自殺サイトにアクセスしていた女性が、
ネットで知り合った男に連れ出され、殺されたらしいというニュース。
今でも、自殺サイトなんかがあるのかと、ちょっと驚いている。
★
2010年の夏、
私は開設したばかりのSeeSaaブログに、何篇かの小説を出した。
その短篇の一つが、自殺サイトに集団自殺を志願した女性の物語だった。(世界はだれのもの)
サイトで知り合ったリーダーと約束を交わし、志願者が集まるために、ある夜、ある駅まで行く。
しかし、そこには、来るはずの他の志願者二人は来ず、リーダーと名乗る男と二人だけになったとき、
彼女は、ふと、その夜、
高校時代の友人の部屋での小さなクリスマスイブ・パーティに、招かれていたのを思い出した。
友人の顔が浮かんできて、ちょっと葛藤しているとき、当の友人が、電話をかけてくる。
車でピックアップするので、最寄り駅に来るようにとの誘いだった。
瞬間、彼女は、我に帰り、改札を駆け抜け、プラットホームへ上がる。
飛び乗った電車は、終電だった。彼女は、一瞬に、死の淵から生還したのだった。
ネタバレしてしまったように見えるでしょうが、私が、これで書きたかったのは、もちろん、
自殺願望に至るひとりの若い女性の、底知れない孤独な内面でした。けれど、
同時に、サイトで「見知らぬ自殺願望者と出会う」あやうさに、
何か言わないではおれなかったのだと、思います。
2000年ごろから、集団自殺のニュースが、時おり報じられていたころでした。
★ ★ ★★★
道を歩いていて、たまたま顔が会った人から、「いっしょに死んでくれませんか」と言われて、
「いいわ」と応じる人は、まず、いないのではないでしょうか。
ぎゃくもあるでしょうか。道でたまたま目があったからと、「私の命を取ってください」
なんて言えっこないでしょう。そんなことをしたら、
今はやりのことばどおり、「ドン引き」されることでしょう。
コミックや純文学なら、あるいは、「いいわ」と答えるところから、話が始まるかもしれない。
でも、それで、そのまま死んでしまったら、話は終わってしまう。
むしろ、素敵なストーリィが展開されていく。それゆえ、
読者は、そこに夢と可能性を見出し、
想像力に引かれる架空の話の中で、「生きよう」と思う。思わせるような希望をみるために、
コミックや映画や小説があるのでしょう!と、思うのです。
★
ネットの中には、確かに、たくさんの夢や希望があるように見えます。
仕事を見つける人もいるし、恋人を見つける人も、未来の配偶者を見つける人もいる。
資格を取ることもできるし、知らない世界の情報を知ることもできるでしょう。
欲しい物がいろいろと売られていて、
自分を売ったり、自分の持ち物を売ったりもできる。
わざわざお店に行って服を買ったり、毎日スーパーに食料を買いに行くこともない。
地球の裏側の町の様子も、あらかじめ調べてから旅行に行ける、
手術を受ける前には担当医の説明と、ほかの医者の説明を比べることもできる。
たしかに、無料で、心の問題の相談に乗ってくれるサイトもある。
でも、でも、
道を歩いていて「たまたま出会った知らない人」に、「渡してはいけないもの」を、
まして会ったこともない人に、「一番大切なもの――命」を
預けるのはやめましょう。
人は、何もしなくても、やがて、死んでいく。
確実に、死んでいくのですから。
◎さとうまさこの小説のサイトは、今は閉じています。小説は2016年12月、電子書籍になり、
現在、アマゾンから販売されています。
よろしければアマゾンの販売画面で、「さとうまさこ短編小説集」と入力してくださって、
広告をご覧ください。
短編集は目下二冊だけです。ほかには、聖書に取材した「聖書物語」が出ています。
お買い求めいただくと、無料の読書アプリが直ちにダウンロードでき、
PC,タブレット、スマホでお読みになれます。