髪一本 また一本と抜いていく 沈黙の世界を生きる手 なまめく
ずいぶん前にワードに書きつけたまま、時おり読み返す歌です。
重度の自閉症の女の子のお世話をしていたときの光景です。
色白で目鼻立ちの美しい6年生の女の子でした。
一言も言葉がなく、外の世界の何物にも興味をひかれないかのように見えました。
毎日、部屋の隅の同じ場所ににうずくまっていました。
ある梅雨空の日、黒いたっぷりとした髪の毛を、一本一本、抜き始めました。
止めても、また、始めます。足元には、黒い毛がまるで床屋の床のように散らばっていきます。
指に手袋をはめさせたり、花を手折ってきて持たせたりしましたが、効果はありません。
夏が終わるころ、髪の毛を抜くのは止まりました。
身長も、私を追い越しました。
