御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

「神の子どもたちはみな踊る」 村上春樹

2009-04-19 23:03:21 | 書評
阪神大震災に啓示を受けた6つの短編とのこと。実際啓示となぞに満ちている。

-UFOが釧路に降りる-
阪神大震災の報道に見入り続け、ふっと里にかえってそのままの奥さん、釧路に運んだなぞの荷物。「圧倒的な暴力の瀬戸際」というなぞめいた言い方、シマオさんの「でも、まだ始まったばかりなのよ」というせりふ。

-アイロンのある風景-
からっぽ、ってどういうことなんだ? ジャックロンドンの小説を手がかりに進めているが、このからっぽ、の物言いの重さがちゃんとうけとれないなあ。

-神の子どもたちはみな踊る-
美しい母親に劣情を抱く僕と田端さん、それを分かち合い理解し呼びかけることで何が変わるのだろうか?「ぼくらの心は石ではないのです・・・石はいつか崩れ落ちるかもしれない・・・でも心は崩れません・・・」このあたりきめぜりふなんだけど、率直に言って陳腐なんだよねえ。他の部分の面白い言い方などに比べて、なんでなんだろう、って思う。
かえるくん、というあだ名はあとの作品と関連する? 「おちんちんがおおきい」ことは何かを象徴するのかしないのか?

-タイランド-
「石」をもたらした男は?義父なのか? 白熊の話は何の隠喩?

-かえるくん、東京を救う-
これは全体の象徴として純粋に読めたと思う。恐らく締めにふさわしい。「「機関車」と片桐はもつれる舌で言った、「誰よりも」。」はちょっと感動したな。

-蜂蜜パイ-
これは不要だったのでは?ノルウェーのやり直しのような?


村上春樹「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」

2009-04-19 21:36:10 | 書評
先週は「ノルウェー・・」を読み直し、今週は「神の子ども・・」「世界の・・」を読み直し、と村上春樹が続いている。まえからまあ好きだが腑に落ち切らない作家、ということで少々引っかかっていたのだが、これを機に少しでも片付けようという魂胆。

さて、「世界の終りと・・」。読み直して思うに、前回は全然読めていなかったことを改めて理解。小松左京とかがまあ典型だけど、SF的・ファンタジー的構図については案外作家は一生懸命読者にわからせようとするわけだし、ネタばれにならないよう隠すにせよどの辺が隠れているか、わからないようにしているかは、わかる。しかし村上氏の説明というか文章は、ファンタジックでない部分であっても何か唐突だったりさらりと異物が飛び出して、そしてそれらがさして発展性や関連性もなくそれで終りだったりすることも多いため、細部をいちいち「相手に」していられない要素がある。なもんで、さらりと読んで良くわからなくなってしまっていたのだろう、前回は。

で、今回はまあ筋は良くわかった。それに、ちょっとした観察や物言いがかなり面白いことがよくわかる。たとえば、
-「包丁をうまく研げる女性は少ない」と唐突に出て発展性なく終わる
-「カタツムリや爪切りや・・のことを考えてみた。」と些細なものを次々と挙げた上で「世界はあらゆる形の啓示に満ちている。」と、真顔で落とす。
とかね。ところで次の一節は完全に西脇順三郎の「女神」だな。
-「そしてそれはカタツムリを濡らし、垣根を濡らし、牛を濡らすのだ。」
カタツムリは話題に出ていたけど、なんで牛なんだ?

「私」が意識を失う前の行動と思いにかなりの文が割かれている。でもやっていることは結構普通で、そして恐らく実質的な死期の迫る人間としては結構当を得ているのかなあと思う。生きてきたように死ぬのだ、とは時々聞くが、それはホント具体的にそうなのだろう。

しかしやっぱり腑に落ちないことは多いなあ。
-結局「影」とはなんだったのか? 心そのもののようなそうでないような・・
-なぜ自分の作った世界で自分の思うように行かないことがかくも多いのか?
-自分の作った世界に責任を持つため残るとはいうが、居たからって何ができるというのか? 「僕」は妙に「真っ当」すぎないか?それは「心」云々言っている場面でもそう感じられる。
-ハードボイルドの最後で「公正」ということばが唐突に何度かでてくるが、なんでこの間際でそれまでかけらもでてこなかった「公正」が問題となるのだ?
-なんで第3回路に入ることで「私の失った物を取り戻すことができる」のだ?

「南のたまり」を抜けた影はどうしたのかなあ。溺れて死んじゃったかなあ。無事現実に戻っても主人と別れてしまったので生きていけなくなってるかなあ。それとも、影は現実的配慮の象徴とすれば、それがなくなって「僕」=「私」はユートピアである自分の脳内環境に生きるってことでいいのかな。つまり「私」が意識を失うことは「僕」が森で暮らすことと同値なのか。それだとハッピーエンドって考えてよいのだろうか?

文学的余白も多いだろうからわからんわからんいうのも不粋だが、うーん、だれかたすけてくれぃ!。