読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

ソメイヨシノの儚さではなく、細くも長い切なさを描く、「山桜」(2008年)

2009-04-28 13:28:48 | 映画;邦画
~江戸後期、不幸な結婚生活に耐える野江(田中麗奈)はある日、1本の山桜を見つける。花に手を伸ばすと1人の武士(東山紀之)が現れるが、彼は野江が今の婚家に嫁ぐ前に縁談を申し込んできた相手、手塚弥一郎だった。自分を気遣ってくれる人物の存在に勇気づけられる野江だったが、手塚は悪政をたくらむ藩の重臣を斬ってしまう。(シネマトゥデイ)~

監督:篠原哲雄
原作:藤沢周平
脚本:飯田健三郎、長谷川康夫
音楽:四谷卯大
撮影:喜久村徳章
出演:田中麗奈、東山紀之、篠田三郎、檀ふみ、富司純子、北条隆博、南沢奈央、高橋長英、永島暎子、千葉哲也、村井国夫、並樹史朗、石原和海

先日取り上げた「おくりびと」の記事で、山形が舞台になった映画を調べたときに、藤沢周平さんの作品が映画化されたものがやはり多かったわけですが、本作もその一つで、まだ観ていなかったのでTSUTAYAで手に取りました。藤沢作品については、この後「蝉時雨」を観終わってからまとめてみたいと思います。

<人間讃歌と葬送の美学、「おくりびと」(2008年)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/d71064bf64737430e7151f82c9a8642b

まず、時季的には遅まきながら、タイトルになった山桜について触れておきましょう。

~ヤマザクラは同一地域の個体群内でも個体変異が多く、開花時期、花つき、葉と花の開く時期、花の色の濃淡と新芽の色、樹の形など様々な変異がある。同じ場所に育つ個体でも一週間程度の開花時期のずれがあるため、同じサクラでもソメイヨシノと異なり、短期間の開花時期に集中して花見をする必要はなく、じっくりと観察できる。ソメイヨシノの植栽の普及する前の花見文化はむしろ、このように長期間にわたって散発的に行われるものであった。~(写真は、樹齢400余年を誇る熊本県阿蘇の山桜「一心行の大桜」)

~新芽から展開しかけの若い葉の色は特に変異が大きく、赤紫色、褐色、黄緑色、緑色などがあり、裏面が白色を帯びる。花弁は5枚で、色は一般的に白色、淡紅色だが、淡紅紫色や先端の色が濃いものなど変化も見られる。樹皮は暗褐色または暗灰色。「吉野の桜」とは、本来この山桜を指すものであり、日本の象徴とされた桜でもある。~(ウィキペディア)

ソメイヨシノではなく、山桜。野に咲く一本の木に、じっくり開花するこの桜に、藤沢さんは磯村野江と手塚弥一郎の遠回りの想いの成就を象徴させたのでしょうね。

<「日本人は桜のことを何も知らない」(美しい日本の常識を再発見する会編・学習研究社刊)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/c94e509fa6a872685add3aca94347749

作品としては実に落ち着いたストーリー展開です。クライマックスシーンも淡々と撮られています。一本の山桜の木を通して野江と弥一郎の間で唯一交わされた会話の中の「幸せでおられるのでしょうね」という弥一郎の言葉が、野江の中で時とともに次第に根を下して、芽を出し、花を咲かせるまでのラヴストーリですが、これが藤沢作品の真骨頂というところですね。

少し残念だったのは、主演の田中麗奈さんの野江がいまひとつ幼すぎた点でしょうか。和服を着て歩く姿や所作に付け焼刃的な印象を持ちました。また、東山紀之さんの弥一郎も牢獄中にも関わらず身奇麗過ぎて点も違和感がありました。多少浮き足立った出演陣の中で後半に登場する弥一郎の母、手塚志津を演じた富司純子さんの演技は、この映画をエンディングに向けてグッと締めたように思います。


監督は、篠原哲雄さん。本作で初めて取り上げますが、作品としては「木曜組曲」(2001年)を観ていました。

篠原哲雄(しのはら てつお、1962年2月9日 - )は、東京都出身の映画監督。桐蔭学園高等学校、明治大学法学部卒。専攻は法社会学、法文化論。監督作品『月とキャベツ』が初の劇場用長編作品となる。以降、『洗濯機は俺にまかせろ』(1999年)、『はつ恋』(2000年)、『命』(2002年)等を手がける。

<篠原哲雄>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AF%A0%E5%8E%9F%E5%93%B2%E9%9B%84

<“ノスタルジアの魔術師”の「木曜組曲」(2001年・光和インターナショナル)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/dd0d1e50a367fe83eb3ef10ec9f80715


さて、俳優陣。磯村野江役を演じた田中麗奈さんについては先日「魍魎の匣」で取り上げました。

<主演級の俳優が跋扈するミステリー、「魍魎の匣」(2007年)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/9326065142031bdca557b438ac4b748a

手塚志津を演じた富司純子さんについては、「死神の精度」で取り上げました。

<こんな邦画をもっと観たい、「Sweet Rain 死神の精度」(2008年)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/903cec9877f1679b2a2d6a679f5ddc43

手塚弥一郎役の東山紀之(1966年9月30日 -)さん。「必殺仕事人2009」の渡辺小五郎の原型がここにあったような、もの静かで正義心を秘めた武士を演じておられます。実生活では、ジャニーズ事務所の取締役でもあるんだそうですね。

<東山紀之>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E5%B1%B1%E7%B4%80%E4%B9%8B

浦井家の主、浦井七左衛門を演じた篠田三郎さん。1973年放送の「ウルトラマンタロウ」での主人公・東光太郎役で一世を風靡した俳優さんですが、個人的はその後お見かけする機会も少なく、井坂聡監督の「破線のマリス」(2000)、ザッピング中に垣間見た「渡る世間は鬼ばかり」で拝見したくらいです。誠実な人物を演じさせたら、右に出る役者さんはいないと思います。

<篠田三郎>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AF%A0%E7%94%B0%E4%B8%89%E9%83%8E

浦井七左衛門の妻、瑞江を演じた檀ふみ(1954年6月5日 - )さん、「東京学芸大学附属大泉中学校、東京教育大学附属高等学校(現・筑波大学附属高等学校)、慶應義塾大学経済学部卒。東京都練馬区生まれ。父は作家の檀一雄。兄はエッセイストの檀太郎。義姉は同じエッセイストの檀晴子(兄・太郎の夫人)。阿川佐和子の親友としても有名」。

<檀ふみ>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AA%80%E3%81%B5%E3%81%BF

武家でありながら高利貸しを営む磯村左次衛門に扮した高橋長英(ちょうえい、1942年11月29日-)さんは、神奈川県出身。上智大学法学部法律学科中退。

<高橋長英>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E6%A9%8B%E9%95%B7%E8%8B%B1

磯村左次衛門の妻で野江に厳しくあたる富代を演じた永島暎子さんは、私の高校の先輩であります。三つ上なので高校で一緒だったことはありません。適当な写真が拝借できず、若かりし頃の写真で恐縮であります。

永島暎子(1955年7月28日 - )は、熊本県出身。八代高校卒業後、東北地方でこけし制作業や、北海道の牧場での労働を経験したのち、1976年に『日活テレビ映画芸術学院(現・日活芸術学院)』に入学。同年、『四畳半青春硝子張り』のヒロインに抜擢され映画デビュー。翌1977年、日活ロマンポルノ作品『女教師』で主役を演じて注目を集め、1978年のエランドール賞新人賞を受賞。1983年の『竜二』の演技では、ブルーリボン賞、報知映画賞、キネマ旬報の各助演女優賞を総なめにした。

お国の農政を欲しいままにし、自身の蓄財に徹する諏訪平右衛門に扮したのは、村井国夫(1944年9月20日-)は、中国の天津市生まれで佐賀県佐賀市出身。一度機会があればその舞台を拝見したい俳優さんの一人です。

<村井国夫>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%91%E4%BA%95%E5%9B%BD%E5%A4%AB


最新の画像もっと見る

コメントを投稿