古代イスラエルが神聖政治国家から王制に変わったのは、BC1044年頃と推定されています。
それまでは、預言者や祭司やさばきつかさと呼ばれる人たちが、国の問題をさばいていました。
また、イスラエル12部族と言われる各領地で、部族の長老たちが
それぞれの地域内での問題を解決していました。
ところが、その頃、地中海方面から進出してきたペリシテ人という人たちに、
悩まされるようになりました。
ペリシテ人は、鉄器など優れた先進文化と武器を持っていました。
そこで、イスラエルの民は
時の大預言者で、さばきつかさでもあったサムエルに、
他国と同じように、戦闘の専門家である王を持ちたいと願い出たのです。
王制は神聖政治制度を揺るがすことですから、サムエルは民の要求を気に入らなかったのです。
ところが、
これについて神にお伺いを立てると、意外にも神は「民の要求を聞くように」と言われ、
サムエルは、神様の示す若者を選んだ、それが、サウルだったのです。
この選びは、大変不思議なプロセスをたどっています。
たまたま、サウルは父親から行方不明になったろばを捜すようにと命じられました。
山野をさがし歩いていたサウルは、
評判の先見者(預言者)がいると聞いて、サムエルに会いに行きます。
いっぽう、サムエルは、
ちょうど出会った若者に対し、
「この者を、イスラエルの王として選びなさい」と、神様の声を聞くことになります。
サウルに神の任命を伝え、油を注ぎ(王に任命する儀式)、
日を改めて、全イスラエルの代表の前で、サウルを紹介するのです。
(Ⅰサムエル記9章~10章)
◎ ●
サウルが、イスラエルの民の前にデビューする場面は、また、大変、印象的です。
サムエルは全部族の頭にくじを引かせます。するとベニヤミン族がそれを引き当て、
さらにベニヤミン族の氏族にくじを引かせ、そこから、キシュの子サウルが当てられるのです。
ところが、サウルは恥ずかしがって、荷物の陰に隠れていました。
人々が、走って行って、サウルを荷物の陰から引き出したのです。
民の前に立たされたサウルは、「民のだれよりも、肩から上だけ高かった」のです。
(Ⅰサムエル記10章20節~23節)
そのときの様子を聖書は、次のように描写しています。
サムエルは民のすべてに言った。
「見よ。主のお選びになったこの人を。民のうちだれも、この人に並ぶものはいない。」
民は皆、喜び叫んで、「王様。ばんざい」と言った。(同24節)
サウルのデビューは晴れがましいものでした。
美しくて長身の新しい王を、民は歓呼の声で迎えたのです。
サウルの美貌は、多くの人民の支持を引き寄せました。
しかし、残念ながら、王の職務は、美貌だけで務まるようなものではありませんでした。