読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

分子的フローとして生きる、私たちの「動的平衡」(福岡伸一著/2009年)

2012-09-17 15:28:57 | 本;エッセイ・評論

<目次>

「青い薔薇」――はしがきにかえて
プロローグ――生命現象とは何か、ボスの憂鬱、ノーベル賞より億万長者(ビリオネラ)、生命現象とは何なのか

第1章 脳にかけられた「バイアス」
クリックが最後に挑んだテーマ、記憶物質を追求したアンガー博士、記憶とは何か、情報伝達物質ペプチドの暗号、時間どろぼうの正体、人間の脳に貼りついたバイアス、「見える人」と「見えない人」、錯覚を生むメカニズム、なぜ、学ぶことが必要なのか

第2章 汝(なんじ)とは「汝の食べた物」である
骨を調べれば食物がわかる、食物は情報を内包している、胃の中は「身体の外」、人間は考える管である、生命活動とはアミノ酸の並べ替え、コラーゲン添加食品の空虚、「頭がよくなる」食品?、チャイニーズ・レストラン・シンドローム

第3章 ダイエットの科学
ドカ食いとチビチビ食い、自然界はシグモイド・カーブ、「太ること」のメカニズム、脂肪に変換して貯蔵するプロセス、インシュリンを制御せよ!、「飢餓」こそが人類七〇〇万年の歴史、過ぎたるは及ばざるが如し

第4章 その食品を食べますか?
消費者にも責任がある、安全のコストを支払う人びと、壮大な人体実験をしている、バイオテクノロジー企業の強欲、遺伝子組み換え作物の大義名分、「青いバラ」の教訓、全体は部分の総和ではない

第5章 生命は時計仕掛けか?
生命の仕組みを解き明かす方法、タンパク質の設計図を書き換えよ、受精卵を「立ち止まらせる」方法はないか、「空気が読めない」細胞、ガン細胞とES細胞の共通点、ノックアウト・マウスの完成、「えびす丸1号」に何が起きたか、ES細胞は、再生医学の切り札か?

第6章 ヒトと病原体の戦い
うつる病気とうつらない病気、細菌学の開祖ロベルト・コッホ、種の違いとは何か、カニバリズムを忌避(きひ)する理由、「濾過性病原体」の発見、自己複製能力を持つ「物質」、種を超えるウイルス、謎の病原体、異常型プリオンタンパク質は足跡?

第7章 ミトコンドリア・ミステリー
私たちの体内にいる別の生物、フォースの源泉、一五回ボツになった論文、葉緑体も別の生物だった、「取り込まれた」ことの痕跡

第8章 生命は分子の「淀み」
デカルトの「罪」、可変的でありながらサスティナブル、「動的な平衡」とは何か、多くの失敗は何を意味するか、アンチ・アンチアンチ・エイジング、なぜ、人は渦巻きに惹かれるか

 

私が読んだ福岡さんの著作としては「生物と無生物のあいだ」(2007年)「できそこないの男たち」(2008年)に次いで三冊目。初版からタイムラグはあるものの、分子生物学者の福岡さんの本からはこれまで何とも知れない文学的な知見を得ています。

 

本書においても冒頭の「青い薔薇」のエピソードにそれは感じられました。これは星慎一さんの「リオン」という作品、最相葉月さんの著書「青いバラ」(blue roses / 不可能なこと)に着想を得たものらしいですが、ここに本書のエッセンスが表現されていました。

 

 本書では、病原体としての細菌に対する抗生物質、ウィルスに対するワクチンの存在があり、そして狂牛病などの発生に影響があるといわれるプリオン(異常型プリオンタンパク質)には今だその正体さえ判明していないことを知りました。

 

また、ミトコンドリアが私たちの体内にいる別の生物であることに今更ながら驚かされましたが、福岡さんは次のように語ります。

 

~ミトコンドリアを見つめると、私たち生命のミステリーが解き明かされる。進化も、性の発生も、人類史も、そして老化もまたミトコンドリアのなせる業なのである。~

 

そして、福岡さんが、ルドルフ・シェーンハイマーが発見した「生命の動的状態(dynamic state)」という概念を拡張し、生命の定義として提示した、本書のタイトル「動的平衡(dynamic equilibrium)」について、次のように述べています。

 

 ~生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新され続けているのである。だから、分子は環境からやってきて、一時、淀みとしての私たちを作り出し、次の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく。

 

つまり、環境は常に私たちの身体の中を通り抜けている。いや「通り抜ける」という表現も正確ではない。なぜなら、そこには分子が「通り過ぎる」べき容れ物があったわけではなく、ここで容れ物と呼んでいる私たちの身体自体も「通り過ぎつつある」分子が、一時的に形作っているにすぎなきからである。

 

つまり、そこにあるのは、流れそのものでしかない。その流れの中で、私たちの身体は変わりつつ、かろうじて一定の状態を保っている。その流れの中で、私たちの身体は変わりつつ、かろうじて一定の状態を保っている。その流れ自体が「生きている」ということなのである。シェーンハイマーは、この生命の特異的なありようをダイナミック・ステイト(動的な状態)と呼んだ。私はこの概念をさらに拡張し、生命の均衡の重要性をより強調するため「動的平衡」と訳したい。英語でdynamic equilibrium(equi=等しい、librium=天秤)となる。

 

ここで私たちは改めて「生命とは何か?」という問いに答えるlことができる。「生命とは動的平衡にあるシステムである」という回答である。~

 

ルドルフ・シェーンハイマー - Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC

  

生命とは何かを解き明かすエンターテイメント、「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一著)

http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/419fe07d3ba6c3509fab72bf5384c8d1

 

薄々感じてはいましたがやっぱりそうだったんですね、「できそこないの男たち」(福岡伸一著/2008年)

http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/a460895a244f304766a814a43475d082



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