がんの情報Tips

海外のがん情報を紹介。『海外癌医療情報リファレンス』https://www.cancerit.jp/関連ブログ。

続・肺癌スクリーニング試験の意味【2】-NYタイムズより

2007-03-19 | スクリーニング
2つの試験結果の相違はなにか  元記事、および【1】 の続き 

NEJM試験では、31,000人がスパイラルCTを受け、484人の肺癌が見つかった。現在、米国の肺癌患者の生存率は10%であるのに対してこの患者らは10年の生存率が80%であった。JAMAの試験で報告された死亡率は、検診を受けていない群で予想される死亡率と同等である。

ほとんどの人は、『生存率が上がった』というと、死亡数が減少したことを意味すると解釈する。が、そうではない。生存率とは本来2つの大きな歪みを含んでいる。

一つ目は、先行期間バイアス(lead-time bias)と呼ばれるものである。単に、(CT検診で)診断時期を早めることによって、常に生存率は上昇する。二人の肺癌患者がおり、両者70歳で死亡するとして、一人はスパイラルCT検診によって59歳で癌が見つかり、かたや67歳で症状(せき、体重減少など)から癌が発見されたとすると、前者は11年、後者は3年間生存したことになり、前者のほうが生存期間は長くなる。しかし、両者とも同年齢で死亡している。生存率は増加するが、死亡率は同じである。

2つ目の歪みは、過度の診断によるものである。検診によって、決して進行することも命を脅かすこともない癌が発見される場合である。過度の診断によるバイアスとは、たとえ死亡率が変わらずとも、生存率統計を極度に上げてしまうことが可能となる。

肺癌スクリーニングの目的は、死亡率を減らすことである。NEJMの試験では生存率だけを測定しているのに対し、JAMAの試験では、死亡率を調べており、より確実な試験であるといえる。
しかし、今回どちらのスタディもランダム化試験でなく、確実なデータではない。

幸い、2つのランダム化試験が進行中である。われわれは、臨床試験で死亡率の低下が証明されない限りは、肺癌検診を慣行すべきではない。

この論説は"Should I Be Tested for Cancer? Maybe Not and Here's Why" (癌の検診を受けるべきしょうか?いいえ、そうとはいえません。なぜか?」(カリフォルニア大学出版)の著者H. Gilbert Welch, Steven Woloshin and Lisa M. Schwartzによって書かれています。

NYT記事より要約抜粋

     
参考:FDA『全身CTスキャンについて』
NCIキャンサーブレティン2007年1/23号「晩年の前立腺癌検診は恩恵より害のほうが大きいかもしれない」日本語訳


4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
良い見方をしています (ku_md_phd)
2007-03-19 20:39:39
おっしゃる事は良く分かり、反論はなかなか容易ではありません。

肺癌については、時代が急激に変わってきており、腺癌の増加であるとか、女性の肺癌であるとか、検討すべき課題も多くて、道のりはタフですね。

しかし胃癌や大腸癌の治療はまさにlead-time biasを利用したものです。lead-time biasを利用し、合併症のない治療を開発できれば良いのですよね。肺癌にもきっと良い治療が開発されると思います。
返信する
深い考察をありがとうございます ()
2007-03-19 22:40:23
全文読んでいただき、僭越です。
私には目からうろこでした。
肺癌と消化器の癌も異なるところも大きいのでしょう。

一箇所意味不明な部分がありました。原文を書いておきます。スミマセン(^^ゞ
The study data are consistent with as many as eight deaths prevented by screening, or eight extra deaths caused by it.
返信する
進行がんの話だと思うけれど (ku_md_phd)
2007-03-20 20:02:10
たぶん進行癌が42名見つかった(予測は34名)事に対して、8名の命を救ったのか、あるいは逆なのか、というような事を言っているのではないかと思うのです。こういう暗示的な表現は、ちょっと蛇足かと思いますが、こういうところに著者の主張は隠れているような気もします。
返信する
ふうむ・・ ()
2007-03-21 21:10:48
やはりそういうことですよね。解説ありがとうございます。

>こういう暗示的な表現は、ちょっと蛇足かと思いますが、こういうところに著者の主張は隠れているような気もします。

これも素敵な解説ですね^^ 
著者は出来る限り中立なスタンスであろうと述べているように思います。
返信する

コメントを投稿