今回ご紹介するグライダーは、15年ほど前にアメリカのウイルスウイングが開発した「ラムエアー」という機体です。
最初に言ってしまいますが、これはウイルスウイングが唯一出したといっていい、偉大なる「失敗作」のグライダーです。
なぜ失敗作のグライダーを取り上げるのか‥。疑問に思う方が多いと思いますが、実はこのラムエアーで開発されたある技術が、結果的にのちのグライダーに大きな影響を与え、そして、今のキングポストレスの機体の安全性と性能向上に大いに役にたったのです。
そのお話をする前に、まずはラムエアーがどんな機体だったかご紹介しておきましょう。
ラムエアー。変わった名前ですが、実はこの機体はこの名前通りのコンセプトを持った機体なのです。
ハンググライダーの翼断面(翼型)は、基本的にはいつの変わりません。
しかし、翼断面が変わらない場合、高速では抗力が大きくなり性能が出ません。
ラムエアーは、前からくる風のラム圧、つまり、ラムエアーで翼の下面を膨らませて高速で効率の良い翼断面を作り性能を上げる機体だったのです。
しかし、ここで問題が発生してしまいます。
以前この連載で「マライヤ」とう機体が、初めてのダブルサーフェイス機で、アンダーバテンがなかったために下面が膨らみタッキングに入る事故が続出したとご紹介しました。
ラムエアーでは故意に下面を膨らませるわけですから、当然「危険」になったしまうため、適度に性能向上に結び付くように、下面のダブルサーフェイスの膨らみを「制御」してやる技術が必要になったのです。
その新しい技術の回答として考えられたのが、「リブ」だったのです。
翼の中で上面と下面をつないでるアレです。
ラムエアーでは下面を故意に膨らませるため、固いアンバーバテンは使えなかったのです。
しかし、下面が膨らみすぎると危険に陥るため、ある程度下面が膨らんだところで止まるようにリブが考えられたのです。
ウイルスウイングが考えたこのアイデアは、機体の高速性能向上に見事につながりました‥が‥。
実は、VGを中途半端に引いたところで所定のピッチの安定性が不足していることが分かり、大改修となってしまいました。
そして、それが悪評を生み、ラムエアーは全く売れなくなってしまったのです。
ラムエアーそのものは商業的には失敗作に終わってしまいましたが、しかし、ラムエアーの開発段階で発明された「リブ」は、通常のグライダーにとってもとても有益なものだったのです。
リブを翼端を中心に多く配置すると、ピッチ安定が向上し、その分ねじりが下が少なくて済むことが分かったため、更に性能の高いグライダーが作れるようになったのです。
そして現在、リブの無いダブルサーフェイスは皆無と言っていいくらい、この技術は定着しました。
「怪我の功名」ではありませんが、ラムエアーでリブという新しい技術を開発していなければ、今のキングポストレスの高性能は存在しなかったでしょう。