日下紗矢子がリーダーを務める指揮者なしのベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラ来日演奏会~

 

パッヘルベル:「カノン」
ヴィヴァルディ:「四季」  
バーバー:弦楽のためのアダージョ
ドボルザーク:弦楽セレナード    
チャイコフスキー(ヴェルナー・トーマス・ミフネ編曲):「四季」から「十月 秋の歌」<アンコール>              
ラモー:歌劇「はなやかなインド」から「ロンドー」<アンコール> 
    
室内アンサンブル:ベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラ(指揮者なし。リーダー:日下紗矢子)

ヴァイオリン:日下紗矢子(ヴィヴァルディ:四季)
                              
録音:2015年7月12日、東京・武蔵野市民文化会館

放送:2015年11月5日(木) 午後7:30~午後9:10

 今夜のNHK‐FM「ベストオブクラシック」は、日下紗矢子が第1コンサートマスターを務めるベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団を母体とする室内アンサンブル「ベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラ」の来日公演である。ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団は1952年に設立された旧東ドイツを代表する伝統ある名門オーケストラで、本拠をベルリンに置いている。以前はベルリン交響楽団と称していたが、2006年に現在の名称となった(西ベルリンに存在したベルリン交響楽団とは別団体)。歴代の指揮者としては、クルト・ザンデルリング(1960年―1977年)やエリアフ・インバル(2001年―2006年)らがおり、2012年からイヴァン・フィッシャーが音楽監督を務めている。2008年からは日下紗矢子が第1コンサートマスターを務めている。翌2009年に日下紗矢子をリーダーとする指揮者を置かない室内アンサンブル「ベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラ」が結成された。約40名のオーケストラ団員が所属し、コンツェルトハウスで年3回の定期公演を行っている。2012年、ヴァイオリンのダニエル・ホープとドイツ・グラモフォンのCD録音(ヴィヴァルディ作曲:「四季」)で共演したが、同ディスクは「2013年ドイツ・クラシック・エコー賞」を受賞した。

 ヴァイオリンの日下紗矢子は、兵庫県出身。1994年東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校に入学。1995年第5回イフラ・ニーマン国際ヴァイオリン・コンクール第1位、第3回パブロ・サラサーテ国際ヴァイオリン・コンクールで第4位。1997年東京芸術大学に入学。同年、エリザベート王妃国際音楽コンクール入賞。1998年ミケランジェロ・アバド国際ヴァイオリン・コンクールで1位なしの第2位を獲得。京都・青山財団の青山音楽賞を受賞。2000年第47回パガニーニ国際コンクールで第2位、第69回日本音楽コンクールで第1位、第8回シベリウス国際ヴァイオリン・コンクールで第3位を獲得。大学からは安宅賞を受賞。2001年デビューリサイタルを開き、大学を首席で卒業。2001年ダラスの南メソジスト大学に留学。2006年フライブルク音楽大学へ文化庁派遣芸術家在外研修員として留学。2008年ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の第1コンサートマスターに就任すると同時に、翌年、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団を母体とする室内アンサンブル「ベルリン・コンツェルトハウス室内管弦楽団」のリーダーに就任。2008年度出光音楽賞受賞。2013年ミュージックペンクラブ音楽賞ベスト・ニューアーティスト賞受賞。そして2013年読売日本交響楽団コンサートマスターに就任し、現在に至っている。

 最初の曲であるパッヘルベルのカノンは、パッヘルベルが作曲した「3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調」の第1曲目に当たる曲。カノンが有名だが、原曲はカノンとジーグで1組になっており、カノンの次にジーグが演奏される。ヴァイオリン3本と通奏低音のために書かれている。ここでのベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラの演奏は、実に伸び伸びと演奏しており、型にはまらない個性的なパッヘルベルのカノンが聴かれた。この曲は何か威厳を持って演奏されるのが常だが、同室内オーケストラは、「そんなことどうでもいいじゃないか。皆それぞれ楽しく演奏するよ」とでも言っているかのような演奏内容であった。次の曲はヴィヴァルディ:「四季」。この曲をはイタリアの作曲家・アントニオ・ヴィヴァルディによって作曲された12楽章からなるヴァイオリン協奏曲集。「和声と創意への試み」 作品8の内、第1集の第1曲から第4曲までの「春」「夏」「秋」「冬」に付けられた総称であるが、ヴィヴァルディ自身による命名ではない。「四季」の各協奏曲はそれぞれ3つの楽章からなっている。この曲でのベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラの演奏は、これまで聴いたことのないような「四季」がスピーカーから鳴り始めた。型にはまらない創造的な「四季」だ。奏者一人一人が思い描く個性的な演奏が、最後には一つに昇華されているのだ。実に生き生きしていて、古楽演奏なのだが、逆に現代的な感覚を強く受けた。これは、リーダーである日下紗矢子の力に負うところが大きいものと思われる。同室内オーケストラは、この曲で「2013年ドイツ・クラシック・エコー賞」を受賞したようだが、むべなるかなというのが私の印象だ。演奏会当日の聴衆の熱烈な拍手が凄かったこと。

 次の曲は、バーバー:弦楽のためのアダージョ。これは、弦楽四重奏曲第1番の第2楽章より、弦楽合奏用に編曲された曲。この曲は、ケネディ大統領の葬儀で使用されたことでも分かるように、葬送の時の定番曲のように使われている。しかし、バーバー自身はそのような意思はまったくなかったようだ。このためか、日下紗矢子は放送で「重苦しく、ゆっくりとした葬送音楽のようには演奏しない」と断言していた。聴いてみよう。なるほど、純粋に音そのものが静かにスピーカーから鳴り響いた。何かからっとしたバロック音楽のようにも聴き取れる。日下紗矢子と同室内オーケストラの挑戦的演奏として大いに価値ある演奏であったと思う。この室内オーケストラの特色は、既成概念にとらわれず、新しい響きを追い求めるところにあるのではなかろうか。最後の曲は、ドヴォルザークの弦楽セレナーデ。この曲は1875年の作品で、人気のあるドヴォルザークの作品の中の1つで、5楽章からなる曲。日下紗矢子は「この曲は、通常、ゆったりとねっちり演奏されるが、我々は、皆で郷愁を誘うような演奏をするよう試みた」と放送で語っていた。それでは聴いてみよう。ここでの演奏は、確かに普段聴くより、さらっとしていて、爽快な印象を受ける。日下紗矢子の言いたいことは多分、「この曲の演奏は、あまりに郷土色とか民族色とかが強調され過ぎて、結婚したばかりのドボルザークの幸福感が出ていないことが多い」ということではなかろうか。確かに、この演奏を聴いてみると、とてもロマンチックで、都会的に洗練されたものに仕上がっている。今夜の演奏会の放送を聴いて、私は、「日下紗矢子とベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラは、恐るべき可能性を秘めている」という印象強く受けた。今後の活躍に期待したい。(蔵 志津久)


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