★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ショルティのストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」「ペトリューシュカ」

2013-01-15 10:21:41 | 管弦楽曲

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」
            バレエ音楽「ペトリューシュカ」

指揮:ゲオルグ・ショルティ

管弦楽:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(「春の祭典」/ライヴ録音)
     シカゴ交響楽団(「ペトリューシュカ」)

CD:ユニバーサルミュージック(DECCA)UCCD-4750

 このCDは、ストラヴィンスキーのバレエ音楽の名作である「春の祭典」と「ペトリューシュカ」をショルティ指揮で聴くことができる。20世紀のクラシック音楽の名作というと真っ先に挙げられるのが、「春の祭典」である。今聴くと、さほどの驚きはないが、初演が行われた1913年5月29日のパリのシャンゼリゼ劇場は、賛辞と怒号が渦巻いたという。それもそうであろう、あの原始的なバーバリズムで知られるカール・オルフの舞台形式によるカンタータ「カルミナ・ブラーナ」ですら「春の祭典」の20年後の1937年に初演され、聴衆の度肝を抜いたのだから。

 クラシック音楽は、宗教音楽を発祥とし、貴族の音楽を経て、市民の音楽へと広がって行ったが、そこにはある越えてはならない一線みたいものが暗黙のうちにあった。つまり、碑やな音楽とか原始的音楽に対しては、一定の距離感を保つという、掟ともいうべきものがあった。これをストラヴィンスキーは、いとも簡単に超えてしまったのだ。これには、当時の聴衆は大いに戸惑った。当時一部には、「春の祭典」を聴き、嘲笑さえ漏れたという。絵画で言えば、その昔、アンリ・ルソーの絵が飾られた前には人だかりが出来、皆が大笑いして見ていたという。しかし、ピカソはいち早くこのアンリ・ルソーの天才性を見抜き、高く評価していた。現在では、アンリ・ルソーは、ピカソにも影響を与えた近代絵画の先人として尊敬を集めている。ストラヴィンスキーの「春の祭典」は、クラシック音楽において、似たようなことを成し遂げた曲ということができよう。

 ゲオルク・ショルティ(1912年―1997年)は、ハンガリー出身の名指揮者。ザルツブルク音楽祭のリハーサルのためのピアニストをショルティが務め、これがトスカニーニの目にとまり、同年と翌年のザルツブルク音楽祭のトスカニーニの助手を務める。1938年、ブダペスト歌劇場の「フィガロの結婚」で指揮者デビュー。また、1942年、ジュネーブ国際コンクールのピアノ部門で優勝し、ピアニストとしてもデビューする。1958年から始まったウィーン・フィルとの「ニーベルングの指環」の世界初全曲録音で評価を高める。1969年シカゴ交響楽団の音楽監督に就任。以後、桂冠指揮者として死の直前までシカゴ交響楽団を中心に幅指揮活動を展開した。ショルティの指揮者人生にとって、トスカニーニとの出会いは、決定的なものだったろう。トスカニーニは、楽譜に忠実に演奏するスタイルを創設したが、これを忠実に受け継ぎ、発展させた一人がショルティであった。オーケストラのダイナミックさをストレートに引き出し、伸び伸びと演奏させる技術に長けていた。要するにフルトヴェングラーのような精神主義の指揮ぶりとは一線を画していたわけで、この辺が、ショルティに対する評価が分かれるようだ。しかし、ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」および「ペトリューシュカ」を指揮する際には、ショルティ本来の資質が如何なく発揮され、見事というほかない。

 ストラヴィンスキー:「春の祭典」は、「異教徒たちが春を司る神に対して儀式を行い、若い女性をいけにえに捧げる」というストーリーを持ったバレエ音楽。このストーリー自体が、原始的な匂いを持ったものであり、ストラヴィンスキーが、ここで原始的な変拍子を伴った音楽を書いたことは、冷静に考えれば、至極真っ当であることが理解できる。ストラヴィンスキーは当時31歳であり、クラシック音楽界に革命を起こそうと密かに企んでいたものと思われる。ショルティ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は、そんなストラヴィンスキーの下心を読むかのように、歯切れの良い、躍動感に溢れた名演を聴かせてくれる。まるでオーケストラ自体が一つのばねに化身したかのような錯覚に捉われるほど。ショルティの上手さが一際冴えわたる。それに加えライヴ録音のためか会場の緊張感も伝わってくるようだ。一方、ストラヴィンスキー:「ペトリューシュカ」は、人形ペトリューシュカが、バレリーナを巡ってムーア人と争うことになり、怒ったムーア人により群衆の目の前で殺されるという悲劇。内容は、ともかくここでのストラヴィンスキーは、ロシア民謡に基ずく親しみやすいメロディーを随所に織り込み、「春の祭典」とは違った一面を覗かせる。これは、恩師リムスキー=コルサコフの影響のためと考えられている。ここでのショルティは、手兵のシカゴ交響楽団を使い、「春の祭典」とは一転して、実に楽しげに、次々に現れる豊かなメロディーをホールいっぱいに繰り広げる。ストーリーは別として、楽しいオーケストラの饗宴といった言葉が一番当て嵌まる演奏だ。(蔵 志津久)


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ◇クラシック音楽◇コンサート情報 | トップ | ◇クラシック音楽◇コンサート情報 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

管弦楽曲」カテゴリの最新記事