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◇クラシック音楽CDレビュー◇メンデルスゾーン: 八重奏曲/シンフォニア 第6番、第10番

2021-03-09 09:49:09 | 管弦楽曲



<クラシック音楽CDレビュー>



~メンデルスゾーン: 八重奏曲/シンフォニア 第6番、第10番~
  


メンデルスゾーン: 八重奏曲 変ホ長調 作品20
         シンフォニア(弦楽のための交響曲) 第6番 変ホ長調
         シンフォニア(弦楽のための交響曲) 第10番 ロ短調

室内オーケストラ:イタリア合奏団

CD:DENON COCO 70889

 イタリア合奏団(I Solisti Italiani)は、弦楽器とチェンバロにより構成されるイタリアの室内オーケストラ。戦後のバロックブームを盛り立てたローマ合奏団を創設したレナート・ファザーノが1979年に死去した後、このローマ合奏団のメンバーを中心にして、新たに総数12名で結成したのがイタリア合奏団。以後、イタリア合奏団は、イ・ムジチと並び、バロック音楽のリーダー役として知られた。ジョヴァンニ・グリエルモやブルーノ・サルヴィ等が所属するなど、メンバーの多くが有名オーケストラの首席奏者達であり、従って、その音色はイタリアの青空を思わせる明るさが特徴で、その情感豊かな演奏は、多くの聴衆を魅了した。響きの良さで有名なヴェネツィアのコンタリーニ宮殿で録音したヴィヴァルディの協奏曲集「調和の霊感」は、1989年「レコード・アカデミー賞」を受賞している。1984年、1999年に来日した。

 メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 変ホ長調 作品20は、メンデルスゾーンが1825年の秋(16歳の時)に作曲した室内楽曲。若くはあったが、既に習作の域を越えた作品に仕上げられており、その古典的な完成度の高さによって、現在でも、しばしば演奏されている作品。もともとこの八重奏曲は、4つのヴァイオリン、2つのヴィオラ、2つのチェロのための曲であるが、現在では、弦楽合奏用の作品として演奏されることも多い。なお、スケルツォのみメンデルスゾーン自身による管弦楽編曲版が存在する。この曲の発想は、ゲーテの「ファウスト」からの霊感、さらにはベートーヴェンやフンメルなどの七重奏曲に刺激を受けて、作曲されたと考えられており、もともとは交響曲1番ハ短調(1824年)の第3楽章「メヌエット」として作曲されたものを編曲した作品と言われている。

 このCDでのイタリア合奏団のメンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 変ホ長調 作品20の演奏は、全体を通し、流れるような優美な雰囲気が醸し出され、落ち着いた中にも、躍動感もたっぷりと盛り込まれたものに仕上がっている。各弦楽器奏者たちが、あたかも互いに語り合いながら曲を次々に進行させていく様子が手に取るように聴きとれる。少しも無駄な語り口がないにもかかわらず、たっぷりとした情感がぎっしりと詰まった充実した演奏内容だ。一見すると、セレナードやディベルティメントを思わせる曲想であるが、よく聴くと、それらの音楽をより一歩踏み込んだ、深い精神性も持ち合わせた曲であることが、このイタリア合奏団の演奏から聴き取ることができる。そして何よりも、抜けるような青空を仰ぎ見るような清々しさに満ちている演奏内容に、心が満たされる思いがする。
 
 メンデルスゾーン:シンフォニア(弦楽のための交響曲)は、メンデルスゾーンが12歳から14歳にかけて作曲した、交響曲を書く上での習作とされた作品群の総称を指す。全部で12曲存在し(第13番は未完成とも言われ「交響的断章」と呼ばれる)、近年になりその優れた内容に注目が集まっている。もともと、これらの曲は、メンデルスゾーン家で毎週開催されていた日曜音楽会において演奏するために作曲された。この日曜演奏会は、ベルリンの宮廷楽団のメンバーや当時ベルリンにいた高名な音楽家達により編成されていた本格的なものだった。これらのシンフォニアは、バッハの影響を受けながら、多彩な旋律、高度な対位法と和声を用いた、メンデルスゾーン初期の優れた作品群であり、これらのシンフォニアをベースとして、以後、メンデルスゾーンは交響曲(第1番~第5番)を作曲することになる。

 シンフォニア(弦楽のための交響曲) 第6番 変ホ長調は、第1楽章アレグロ、第2楽章メヌエット、第3楽章プレスティッシモの3つの楽章からなる。一方、シンフォニア(弦楽のための交響曲) 第10番 ロ短調は、アダージョ・アレグロの単一楽章からなる。若きメンデルスゾーンのこれら2つの作品において、このCDでのイタリア合奏団は、メリハリをきちっと効かせ、躍動感に溢れ切った演奏の冴えを聴かせてくれる。これらのシンフォニアは、後に作曲する5つの交響曲の習作ともいえる作品なのではあるが、習作とするには、もったいない内容を持った作品でもある。これらの作品をただ凡庸に演奏するのでは、その真価を発見することは到底不可能であるが、イタリア合奏団は、これらの曲に真正面から取り組み、細部にわたって行き届いた演奏を聴かせることで、これらの曲の存在意義を高めている。(蔵 志津久)
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