たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

障がい者に光を <筋ジス・・ 8歳から入院37年 24時間介護実現>を読みながら

2017-11-06 | 差別<人種、障がい、性差、格差など

171106 障がい者に光を <筋ジス・・ 8歳から入院37年 24時間介護実現>を読みながら

 

90年代から2000年代にかけて法曹人口増大の外圧が高まり、あっという間に多くの法曹、とりわけ弁護士が急増しました。このことに反対し、あるいは懸念を抱いた多くの弁護士がある種抵抗勢力となって、当初政府が予定していた数には達せず、1500人くらいの増加で踏みとどまっているように思います。それでも以前は年間500人前後だったのですから、3倍ですね。しかも裁判官・検察官の増加はわずかですので、その分弁護士が急増です。

 

私自身はこの問題にあまり関心がないというか、適度な増大は必要だと思っていましたが、東京を含む都心は別にして、地方では少数派になるでしょうね。当地という田舎にやってきてひしひしと感じるようになりました。弁護士の数は毎年増えていきますが、私のようによそから来た新参者で社交性がないと、仕事が限られます。おかげでこんなブログを続けることができるのかもしれませんが。

 

ただ、それでも弁護士が増えた功罪は社会にとってプラスではないかと思っています。たぶん現在日弁連が積極的に取り組む貧困問題や障がい者対策、性差別やジェンダー問題など次々と提起される問題は、この増大する弁護士という受け皿があってこそ、対応できつつあるように思うのです。

 

20年前、いや30年前に比べ、弁護士の活動範囲はきわめて広がっていったと思います。ただ、まだまだもっと社会の各分野に入り込んでいく必要があると思っています。訴訟という舞台もたしかに行政事件訴訟法の改正などで、事件として取り上げることができるようになったケースも多いと思います。しかし弁護士の仕事は、訴訟になる前の予防司法的役割としては半世紀前から指摘されていますが、まだ緒についたばかりではないかと思います。

 

と長々と余談になりましたが、毎日夕刊記事<筋ジストロフィー男性の自立生活 8歳から入院37年 24時間介護実現「見る景色変わった」>は、そんなことをふと思い出さしてくれました。

 

桜井由紀治記者が冒頭で<全身の筋力が低下する難病「筋ジストロフィー」を患う金沢市の古込(ふるこみ)和宏さん(45)が10月、37年間暮らした病院を退院し、地域住民や弁護士の支援を受け市内の民家で自立生活を始めた。長時間介護が必要な人にヘルパーを派遣する国の自立支援制度「重度訪問介護」で、市が1日24時間介護を決定し、実現した。古込さんは「見る景色が変わり、社会に出て来た実感がする」と喜びをかみしめる。>と、重度訪問介護に弁護士が訴訟を介しない形で関与していることが指摘されています。

 

古込さんも一度は真剣に死を考えたようです。

<古込さんは5歳で発症、8歳から金沢市の病院に入院した。自発呼吸ができず人工呼吸器が欠かせない。日常会話は可能で、口にくわえた細い棒でパソコンのマウスを動かし、文章を書く。2012年4月の40歳の誕生日に虫垂炎で容体が急変、一時心停止状態となった。

 一命は取り留めたが「あのまま死ねばよかった」と思った。>

 

<富山県で自立生活を送る難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の新聞記事>が古込さんに暗闇の中に光を灯したようです。

 

国の「自立支援制度」は本来、適切な申請をすれば本当に被支援者が自立できるように支援する制度ですし、そうでなければなりません。

 

<同ネットが地元弁護士を中心に支援グループを結成。医師を交え月1回、自立生活に必要なケアについて話し合った。古込さんは病院内の施設で宿泊訓練を重ね、ヘルパーに1日の詳細な介護記録を作成してもらった。>記録が大事なのです。

 

そして医師の医学的知見。<「24時間見守りも含めた介護がなければ生活できない」との担当医師の意見書も添えて今年3月、市に申請。>

 

その結果がすごいですね。<その後も市担当者と交渉を続けた結果、10月12日、月937・5時間の支給決定が出た。入浴や移動時には2人での介助を受ける時間数も含め、24時間介護が可能になった。>なんと付き937.5時間です、これは1日当たり31.25時間ですから、24時間を軽くオーバーします。そもそも一人での介護では成り立たないのが実態です。24時間をきちんと介護してもらい自立するには、それだけの時間が必要と言うことでしょう。

 

これでようやく古込さんが一人で自立する一歩を歩むことができるのであって、これからも持続的に必要な介護ができるように、周囲も支援していかないといけないでしょう。

 

さてこの記事を見て、和歌山でも大きく話題になった裁判を思い出しました。大阪弁護士会のこの分野で経験豊かな池田直樹弁護士(同姓同名で環境問題に造詣の深い弁護士とは懇意ですが、この方はお会いしたことがありません)と和歌山弁護士会の若き熱心な弁護士たちの画期的な2つの勝訴判決の獲得です(私の手元にあるのがたまたま2つで他にもあるかもしれません。

 

一つは、大阪高裁平成231214日判決(判例地方自治36631頁)で、原告は出生時から脳性麻痺で重い障害を抱えていて、身体障害者等級1級の認定を受けていました。。もう一つは和歌山地裁平成24425日判決(判例時報217128頁ほか)で、原告になったのは筋萎縮性側索硬化症(ALS)によりによる両上肢機能全廃、両下肢機能全廃、言語機能喪失の障害を有しており、身体障害者等級1級の認定を受けていました。

 

いずれの方の症状も、おそらく古込さんと類似する重度の障がいで、一人では何もできないのです。詳細は、それぞれの判決の中で、その生活実態が詳細に指摘されていますので、関心のある方はご覧ください。

 

いつかこの裁判例を整理したいとは思いますが、今日のところは、単に、当時の福祉事務所がどんな意識で、介護時間を設定していたか、それをご本人、弁護士、介護者などが協力して、訴訟で完璧に覆したのです。

 

たとえば、大阪高裁では、平成19年の「介護給付費支給決定のうち、重度訪問介護の一か月当たりの支給量三七七時間を超える部分につき支給量として算定しないとした部分を取り消す」とか、平成21年の「介護給付費等の支給申請に対して、重度訪問介護の一か月当たりの支給量五七八時間を下回らない介護給付費支給決定をせよ。」とか、大幅に介護時間の増大を決定しているのです。

 

また、和歌山地裁の事例では、平成23年の「介護給付費支給決定(和福障(自)第1178号)のうち、重度訪問介護の1か月当たりの支給量268時間を超える部分につき支給量として算定しないとした部分を取り消す」とか、同年の「介護給付費等の支給申請に対して、重度訪問介護の1か月当たりの支給量542.5時間を下回らない介護給付費支給決定をせよ」と同様に重度訪問介護者の実情にあった司法判断をしています。

 

このような裁判例は、その後各地で、従来の取り扱いを改める行政の動きになったのではないかと思います。

 

この成果を的確に紹介できるよう、次には少し丁寧に読んでおきたいと自省を示しておいて、今日は終わりとします。また明日。


なお、桜井記者のこの記事もいいですね。<介護保障シンポジウム時間数拡大を 弁護士と障害者「自立生活に必要」 神戸 /兵庫


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