「へンくつ日記」

日常や社会全般の時事。
そして個人的思考のアレコレを
笑える話に…なるべく

ラーメンの思い出

2010年05月06日 18時39分23秒 | Weblog

それは、まだ父と母が一緒で
妹や生まれたばかりの弟たちと
平和で穏やかな暮らしをしていた頃の話だ

小学校に上がる前だった僕は
母の買い物に連れられて
近所のスーパーに行ったのだ
そこでは、最近売り出したばかりの
インスタント麺というものの試食会をやっていた
確か「チキンラーメン」だったと思う
子供ながらに斬新なイメージを受けた

試食会では、売り子さんが
少しの麺とスープが入った小さな容器を
行き交うお客たちに配っていた
母は、その容器を受け取ると
そっと僕に渡した

僕は、その未知の食べ物を
夢中になって食べた
とんでもなく美味しかったのを覚えている

だが、母はその新商品を買うことはしなかった
売り出されたばかりのインスタント麺は
当時としては、まだ高価な食べ物だったのだ
少なくとも、我が家には高価な品だった
「高いから買えない」母の心を察知して
僕は食べ終わった後に
「たいして美味しくなかった」という顔をして
器を売り子さんに返したのだった


臨床心理士の網谷由香利氏が
『こころの病が治る親子の心理療法』のなかで
「大人は知識や経験が多く
 外側(現実)を見る目はある
 しかし内側(心)を感じ取る能力は
 子どもの方が優れている」と指摘している
 それは当たっていると思う


ともかく、幼い僕にとって
インスタント麺との出会いは衝撃だった
それは最高に美味で
とても贅沢な食べ物という印象を
記憶の底に刻み込んだのだった

それが原体験にあるせいか
長い独身時代の自炊の際には
いつもインスタント麺が主役
もしくは脇役で必ず食卓にあった
今でも、妻の買い物に付き合う際は
ついインスタント麺を買ってしまう
「身体に悪いからダメ」と妻に反対されても
それが常備されていないと不安なのだ
食料棚に種類の異なる5つパックの
ラーメンが幾つかあると、心底ホッとする
ただ、最近はインスタント麺を食べると
胸焼けがして、あまり食べる気にならないのだが…


ラーメンでは悔しい思い出もある
小学校に上がったばかりの頃だ
帰宅しても家には誰もいない
母はもちろん、幼稚園児の妹と保育園児の弟
一番下の、まだ赤子の弟もいないのだ
皆でどこかに行ったのだと思い
不安なった僕は泣きながら町に向かった
すると、向こうから母と兄弟たちが歩いて来た
何処に行っていたのかと母を責めると
母はケロッと「皆でラーメン食べてきた」

僕だけを除け者にして
おまけに僕の大好きなラーメンを
皆で食べたことに僕は怒った
僕の帰宅をもう少し待ってくれても
良かったのにと、僕は地団駄踏んで悔しがった
そんな僕に母は「大げさねェ」と笑った
僕にはそれが余計に腹の立つことだった
四十数年経った今でも
「あの時は悔しかったなぁ」と思い出すのだ
食い物の恨みは、本当に怖いのだ


そう、ラーメンでは
もうひとつ残念な思い出がある
それは中学生の時だ
父子家庭だった我が家に
親友のIが遊びに来た
もうすぐ夕食という時だったので
Iは間もなく帰ると思ったのだが
なかなか帰らない
そして夕食時となったが
赤貧の我が家のその日の夕食は
なんとインスタント麺だった
父は三つしかないインスタント麺を茹で
ひとつは妹に、後の二つは
僕とIに分け与えた

Iは嬉しそうにラーメンをすすった
そんなIを僕は恨めしげに見ながら
ラーメンを腹に詰め込んだのだった
その日の父の夕食は無かった
「お前がラーメンを食べたから
 父さんの夕ご飯がないじゃないか」
僕は心でIをなじった
そんな僕に心にIは気づかず
嬉しそうにラーメンを平らげたのだった

その後、三十年ほど経って
Iと北海道で再会した
酒を酌み交わしながら
僕はあの時のラーメンの話しをした
「お前のせいで、あの時オヤジの夕飯はナシだった」と
するとIは「申し訳なかった」とは言わず
「そんなことあったっけ? アハハハ」と大口を開けた
相変わらずの無神経ぶりに、少し腹が立つと同時に可笑しくなった
オヤジになっても性格は変わらないのだと…

父と母が離婚し家族がバラバラになった後に
父と僕と妹の三人で食べた
札幌の安食堂のラーメンも忘れがたい
あんなに味気ないラーメンは初めてだった
(そう、ドラマ「北の国から」で
 親子三人でラーメンを食べるシーンがあったが
 あれを見たとき、自分の幼い頃を見るようで
 たまらずに泣いた記憶がある)


ともかく僕は、ラーメンという言葉に
異常に反応してしまう
それは貧乏だった頃の象徴的な食べ物であり
そして命をつないだ大切な食べ物なのだ
年齢的・健康面のこともあり
これからラーメンを食べる頻度は減るだろうが
ラーメンに対する想いは変わらないのだ

…なんて大袈裟な
コメント (2)
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