御託専科

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東郷和彦「北方領土交渉秘録」

2007-06-04 12:54:38 | 書評
鈴木宗男、佐藤優らとともに悪者にされた外務省元欧亜局長。終戦外務大臣東郷重徳の孫であり、父親(娘婿)も次官・駐米大使を務めた。
外交というのが大変な労力の末行なわれいるいろいろなニュアンスの積み重ねでありまた交渉当事者の心情というか志に多分に負うところがおおく、志の一致が多大な成果に結びつくのだ、ということをよく理解した。

とはいえ、ド素人評論で申し訳ないのだが敢えて言うと、やはり客観情勢なきところに領土交渉のWindowは開かない。終戦直前わずか2-3週間のソ連の極悪事の象徴である北方領土。それは日本にとってではあるが今のロシアにとって見れば実効支配をしているのは自分であり返すなどという義理はない。交渉に応じるかどうかはメリット・デメリットベースで考えればよいことだ。いまのロシアにとっては。今朝報じられたプーチンのそっけなさもよく理解できる(とはいえいっていることは複雑だと思う。新聞の解釈と違い案外良いメッセージかもしれない)。
様々なニュアンスや友好関係の下地に支えられたとはいえ、やはりソ連崩壊と経済的混乱を含めた新生ロシアの不安はチャンスだったし、この大きさのチャンスは当分想像がつかない。
①ロシアの成立直後はソ連時代の考えと行為を否定することができるチャンスであったし、実際に内政・外交ともに数多く行なわれていた。そこには今後の実利という観点もあったとは思うが、その一方で長い間の理不尽な状況への反発として磨かれた高邁な理想論の数々もあったに違いない。エリツィンの本気の背景もこの辺りにあったと思われる。
②やはり経済と政治的孤立。経済がむちゃくちゃで国際的にも他国が様子見でいるときこそがチャンスだった。
③日本国民、海外世論。どれだけ知ってるのかなあ、日本人でさえ。「1945年、日本」という映画でも作ったらどうだろう? (米国と)ソ連の犯罪的攻撃をまざまざと知るべきだよな。いつまでも居座ってるんじゃないよ!ぐらいのことをいっていい相手であることは知らないとねえ。

次のWindowはいつくるのかなあ。それまで外務省の職員や政治家を含む心ある人々の長い長い助走(であればよいのだが)がつづくのだろうなあ。

それにしてもそういう地道な努力の積み重ねが検察に挙げられるとはねえ。悪い先例を作ったものだと思う。