その娘さんは、華子さん 。
延命治療をしないというわが子の意思を
受け入れていたはずのお父さん。
けれど、娘が腎不全を発症して
人工透析が必要と宣告されてからは、
娘の意思を尊重することが
ほんとうに正しいことなのかと
迷い始めるのだった。
腎不全で尿量が減って、
娘の身体はドンドンむくんできたのだった。
そこで訪問診療を担ってくれている医師を交えて
家族での話し合いがもたれた。
医師は彼女に説明する。
透析をしないって選択をした華ちゃんの気持ちを
お父さんは大事にしてくれているけど
本当にそれでいいのか、どうなんだろうって
迷っているって。
それに対して、喋れない彼女は
自分の携帯電話に次のように打ち込んだのだった。
主治医が代読する。
私は透析しないって気持ちは
変わってません
私らしく過ごしたいです
もう十分がんばってきたし
自分の命は自分で決めたことだし
もうパパ 追いつめないで
これを聞いて、娘の顔をじっと見つめるお父さん。
さらに、娘は父へのメッセージを
用紙にしたためていた。
これも主治医が代読する。
パパへ
華子だよ
さっき前田先生から電話がママにあって
パパが前田先生に
私のことを相談したみたいだね
パパ私の体が変わっていくのが
つらくなったんだね
でもね 私は納得しているんだよ
パパとママにはつらいかもしれないけど
私の気持ちは変わらないよ
病院でも手術でも入院でも
十分がんばったよ
(代読の主治医の声が涙声になる)
呼吸器になった時もつらかったけど
私はがんばったのよ
私は自分で治療をしない選択をして
お家で自分らしく過ごしたいから
在宅ターミナルに決めたんだよ
自分の限られた命を
大切に過ごしているから
体が変わっても 寝たままになっても
ちゃんとできるよ 約束できるよ
(父は娘を見やったまま
母は目を拭う)
だからパパとママも最期まで私の大好きな
尊敬できるパパとママで
深呼吸しながら がんばって
私のそばにいてください
しばしの沈黙のあと、眼をしばたかせてお父さんが言う。
「華ちゃんびっくりしたなぁ ハッキリ言うから
怖いぐらい・・・・・
でも 華ちゃんね
(目尻の涙を拭いながら)
まぁ 大事なことっていうのはさぁ
こぅ 生きていくってことは大事だと思うの
でもね 生きているとね
きっとなんかいいこともあるんだよ
わかる?
(娘を見詰め、しばしの時がながれる)
つらいことばっかりじゃないんだよね
いいこともあるんだよ
でも やっぱりせっかく生まれたんだからさ
(涙声になりながら)
少しでも長く生きてもらいたいと思う
はっきり言って死んだら終わりだよ
華ちゃん 」
思わずお母さんが 言う。
「華子だって良くわかってるわよ パパ」
すかさずお父さん。
「それは分かってるよ」
お母さん
「誰よりもわかってるじゃない」
お父さん
「分かってるのは知ってるよ
でも ただチャンスがあるのに
生きるってチャンスがあるときには
やっぱり可能性をね 伸ばしたいんだよ」
これに対しての華ちゃんの答え。
(携帯を主治医が代読)
もう決めたことだから 言わないで
言葉無く、床を見やるお父さん。
番組スタッフに送られた華子さんのメール。
医療は全部受けたつもりだし
穏やかに過ごしたいです
8月の終わり、肺炎となる。
9月14日の朝、華子さんは
自分の意思を最期まで尊重してくれた
尊敬すべき両親に護られて
この世の生を全うした。
あなたの選択を
うらやましく思う方々が
この国には大勢いらしゃいますよ。
えらかったね、華ちゃん!
お父さん、お母さん、立派でしたよ!