歌わない時間

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エリス・ピーターズ『秘跡』

2005年08月17日 | 本とか雑誌とか
エリス・ピーターズ/大出健訳『秘跡』光文社文庫。

修道士カドフェル・シリーズ11。このシリーズを読むのはシリーズ第1作の『聖女の遺骨求む』に続いて2冊目。殺人事件が起きてそれを解決する、という話ではなく、婚約を破棄されて尼僧になったはずの裕福な家の娘が、じつは尼僧院にたどり着く寸前で失踪しており、その娘はどうなっていたかというのが最後に明かされる。

中世、まだカトリック世界だったイングランドが舞台。私はこういうの好きなのだ。静かな僧院の雰囲気がよく出ている上に、一見静かそうに見えてもそこは人間のやることで、いろいろな感情の交錯、行き違いが上手に組みこんである。

謎は複雑なものではない。たいていの人は読んでる途中で「ハハァ」と感づくと思う。しかし巧みな語り口とクライマックスのスリリングな展開で、最後まで読ませる。『聖女の遺骨…』よりもこちら『秘跡』のほうが出来がいいし、シリーズの他の作を無視して『秘跡』をいきなり読んでもぜんぜん問題ない。本格的な謎解きものしか読みたくない人には不向きだが、あまり堅いことをいわずに面白い読み物を読みたいという人には勧められる。

訳文もこなれていて読みやすい。ただ一つ気になった。この物語におけるイングランドは、いわば戦国の世なのだが、「女帝」と呼ばれる女性が出てくるのだ。彼女は「王妃」と覇権を争う実力者なのだが、「女帝」って、原文ではどういうことばなのだろうか。

これはわたしにとっては『奉教人の死』を思い起こさせるような話だった。ただし、『奉教人の死』とちがってこちらはハッピーエンドだ。

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