読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

人類の歴史を鮮やかに解き明かす、「3つの原理」(ローレンス・トーブ著)

2008-08-26 08:32:37 | 本;エッセイ・評論
~セックス・年齢・社会階層が未来を突き動かす~
神田昌典監訳・金子宣子訳/ダイヤモンド社刊

<目次>
序章 何が歴史を動かすのか

第1部 原理
第1章;時代を支配する社会階層は何か―「カースト・モデル」
第2章;女性的か男性的か、それが問題だ―「性モデル」
第3章;人類は何歳か―「年齢モデル」
第4章;三つのモデルはどうつながるか

第2部 時代
第5章;宗教が人生を支える世界観―「精神・宗教の時代1」
第6章;戦争こそ生きがい―「戦士の時代」
第7章;カネが世界を動かす―「商人の時代」
第8章;仕事への献身と一体化―「労働者の時代」

第3部 近未来
第9章;明日の覇権を手にする国々
第10章;儒教圏ブロックがナンバー1に君臨する理由
第11章;東はまだ赤い
第12章;二つの厄介な質問

第4部 最後のカースト
第13章;宗教から精神への転換―「精神・宗教の時代2」
第14章;宗教ベルトの台頭―イスラエル、インド、イスラム
第15章;21世紀の大脱出
第16章;精神化する経済システム
第17章;精神世界が世界の覇権を宗教ベルトに渡す
第18章;アフリカ、先住民、精神の時代の頂点

~「なんでアルヴィン・トフラーが、東京に住んでいるんだ!」
本書の最終頁を閉じたとき、この問いが私の脳に突き刺さった。それはアルヴィン・トフラーでなくても、ピーター・ドラッカーまたはジョン・ガルブレイスでもよかった。要は、歴史的な思想家と並ぶほどの緻密かつ崇高な頭脳をもった欧米人が、長年、東京に――人知れずひっそりと――住んでいることに、私は驚いたのである。ローレンス・トーブ。この無名の著者は、処女作である本書一冊にして、歴史に名を刻む偉大な思想家に並ぶ価値があることを、私は確信しはじめていた。~

本書の監訳者である神田昌典さんはまえがきでこう述べています。神田さんが上記にあげている三人の著作は日本人のビジネスマンが、まるでバイブルのように読んだはずです。ここで、改めて彼らのプロフィールをチェックしておきましょう。


アルビン・トフラー(Alvin Toffler、1928年10月3日 - )は、アメリカの評論家、作家、未来学者。1949年、ニューヨーク大学卒業。「デジタル革命」、「コミュニケーション革命」、「組織革命」、「技術的特異点」に関する業績で知られている。かつてフォーチュン誌のアソシエイトエディターを勤め、初期の仕事はテクノロジーと(情報の過負荷状態などによる)その影響に関するものだった。その後、彼は社会の変化と相互作用に興味を移していく。彼のその後の関心事は21世紀の軍事技術、兵器や技術の増殖、資本主義の増大する力となっていった。

トフラーは、著書『第三の波』の中で、「波」の概念に基づいて三種類の社会を描いた。それぞれの波は古い社会と文化を脇へと押しやる、とした。第一の波は農業革命の後の社会。第二の波は産業革命であり、社会の主な構成要素は、核家族、工場型の教育システム、企業である。第三の波は脱産業社会。


ピーター・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker、1909年11月19日-2005年11月11日)は、「オーストリア生まれの経営学者・社会学者。なお、著書『すでに起こった未来』(原題"The Ecological Vision")では、みずからを、生物環境を研究する自然生態学者とは異なり、人間によってつくられた人間環境に関心を持つ「社会生態学者」と規定している。ベニントン大学、ニューヨーク大学教授を経て、2003年まで、カリフォルニア州クレアモント大学院教授を歴任。「現代経営学」、あるいは「マネジメント」(management)の発明者と呼ばれる。1959年 初来日。以降たびたび来日。日本画のコレクションを始める」。


ジョン・ケネス・ガルブレイス(John Kenneth Galbraith、1908年10月15日 - 2006年4月29日 )は、「カナダ出身の経済学者である。いわゆる制度学派に属する。ハーバード大学名誉教授。身長は2メートルを超え、偉大な業績とも相まって『経済学の巨人』と評された」。

「20世紀においてその著作が最も読まれた経済学者といっても過言ではない。終身教授であったハーバード大学において教鞭をとった1934年から1975年にかけて50作以上の著書、1000を超える論文を著し、またフランクリン・デラノ・ルーズベルト、ハリー・S・トルーマン、ケネディ、リンドン・ジョンソンの各政権に仕えた。1961年にはケネディ大統領はガルブレイスを駐インド大使に任命し、彼は1963年までその任にあった。ロバート・ラベットいわく当時の財界はガルフレイズを一流の”小説家”と見なしていた」。


神田さんがこの20世紀の知の巨人たちに並ぶと言っているのが、本書の著者、ローレン・トーブです。本書は、著者が日本滞在中の1996年~2001年に「ユニテリアン・フェローシップ・オブ・ジャパン」の講座で発表されたものが2007年12月3日に第一刷として出版されたものです。

本書は紀元前3000年から紀元2150年までの、我々が「人間」から「超人類」になるプロセスを綴った歴史書であり近未来予測の書です。小説家で文芸評論家の林房雄さん(1903-1975)がかつて、「歴史は5000年単位で捉えなければ意味がない」というようなことを言っていましたが、ローレンス・トーブ氏はまさに、この5000年の歴史をひと括りにし、そこに一定の法則があることを示しているのです。著者はこれを「ビッグ・ピクチャー」的観点と呼び、次のように述べています。

「本書が提示しているのは、三つのビッグ・ピクチャーである。これを私は『モデル』と名づけ、『年齢モデル』『性モデル』『カースト・モデル』と呼んでいる。各モデルはそれぞれ異なる視点から過去の歴史と未来を描き、それぞれの枠組みは、見た目にはばらばらで、互いに何の関連性もなさそうな歴史的事象を、ほかの論理より平易にすっきりと説明できているのではないかと自負している。この三つのモデルを知れば、過去を理解して再評価し、個人、国家双方の現在の行動と決断を促し、さらには未来に関しても、最も正確かつ効率の良い方法で予測し、今後に備えることができるはずだ」

「『性モデル』は、フェミニズムのマクロヒストリーで、中国の飲用思想を比喩として使いながら、フェミニズムの歴史が、連続する三つの性の時代を経て、弁証法的に発展する姿を示している。最初は『陰の時代』で、これは人類が女性原理と調和しながら暮らしていた時代であり、実際には先史時代にあたる」。

「次に『陽の時代』が来る。この時代は、紀元前4000年から紀元善2000年までの間に起こった『家父長革命』とともに始まり、現在まで続いてきた。人類はこの時代に女性原理から男性原理に沿った生き方に転換し、現在は陽の時代から、第三にして最後の『両性時代』に向かう転換期にある」。

「この時代の『開拓段階』は、フェミニズム運動の復活とともに、1960年代前後に始まった。現在、全体論的な世界観が広がり、環境運動、同性愛者の権利、動物の権利、さらにはこれらに関連する動きが始まっているが、これも両性時代へと向う潮流の一部である」。

「『年齢モデル』は、人類の歴史におけるいくつかの重要な転換点を示している。これは個人の一生におけるいくつかの重要な転換点に呼応する。一例をあげれば、紀元前2000年前後の時期、それまで女神を母親や大地として崇めてきた人間は、天上の父なる神や、これと同様の男神、さらには父親に似た偶像を崇めるようになったが、この転換点は、子供が母親をすべての中心と考えていた時期から、父親に重心を移す時期に対応する」。

「このモデルが暗示しているのは、現在の人類は、精神的にはまだ19歳前後、つまり、やっと成人に近づいた段階にあるということだ。現在の私たちは、精神的な成熟度でいえば、まだ青春期のレベルにしかない。その前提にもとづき、このモデルは未来を読み解く。とりわけ、私たち人類が今後も生き延びられるかどうかの可能も未来の『成熟した』宗教に関して予測する」。

「『カースト・モデル』の原型は、インド・ヒンドゥー教の歴史哲学にある。これはヒンドゥーのカースト哲学とカースト時代の神話を体系化したものだ。ヒンドゥー哲学に関する記述が文字の形で最初に現れたのは、最古の聖典『リグヴェーダ』のなかで、少なくとも3000年前のことだ。その後、『リグヴェーダ』の原始的な思想に、ヒンドゥーの書物や伝統がさまざまな潤色を施した」。

「なお、本書では言及していない一つのカーストがある。カースト外に追放された人々だ。誤解を避けるために、はっきりさせておきたいのは、原初のヒンドゥー思想や、その思想にもとづいた本書の『カースト・モデル』は、カースト制度とは別物だということである。原初のヒンドゥー思想は、カースト制度そのものではなく、宗教的神話ないしは歴史哲学だが、カースト制度は権威づけのためにそうした神話や哲学に頼っていると言ってもいい」

「カースト・モデル」
<精神・宗教の時代Ⅰ>・・・紀元前3000万年頃~紀元前4000年/2000年
<戦士の時代>・・・・・・・・・・紀元前4000年/2000年~17世紀初頭
<商人の時代>・・・・・・・・・・1650年頃~1975年頃
<労働者の時代>・・・・・・・・1917年~2030年頃
<精神・宗教の時代Ⅱ>・・・1979年~超人類

著者の歴史観の真骨頂は、歴史は循環するというインドの歴史観、時間は過去から現在、未来へと直線的に進み、繰り返すことはないという西欧的歴史観を統合した螺旋的歴史観です。

「インドの循環的見方は、東洋文化一般に共通するもので、一方の直線的な見方は、ユダヤ教、キリスト教、資本主義、マルクス主義、科学、テクノロジー等々、いわば西洋文化に共通する。人類は、女性原理と男性原理が均衡する両性時代に入りつつある。東洋の循環的歴史観は、本質的に時間を女性的に捉える見方で、西洋の直線的歴史観は男性的な見方だが、『カースト・モデル』はその両者を調和させることで、純粋に陰的(女性原理的)な東洋の歴史観と、純粋に陽的(男性原理的)な西洋の歴史観を修正し、歴史的に公正で、性的にもバランスの取れた両性的歴史観を螺旋として示しているのである」。

本書が描いてみせる近未来、とりわけ現代人が生きる時代はどうなるのか?結論を急げば、それは1950年代から2030年頃に該当する「労働者の時代」で世界の経済・政治ブロックは次のようになり、儒教ブロックが世界を牽引する時代であると著者は述べます。この社会の最先端の経済・政治体制を、著者は「日本型チームワーク資本主義」と名づけます。

1)「儒教圏ブロック」・・・・中国(台湾、香港、マカオを含む)、朝鮮(南北朝鮮統一後)、日本
2)「欧州ブロック」・・・・・・(東西ヨーロッパ諸国(CIS諸国を除く)
3)「北極圏ブロック」・・・・(アメリカ、ロシア及びCIS諸国のうち、非イスラム諸国、カナダ、そのほか、スカンディナヴィア諸国およびメキシコも加わる可能性ある)
4)「ASEAN」・・・・・・・・・・・タイ、フィリピン、シンガポール、インドネシア、ブルネイ、ヴェトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー
5)「中南米ブロック」
6)「アフリカブロック」
7)「オセアニアブロック」(オーストラリア、ニュージーランド、太平洋諸国)

しかしこの時代は長続きせず、資本主義から宗教的・精神的チームワーク資本主義、そして無政府主義へと向かうと述べます。経済・政治システムが「精神化」に向かい、「自発的要素」「適正技術」「経済的平等」「仕事の削減」という四つの動きが重要な役割を演じるといいます。そしてそれが開花するのがアフリカ、先住民の地だと述べ、宗教ベルトの世界に向かうと述べています。

<精神資本主義時代に収斂する四つのブロック/宗教ベルトの4大連邦>
1)南アジア連邦(バーラティ連邦)・・・・インド、バングラデシュ、ブータン、ネパール、パキスタン、スリランカ、モルディブ
2)中央アジア・イスラム連邦・・・アフガニスタン、イラン、トルコ、旧ソ連邦を構成したイスラム諸国
3)汎セム連邦・・・・・・・・・・・・・・イスラエル、(新)パレスティナ共和国、レバノン、ヨルダン、シリア、イラク、サウジアラビア、クウェート、エジプト
4)北アフリカ・マグレブ連邦・・・・モロッコ、アルジェリア、リビア、チュニジア、モーリタニア、スーダン、ソマリア

48億年前の地球の誕生。約20万年前のホモ・サピエンスの誕生。以来、人間から「超人類」への長い道のり。現生人類は、アフリカで生まれ、その生息範囲を次第に広げ、中近東を経由してヨーロッパやアジア、さらに氷河期などの気候の変動も影響して南アメリカまで到達したと言われます。20万年をかけ、人間は再びアフリカの地で再生するのだと、著者は述べます。そして最後に次のように語っています。

「とはいえ、これはアフリカの個々人が最も精神的になるという意味ではない。また、彼らが最初の『超人類』になるという意味でもない。世界で最も精神性の高い個人は、世界のいかなる地域でも、いかなる時代でも可能性がある。これは個人の問題ではなく、ローマとスペインがその軍事力ゆえに『戦士の時代』に世界の覇権を握り、アメリカと日本がその経済力ゆえに、それぞれ『商人の時代』と『労働者の時代』に世界の先頭に立ったように、サハラ以南のアフリカが、一個の地理的領域と文化圏として、その精神的な力量ゆえに世界を率いるという意味なのだ」。

「サハラ以南のアフリカは、『精神の時代』の頂点段階で、束の間ながら世界を導く立場に立つだろう。これもまた、統合された精神性への極度の傾倒ゆえで、成熟した両性的な社会が到来する遠い未来のことである」。


この著者が示す近未来像は、思想家ニーチェと作曲家ヴァーグナーの関係について今日たまたま学んだ次ぎの一説にも共通しています。

「近代ドイツの美学思想には、古代ギリシアを『宗教的共同体に基づき、美的かつ政治的に高度な達成をなした理想的世界』として構想するという、美術史家ヨハン・ヨアヒム・ヴィンケルマン(1717-1768)以来の伝統があった。当時はまだそれほど影響力をもっていなかった音楽家であると同時に、ドイツ3月革命に参加した革命家でもあるヴァーグナーもまたこの系譜に属している」。

「『芸術と革命』をはじめとする彼の論文では、この滅び去った古代ギリシアの文化(とりわけギリシア悲劇)を復興する芸術革命によってのみ人類は近代文明社会の頽落を超克して再び自由と美と高貴さを獲得しうる、とのロマン主義的思想が述べられている。そしてニーチェにとって(またヴァーグナー本人にとっても)、この革命を成し遂げる偉大な革命家こそヴァーグナーその人に他ならなかった」。(ウィキペディア)



ローレンス・トーブ[Lawrence Taub];歴史家・未来学者。1936年、アメリカ・ニュージャージー州生まれ。ニューヨーク大学、ソルボンヌ大学で歴史学、政治学、フランス語を学ぶ。最近まで20年ほど日本に滞在していた。10ヵ国語を話す。


神田昌典;上智大学外国語学部卒。外務省経済局に勤務後、ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得。その後、米国家電メーカー日本代表を経て、経営コンサルタントに。『GQ JAPAN』誌で、日本一のマーケターに選出される。

金子宣子[ヨシコ];津田塾大学卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、日本IBM勤務を経て翻訳家。


<備忘録>
「マルクス主義の四つの欠陥」(P8~11)、「原初のヒンドゥー思想」(P32)、「新たな循環」(P34)、「カーストの支配する期間」(P35)、「螺旋的視点」(P36)、「カーストの時代区分」(P37)、「カースト時代が短くなる理由」(P39)、「革命は大国から遠く離れた『後進国』でしか成功しない」(P42)、「順序通りのカースト時代経路」(P48)、「陰的人間、陽的人間~陰が先行する」(P55)、「性的対称性と宗教の起こり」(P61)、「世界各国の年齢」(P78)、「成熟した宗教」(P80)、「無名のワーカーホリック」(P125)、「拝金主義者と仕事第一主義者」(P126)、「<ビューロ・デクノストラクチャー~「鎌」「ハンマー」→「キーボード」>(P129)、「1956年、ホワイトカラー>ブルーカラー」(P132)、「未来を予測する」(P151)、「商人カーストがもたらしたもの」(P155)、「三極世界」(P179)、「商人カーストと労働者カーストの違い」(P181)、「精神的世界観」(P226-227)、「宗教の終わり、精神性の始まり」(P252)、「宗教ベルト」(P259)、「セム系民族の系譜」(P281)、「ユダヤ系アメリカ人の移住」(P298-299)、「経済、政治システムの精神化」(P316)、「イスラエルのキブツとモシャブ」(P317、324-325)、「フルタイムで必要な仕事」(P329)、「4つの流れのポイント」(P336)、「健康、教育、政府分野と宗教市場」(P350)、「宗教的予言との符号」(P359)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿