早生者日記 by K.MITSUNAGA

早生者(わさもん)=
熊本弁で「新しいものが好きな人」という意味
毎週月曜更新(2009年12月開始)

良 縁/埼玉出張って何?の続きとお仕事考

2017年11月27日 | 良縁

10月23日のブログ「埼玉出張って何?」は実はなかなか好評でした。
皆様ありがとうございます。
途中、4週に渡って他に旬の話題を入れましたが
今週は特にネタもないので続編にて完結させたいと思います。
おつきあい願います。
           

2日目の朝。昨日の何が災いしたのか午前2時半まで目が冴え
て眠れなかった。寝付きの良い私にしては珍しい。年に1〜2
回ほどこういう夜がある。不思議だ。しかし今朝は早くから朝
礼と称したミーティングがあるので7時過ぎにはホテルを出な
ければならない。会場はさいたまスーパーアリーナ。快晴だ。



私の会社は小さいので営業マンを大勢抱えて直接販売している
わけではない。一旦食品問屋に納めてそこから末端へ販売して
もらっている。委託販売のようなものだと言えば分かりやすい
だろうか。だから客=問屋なので、実際にアイスを使っている
レストランなどのスタッフに直接会う機会は少ないのだ。

食品問屋が主催する展示会は外食産業、ホテルや旅館、大手企
業の食堂など幅広いターゲットが相手だ。そして私にとっては
貴重な3つの出会いの場なのである。

ひとつは上記、ホテルやレストランの料理長をはじめとする現
場の人間や仕入れの担当者。2つ目は主催者である問屋の経営
者や社員。そして最後がおもしろい。同じように出店している
他メーカ
である。資材や機械メーカーもいるにはいるのだが
ほとんどが食品メーカー。もちろん大手アイスメーカーのLや
Mも参加していて展示会会場は貴重な情報交換の場となる。埼
玉の外食産業の現状、問屋同士の競合の行方、食品業界の動向、
各メーカーや問屋の経営状態などなど…面白い話が山積みだ。

さて、展示会だが、普通われわれに振り分けられる小間は左右
180センチほどのスペースである。今回は半小間の90セン
チと狭いため出品するアイスは8品のみ。品揃えが武器の我が
社としては魅力を十分アピールできないので私はいまひとつ力
が入らない。おまけに同行予定だった営業部長は他の展示会が
重なりこの集客1万人(2日間)の展示会を私一人で仕切らな
ければならないのだ。



問屋との付き合いにもいろいろある。直接取引するのが基本で
はあるが埼玉に本社を置くこの問屋の場合、実は我が社との間
にもう1社入っている。不思議な現象だが、この間に入ってい
る食品問屋は今回の主催者の比ではないほどの大手で誰もが知
る財閥系の会社である。その財閥系大手食品問屋が用意した5
小間(9メートル)ほどのスペースに、我が社を含め5〜6社
が呼ばれている。おまけにバカ高い出展料をかなり免除してく
れているので文句は言えない。

我が社は業務用のアイスクリームを製造、販売するアイスメー
カーである。社員12名の小さな会社で、製造といっても自社
工場を持っているわけではない。全国にあるアイスクリーム工
場から委託で製造してくれるところと提携して作っている、い
や、作ってもらっているのか…。現在提携先は6カ所。千葉に
2社、京都、鳥取、熊本、鹿児島に各1カ所だ。大規模な工場
では2,000個ものアイスが一度にできる。よく売れる定番商品の
製造にはコストも抑えられて最適だ。一方、一番小さな工場で
は数本単位で作ってもらえるので、売れるか売れないかまだ分
からない新商品などをお願いしている。

業務用のアイスは様々なところが売り先だ。前にも揚げたが、
ホテル、レストラン、カフェから病院まで。デザートメニュー
に使われたりコース料理に使われたりと多彩だ。誰もが知って
いる大手アイスメーカーも業務用に取り組んでいる。コンビニ
などで見るアイスを「市販アイス」と呼び区別しているが業務
用アイスの市場はそれほど大きくはない。だから大手アイスメ
ーカーは今まで業務用にあまり力を入れてこなかったのだ。

そこへ10年前、我が社は違う形で参入した。

アイスと言えばほとんどが横文字だ。舶来モノのイメージなの
である。加えて安く抑えるためには大量に輸入できる海外の果
汁を使い色を付け香料で味を整えて製造する。だが我が社はあ
えて漢字で表現できるアイスをメインにした。日本の素材を使
った日本人の口に合うアイスの開発である。



国産の原料を使うとどうしてもコストが割高になってしまう。
それまで業務用の高級アイスの分野にどこも取り組んでこな
かった理由はそこにある。大手メーカーがアイスを作る際の
手順は「まず売価設定」から始まるのだ。「1000円くらいで
売れるだろう」と想定し原価を3割に抑える。開発メンバー
には「330円以内で作れ」と指示がある。それでは本当に美味
しいものは作れない。我が社は違う。まず「美味しい◯◯ア
イスを作ろう」から始まり自由に試作させる。そしてその美
味しい◯◯アイスにかかった原価から売価を設定する。美味
しければ相当の価格でもとりあえず販売してみる。すると結
構売れたりするものだ。大手の「1000円くらいで売れるだろ
う」はメーカー側の勝手な思い込みで本当に美味しいアイス
はプライスレスなのだ。それを我が社が証明した例がある。



「黒のばにら」と名付けたこの商品は私に商売とは何ぞやを教
えてくれた貴重な逸品だ。真っ黒な色はデンマーク産の食品専
用の着色料。着色料を基本的には使わない我が社としては逆の
発想で生まれたアイスだ。着色料の原料は泥炭(ピート)とい
う地中深い地層から掘り出された石炭になる前のしろもの…。
ウイスキーの醸造時に使うらしいが私は実物を見たことはない。

アイスクリームは白い。白くてなめらかだ。黒ごまを入れたく
らいでは真っ黒にはならない。おまけに竹炭などを入れようも
のならざらざらして折角の味わいも台無しだ。しかしこの着色
料は秀逸もの。無味無臭のうえなめらかなのだ。

黒いアイスを作ろう、となった際、ほとんどの社員が考えたの
が黒ごまアイスだった。黒ごまのアイスを真っ黒にしてやろう
ということか。「ほとんどの人間が想像する」…これは商売と
してはおもしろ味に欠ける。誰もが想像し得ないもの、誰もが
驚くもの、そして我が社の持ち味の上質な味が加わってこそ価
値が高まると考えた。だからあえて「白いのが当然」なバニラ
に仕上げたのだ。

しかし出来上がって驚いた。この着色料がまあ目の玉が飛び出
るようにお高い。当然ながら今までにない価格帯のアイスにな
ってしまった。我が社の普通のアイスの2倍、大手メーカーの
アイスの4倍である。さすがの私も売れるはずはないと思った。
当面、売れても売れなくてもいいか…とホームページにだけ掲
載して放ったらかし。

ところがこれこそ消費者を侮った判断だったのだ。ぽつりぽつ
りと問い合わせが入り始め、今では我が社を代表するアイスに
まで育ってきたのだ。



以前、このアイスのヘビーユーザーに話を聞く事ができた。 い
ったいこのアイスの何が人を惹き付けたのか…。答えは明快だ
った。

「こんなアイス他にないじゃないか 
      われわれが欲しいのはまさにこんな商品なんだよ」

なんと消費者が求めるものがこのアイスには詰まっていたのだ。
商品価値と客のニーズがぴったりと合致したいい例である。そ
のようなものに対して客は支払いをためらわない。

そして、まだこの黒のバニラを超えるアイスは作れていない。