読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

60歳の文壇デビューで勝ち取った、「一応の推定」(WOWOW/2009年)

2010-05-11 20:45:36 | 映画;邦画
原作:広川 純「一応の推定」(文藝春秋刊) 第13回松本清張賞 受賞作品
監督:堀川とんこう
脚本:竹山 洋
音楽:清水 靖晃
出演:



<あらすじ>
~山形県の田舎町、暑い太陽が照りつける7月7日七夕の日。ひとりの老人が長井駅のホームから転落、駅に到着した列車に轢かれて亡くなった。老人は3000万円もの高額な傷害保険に3ヶ月前に加入したばかりである上、移植手術をするしか助かる道のない重度の心臓病を患う孫娘がいた。損害保険会社は、孫の手術費用を作るための計画的な自殺ではないかと老人の死を疑い、保険調査事務所の村越(柄本明)に調査を依頼する…。~(WOWOW)


35年のキャリアを持ち、本件で定年を迎えるという保険調査員の村越務が調査において貫いてきたのが「正義と真実」。その村越が、発注者である損保社員の竹内善之に、警察の捜査と保険調査の違いを説き、それは犯罪性の有無の追及と真実の追究の違いだと語ります。

現在、この保険調査の一端に関わっている私としては、日常で直面している問題でもあり、興味深く観ました。交通事故原因の調査がメインなのですが、昨年自宅湯船での溺死という死亡案件に携わりました。本件に事件性があるかどうか、損保会社に対する有無責を調査するものでした。

恥ずかしながら本作を観るまで、保険調査に「一応の推定」という理論があることを知りませんでした。

【一応の推定】理論:
自殺そのものを直接かつ完全に立証することが困難な場合、典型的な自殺の情況が立証されればそれで足りること、すなわち、その証明が、「一応確からしい」という程度のものでは足りないが、自殺でないとする全ての疑いを排除するものである必要はなく、明白で納得の得られるものであればそれで足りる。(長谷川仁彦・宮脇泰『生命保険契約法最新実務判例集成』より) (2007.02.01)

本作では、自殺であったと推定されるための四つの証明が次のように解説されていました。
1)自殺の動機があったか
2)自殺の意志があったと判断できる事実の有無
3)事故当時の精神状況
4)死亡状況

この理論は当然、モラルリスク調査にも応用され、「自殺」を「作為」と置き換えれば、次のような証明をすべきなのだと整理できました。

1)作為の動機があったか
2)作為の意志があったと判断できる事実の有無
3)事故当時の精神状況
4)事故状況

また、原作者の広川純氏が、保険調査会社で実際に勤務し、独立して調査業務をやっておられたことが、本作でも発注者と受託者の関係や、有無責の問題などの微妙な描写に現れていて、リアリティがありました。

35年のキャリアを持ち、本件で定年を迎えるという保険調査員の村越務が調査において貫いてきたのが「正義と真実」。その村越が、発注者である損保社員の竹内善之に、警察の捜査と保険調査の違いを説き、それは犯罪性の有無の追及と真実の追究の違いだと語ります。


交通事故における自賠責は、本来的には被害者の救済を目的にしていますが、過失割合(これを有無責といいます)の判断で、加害者であっても70%未満の過失であれば問題はないのですが、それ以上の場合は減額され、完全に100%悪い、となっては保険が出ません。



殺人などの刑事事件に関する犯罪性の「推定」については、「推定無罪」という言葉もありますね。「推定無罪」は、「何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される」という立証責任の考え方に基づいた近代刑事法の基本原則。

当事者でなければわからない事件、事故の「事実」「真実」は、場合によっては当事者であってもわからりえないこともあります。その「事実」「真実」への追究は刑事事件であっても、保険調査でも「推定」することこそ解明の一歩であることは変わりません。


<推定無罪 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8E%A8%E5%AE%9A%E7%84%A1%E7%BD%AA


この「推定無罪」については、アラン・J・パクラ監督が ハリソン・フォードを主演に起用したスコット・トゥローの同名小説を元にした1990年公開の作品がありました。


<推定無罪 (映画) - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8E%A8%E5%AE%9A%E7%84%A1%E7%BD%AA_(%E6%98%A0%E7%94%BB)




広川 純(ひろかわ じゅん、1946年8月26日 - )は、日本の小説家。京都生まれ。名城大学法学部卒。会社勤務を経て、1986年に保険調査会社へ転職し、1988年に独立する。

<広川純 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%83%E5%B7%9D%E7%B4%94


堀川とんこう:1937年生まれ、群馬県出身。代表作にドラマ「岸辺のアルバム」(TBS系)、映画「千年の恋ひかる源氏物語」('01)など。ドラマW「祖国」「恋せども、愛せども」も高い評価を得た。


<堀川とんこう - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A0%80%E5%B7%9D%E3%81%A8%E3%82%93%E3%81%93%E3%81%86



竹山 洋:1946年生まれ、埼玉県出身。代表作に大河ドラマ「秀吉」「利家とまつ~加賀百万石物語」(ともにNHK総合ほか)など。「点と線」「夜光の階段」(ともにテレビ朝日系)など松本清張作品も手掛ける。


<竹山洋 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%B9%E5%B1%B1%E6%B4%8B


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