地震国日本での安全性とは
東日本大震災・大津波の影響は、福島第一原発のメルトダウンを含め東日本一帯にいまなお深刻な被害が各地で見られます。
3.11地震後に千葉県成田市で発生した地盤沈下による住宅の傾きは、多くの甚大な被害に比べれば、小さいかもしれないですが、当事者となればやはり深刻です。施主は住宅メーカー・積水ハウスを被告にして損害賠償請求の訴えを提起しました。積水ハウスは地震による液状化の結果、不同沈下したと反論しました。先月29日東京地裁が、被告の主張を否定し、適切な地盤調査がなされず、本来地盤改良すべきであるの、それを怠ったとして、債務不履行および不法行為責任を認め、請求額に近い約1400万円の支払を認めてました。
この概要は、3社による3つ地盤調査の内容を含めて「日経ホームビルダー」のホームページhttp://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/bldhbd/15/1611/101400001/ でわかりやすく紹介されています。
たしかに東日本大震災の直後、地盤工学の専門家などが震源地はもちろん、東京湾沿岸を含め、各地の調査に入り、地震による影響が即座に写真等で報告されていました。たとえば、千葉県浦安の分譲地は不動産業界のトップ企業が埋立により造成し、億単位が相場の優良住宅地と評判でしたが、その液状化による被害はとても言葉では言い表せないほどでした。
ところで、私たちは、時として、各種の科学的調査やデータが相当信頼できるとの前提で、日常の生活を営んでいます。その安全性への信頼は、科学的技術やシステムの発展で、相当程度高まっていると思います。とはいえ、このケースで実施されたスウェーデン式サウンディング試験(SWS試験)は、簡易な調査で、地盤構造からいうと表層部だけの強度を測定するに過ぎません。むろん、この調査は建築基準法上、有効なものとされ、一般的な戸建て住宅の建築では問題ないと思います。
ただ、前提として当該土地の形成の履歴がきちんとした資料に基づきあることが求められると思います。日経の記事だけだとそこははっきりしません。というか、わが国の土地開発の歴史はむろん古く、他方で造成等の地形・地質の記録はあまりありません。とりわけ昭和36年成立の宅地造成規制法は、乱開発による造成地崩壊などの被害を受けて生まれましたが、その後も大きな被害が発生し、昭和43年以降も頻繁に改正を繰り返しています。
当該地がいつ宅地造成が行われ、それが切り盛りされた地形かは重要な情報ですが、そのような記録が十分に残されていないことが少なくないのです。それだけではなく、開発許可制度が強化され、地滑り防止法などが施行されるようになって以降はある程度の情報が整備されてきましたが、それ以前は、地形図などの情報を頼りに、専門家が過去に地滑りがあったか、造成盛土されたかなど判断する傾向にあります。その判断は相当信憑性に問題があります。
それでもそういう地形・地盤の歴史を考察することは重要です。しかし、地盤の下は分からないことだらけです。それは強度や揺れへの耐久力といった面に止まりません。地下水脈や汚染などになると手探りです。それをボーリング調査で一定のメッシュ間隔で調査したからと言って、その限度で一定のデータを確認できるに過ぎません。
そのような安全性に関する信頼度が絶対的なものになりうることは困難だと思うのです。とりわけ地震については、ほとんど分かっていません。現在、裁判等で争われる場合でも、過去の分かっている地震データを基に、その耐震性を検討するに過ぎず、安全というのはその限度で図られていることを理解しておきたいと思うのです。
その点、維新前の日本は、西洋文明・科学技術が導入する前、みすぼらしいほどの家が建ち並んでいたと異邦人によって指摘されています。建物と言っても、すぐに火災や地震で倒れてしまう。でも人々は、平気な顔で、翌日には新に建て直し、その災難を気に留めないように、笑顔で日常を送っているといった言及もあります。
なにが人間にとって安全か、安楽なのか、もう一度振り返ってみたい、そんな思いを持つこともあります。