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歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

ガーディナー『ヘンデル/サウル』

2008年12月21日 | CD ヘンデル
Handel
Saul
Miles, Dawson, Brown, Ragin, Ainsley, Mackie
Monteverdi Choir
English Baroque Soloists
John Eliot Gardiner
425 8256

1989年ライブ録音。73分09秒/43分36秒/41分49秒。PHILIPS。ヘンデルの劇的オラトリオの代表的な録音。わたしの知る限りもっともすぐれた『サウル』は今もこれ。この後マクリーシュ盤もヤーコプス盤も出て、結局三つとも買いましたが、総合点でやはりガーディナーのほうが上。

最初にダビデの勝利を祝うアンセム。その後、ダビデに対する老王サウルの嫉妬、サウルの息子ヨナタンのダビデへの友情、サウルの二人の娘のうちメラブはダビデを蔑み、ミカルはダビデを愛している、とかいろいろなネタがあって、最後は、戦死したサウルとヨナタンを悼む葬送アンセムで締めくくられる。ごく大雑把にいえばそういう内容。題材が大がかりで、ヘンデルの音楽もそれに見合う柄の大きなものになってます。

長い序曲のあと、短い合唱があってそのあとソプラノソロ"An infant rais'd by Thy command"が入る。ここを受けもつルース・ホルトンがボーイソプラノふうのキッパリした歌いっぷりで、もうここで引き込まれてしまいます。ここの辺りが、マクリーシュもヤーコプスも聴かせベタなんですよ。

歌手ではアラステア・マイルズのサウルが特にすばらしい。問題はデレク・リー・レイギンで、この人のエキセントリックなダビデは何度聴いてもミスキャストではないかと思ってしまいます。それ以外は問題なし。ドーソン、ブラウン、エインズリーの、当時まだ若手──というか売り出し中?──だった三人もいい感じです。とくにヨナタンの役は歌いづらいアリアが多いんですが、エインズリーはさすがに聴かせ上手です。

キング『ヘンデル/ヨシュア』

2008年11月24日 | CD ヘンデル
Handel
Joshua
Kirkby, Bowman, Oliver, Ainsley, George
Choir of New College, Oxford
The King's consort
Robert King
CDA66461/2

1990年録音。65分19秒/58分53秒。Hyperion。ロバート・キングが録音したヘンデルのオラトリオ・シリーズの一作。これはおすすめです。強くお勧め。曲そのものはさほどの大作とは言えないけれどよくまとまっています。演奏は爽快かつ開放的。ソリストも揃い、合唱も出来がよく、目立つ金管をはじめとしてオケも文句なし。

この『ヨシュア』、1747年に書かれ、48年に初演されたそうです。後期のオラトリオですわね。出典は『ヨシュア記』。異民族の皆殺しの記事なんかがあって、そうとう生臭いテキストです。しかしモレルの台本はヨシュアに鼓舞されたイスラエル民族の勝利の物語として簡潔にまとまっています。

わたしは少年合唱は積極的には聴かないほうですが、このニュー・カレッジのクワイヤは評価しています。表現力がある。ここはホグウッドの『アタリア』でも好演していました。なお合唱団のテナーに、現在ソリストとして活躍しているトビー・スペンスの名前がありました。

ソリストではエインズリーのヨシュアがすばらしい。出番はそんなに多くはないけど、旧約聖書の英雄をいかにもそれらしく歌いきってくれます。もちろんカークビーもいいですよ。こんなマイナーなオラトリオにカークビーってなんかもったいない気もするけど。このオラトリオで有名なアリアは"Oh, had I Jubal's lyre"くらいですが、カークビーは文句のつけようもなく歌ってくれます。

キングは、90年代、ヘンデルのオラトリオのなかでもほかの指揮者があまり録音してこなかった不遇な作品をいくつか連続して取り上げました。わたしはそのすべてを聴いたわけぢゃないんですが、この『ヨシュア』はそのシリーズ中でもすぐれたものの一つです。

第3幕で"See, the conqu'ring hero comes!"(見よ、勇者は帰る)が聞こえてきたときはびっくりしましたけど、あの合唱の初出は『ユダス・マカベウス』ではなくてこの『ヨシュア』なんだそうですよ。原曲は意外と繊細な感じさえするさわやかな曲でした。この合唱のあと、すぐにカークビーの"Oh, had I Jubal's lyre"です。

オーボエ4、バスーン2、フルート2、トランペット3、ホルン2と管が充実。ヘンデルらしく金管が高らかに響き渡る行軍シーンなどはスカッとしますね。

ミンコウスキ『ヘンデル/ディクシット・ドミヌス』

2008年11月22日 | CD ヘンデル
Handel
Dixit Dominus / Salve Regina / Laudate Pueri / Saeviat Tellus
Annick Massis, Magdalena Kožená
Les Musiciens du Louvre
Marc Minkowski
459 627-2

1998年録音。77分53秒。Archiv。《Dixit Dominus》はプレストン指揮のものをよく聴いているんですが、ラテン系の指揮者のものを聴いてみたいなあと思ってミンコウスキに手を出しました。このあとファゾリス盤も買ったんですが、ミンコウスキとファゾリスを比べると、《Dixit Dominus》そのものの出来に関しては鼻の差でミンコウスキでしょうか。合唱部分はファゾリスのほうが上ですが、ミンコウスキのはアニック・マシスとマグダレーナ・コジェナが歌うソロパートが断然魅力的。

ミンコウスキの指揮した合唱ものは、《Messiah》だったか《Hercules》だったか、粗くてへたくそな合唱だったのでがっかりしたことがあるんですが、この《Dixit Dominus》に関しては不満は感じませんでした。繊細に表情の変化するファゾリス盤の合唱と比べると一本調子な感は否めませんが、アインザッツもちゃんと揃っているし、とくに問題のあるレベルではない。

《Dixit Dominus》のほかにやはりイタリア時代のヘンデルの作品である《Saeviat tellus inter rigores》《Laudate pueri Dominum》《Salve Regina》のモテット3曲も収録。1曲目はマシスのソロ。2曲目はコジェナのソロと合唱。3曲目はコジェナのソロ。どれもいい演奏です。とくに今回気がついたんですが、マシスが歌う《Saeviat tellus》の第3節"O nox dulcis"がまたしっとりした美しい曲で。

このCD一枚でイタリア時代にヘンデルが書いたモテットの主要曲が聴けるし、演奏のレベルも高く、マシスとコジェナのソロもたっぷりなので、お買い得だと思います。

マルゴワール『ヘンデル/セルセ』

2008年09月18日 | CD ヘンデル
Handel
Serse
Watkinson, Hendricks, Esswood, Wenkel, Rodde, Cold, Studer
Ensemble Vocal Jean Bridier
La Grande Ecurie et la Chambre du Roy
Jean-Claude Malgoire
SM3K 36941

1979年録音。75分37秒/58分29秒/46分50秒。SONY CLASSICAL。『セルセ』はマクギーガンのを持っているんですが、エスウッドのアルサメーネとヘンドリクスのロミルダが聴きたいばかりに買っちゃいました。マルゴワールらしくおっとりした演奏。序曲なんかはまちっとタッタカ進めてもらいたいと思いますし、アリアもところどころのんびりしすぎていますが、歌い手たちのアンサンブルがいいので、全体としては悪くない仕上がり。少なくともわたしは合格点を出します。

ワトキンソン、エスウッド、コールドの3人はマルゴワール指揮の『リナルド』にも出ていました。エスウッドは『リナルド』の将軍役よりもこのCDのアルサメーネのほうが嵌まっています。ただし残念ながらマクギーガン盤のアサワには劣る。ワトキンソンは『リナルド』の若い兵士もよかったけど、ここではわがままなペルシャの王様をよりのびのびと歌っています。

ワトキンソン、エスウッドの声はなじみがあるので、ハッキリ聴き分けられるのがいいです。ヘンドリクスがロミルダ、その妹のアタランタをAnne-Marie Rodde(アンヌマリー・ロデ?)という人が歌っていますが、この2人は声も対照が利いていてそれぞれ悪くなく、いい感じ。

ワトキンソンとヘンドリクスはこのあとガーディナーの『ソロモン』でも共演しています。

ガーディナー『ヘンデル/水上の音楽,王宮の花火の音楽』

2008年08月12日 | CD ヘンデル
Handel
Water Music / Music for the Royal Fireworks
English Baroque Soloists
John Eliot Gardiner
464 706-2

1983年(Fireworks Music)、 91年(Water Music)録音。69分09秒。PHILIPS。夏の定盤。ガーディナーにしては意外なほど開放的な演奏。文句なし。

『水上』は第1組曲、第3、第2の順。これは、王様の夏の遠出の際、第1が川のぼり、第3が食事だか休憩時だかのBGM、第2が川くだりのときに演奏されたって説に基づいてるんでしょ。聴いてても、わりと静かな第3組曲を中に置いて前後を壮麗な第1、第2ではさむのは妥当性があると感じます。

いまでも一般的にはヘンデルは『水上の音楽』『王宮の花火の音楽』の人と思われてるんぢゃないでしょうか(まあ『メサイア』もありますけど)。そういう状況に多くのヘンデリアンは憤慨するようですが、しかし『水上』も『花火』もやはりヘンデルらしい秀作ですよ。ヘンデルといえばまづ『水上』、と言われるのは、ヘンデルにとって決して不名誉ではないと思います。

わたしがいま住んでいるのはマンションの2階で、ぜんぜん眺めが利かないのがさびしい。理想は、打上げ花火の見えるマンションの上のほうの部屋で、川べりか海辺の花火大会の夜、サッシを開け放って、許される最大の音量で、『水上』と『花火』を楽しんでみたいです。

プレストン『ヘンデル/ディクシット・ドミヌス』

2008年08月01日 | CD ヘンデル
Handel
Dixit Dominus / Nisi Dominus / Salve Regina
Auger, Dawson, Montague, Nixon, Ainsley, Birchall
Choir of Westminster Abbey & Orchestra
Simon Preston
423 594-2

1987年録音。56分14秒。Archiv。今やヘンデル好きな人で『ディクシット・ドミヌス』を知らない人はいないんぢゃないか、というくらい、この曲は人気のある曲になりました。いいことだ。少年合唱はできたら避けたいっていうのがわたしの基本的な立場なんですが、この演奏はいいです。

《Dixit Dominus》はいろいろ録音が出ていますが、これはもっともスタンダードなもの。わたしはこの曲、あんまりせかせかした演奏は好みではないんです。このプレストンくらいのテンポがちょうどいい。

《Nisi Dominus》にはエインズリーが出ています。わたしがエインズリーを知ったのがこのCDでした。張りのある若々しい美声で、歌い回しも巧くて、いいテナーが出てきたなあと思いました。なにしろヘンデルを歌う古楽系のテナーというと、ロルフジョンソンは別として、エリオットやパートリッジくらいしかまだいなかったころなので。ブックレットに写真が載ってるけど、まだ若かったエインズリーは今のようなスキンヘッドではなく髪の毛がフサフサあって、なかなか二枚目です。

アーノンクール『ヘンデル/イェフタ』

2008年07月26日 | CD ヘンデル
Handel
Jephtha
Hollweg, Thomaschke, Linos, Gale, Esswood, Sima
Mozart-Sängerknaben
Arnold Schoenberg Chor
Concentus Musicus Wien
Nikolaus Harnoncourt
0630-17390-2

1979年録音。64分04秒/61分24秒/49分57秒。Teldec。気迫にみちみちたアーノンクールの指揮ぶりと、エスウッドら歌手たちの名唱。聴くべし。今はもっとスタイリッシュなヘンデルが流行ですが、この『イェフタ』の張りつめた世界はただものではありませんよ。

ベルナー・ホルベークのイェフタは粗野であらあらしく、豪胆な造型。どう聞いてもバロック向きではなく、ワーグナーでもいけそうな強い声ですが、アーノンクールの峻厳な曲作りにはよく合ってます。ソリストで調子のいいのはイフィス(ソプラノ)のエリザベス・ゲイル、ストルジェ(メゾ)のグレリス・リーノス、ヘイマー(カウンターテナー)のポール・エスウッド。バロックの歌唱法を踏まえつつ、じゅうぶんに劇的で、アーノンクールの意図を生かしています。

『イェフタ』いちばんのヤマ場は、第2幕後半の、イェフタ、ゼブル、ストルジェ、ヘイマーの四重唱だと思いますが、こういうのはアーノンクールの独擅場(どくせんじょう)ですね。イフィスを生け贄にするかどうかのせっぱ詰まったシーンですが、ヘンデルの筆も冴えているし、アーノンクールの棒も緊張感高く、ソリストたちもそれぞれの役を歌い切ってます。

『イェフタ』は第3幕に版の問題があります。イフィスが死を免れることになって、ソリストたちが祝福と神への讃美をじゅんじゅんに歌っていくフィナーレのところ。ここで、ゼブル、ストルジェ、ヘイマー、イフィスが順にソロを歌い、最終合唱につなげるやり方と、イフィスとヘイマーの独唱曲は省いて、ふたりの二重唱、さらに他のソリストが入った五重唱がちょっとあって、最終合唱になるやり方と、ふたつあるんです。後者の、二重唱から五重唱になる版のほうが盛り上がりそうなものなんですが、これがねえ、曲のできがあんまりよくないんですよ。で、アーノンクールは、デュエットではなくヘイマーとイフィスにもソロを歌わせるほうの版をつかっていて、この選択はよかったと思います。

残念なのはシェーンベルク合唱団の調子がそんなによくないことです。79年のアナログ録音で、録音のせいもあるんでしょうか、もやもやしていて英語の発音も不明瞭です。

あらっぽいことを言いますが、このヘンデルの『イェフタ』は、第1幕と第3幕がもし散逸して第2幕だけ残っていたとしても、ヘンデル晩年の名作として世に喧伝(けんでん)されたと思いますね。1幕と3幕がある以上、2幕だけ取り出して上演するわけにはなかなかいかないでしょうが、やってみるとおもしろいと思いますよ。それくらい2幕の充実ぶりがすばらしい。

ボストン・バロック『ヘンデル/メサイア』

2008年06月30日 | CD ヘンデル
Handel
Messiah
Clift, Robbin, Fowler, Ledbetter
Boston Baroque
Martin Pearlman
CD-80322

1992年録音。62分41秒/69分01秒。TELARC。『メサイア』はいろいろ聴いてますけど、わたしの知ってるなかではもっともバランスのとれたいい演奏です。このCDはもっと知られていい。演奏している版は一般的なものです。

総じてアリアの速さが顕著。たとえば、"He was despised"を8分20秒で歌ってます。このテンポならダレずに聴ける。それでもぜんぜん早すぎない。ちょうどいい感じ。ピノック盤は、この曲13分台だもの。いかに名歌手フォン・オッターが歌ってるにしても、ありゃ聴いてるうちに寝ちゃいますよ。

ソリストは、メゾのキャサリン・ロビンだけはガーディナーの『メサイア』やピノックの『ベルシャザル』に出ているので知ってましたが、ほかの人ははじめて聴きました。ソプラノのカレン・クリフトはボーイソプラノっぽい雰囲気を買っての起用ですかね。ただちょっと線が細すぎるかなとも思いますけど。ロビンはガーディナー盤のほうがよかった。ここではちょっとくずれた歌い方になるところがあります。テナーのブルース・ファウラーもやや細い声ですが、わたしは不満を感じません。ビクター・レッドベターというバリトンは安定していて、声もいいし、すてきです。

面白いもんで合唱は、聞きなれたヨーロッパの団体とはやっぱり違います。コクがないと言えなくもない。いわく言い難いんですけどね、なんていうかこう、さっぱりしてるんですな。いや、ヘタぢゃありません。わたしは嫌いぢゃありません。テクニックはしっかりしていて、爽快、清涼。ただ、モンテベルディ合唱団とかタバナー合唱団とか、あるいはRIAS室内合唱団とか、ほかにもいろいろありますけど、とにかくヨーロッパの合唱団とはハッキリと声質が違います。

ボストン・バロックはアメリカを代表する古楽演奏団体で、マーティン・パールマンに率いられてテラークにかなりの数の録音がありますね。機会があったらほかのも聴いてみたいと思います。

アーノンクール『ヘンデル/聖セシリアの日のためのオード』

2008年06月26日 | CD ヘンデル
Handel
Ode for St. Cecilia's Day
Felicity Palmer, Anthony Rolfe Johnson
Bachchor Stockholm
Concentus Musicus Wien
Nikolaus Harnoncourt
0630-12319-2

1977,78年録音。49分28秒。TELDEC。録音は古いが音楽はいい。合唱もソリストもいい出来。その後この曲を歌ったフェリシティ・ロットやキャロリン・サンプソンと比べてしまうとフェリシティ・パーマーはやや地味ですが、貫禄の歌唱。ロルフジョンソンもまだ若く、のちのピノックとの再録音よりもこちらのほうが絶対いいと思います。

この曲はNovelloのボーカル・スコアで楽譜を見ると決して緻密な作りではなく、ホモフォニックな、これちょっと手抜きちゃうかと思うようなそっけない譜面に見えてしまいます。けど実際に音で聴くとサマになってるんだよなあこれが。ヘンデルの職人芸と申せましょうな。ただしそれにしてもね、せっかくソプラノとテナーのソリストを揃えたんだから、一曲くらい、二重唱を入れてもよかったんぢゃないかしらん。

この曲のキモはなんといっても、テナーのアリアに合唱がかぶってくる"The trumpet's loud clangor excites us to arms"と、無伴奏のソプラノソロのロングトーンに合唱がTuttiで切り込む終曲"As from the pow'r of sacred lays"でしょう。いかにもヘンデルらしい。ああいつもの手やなとは思うんですが、やっぱり曲の作り方が巧いんですわ。

ストックホルム・バッハ合唱団はアンドレス・エールバルが指導者で、70年代としてはかなり完成度の高い合唱を聴かせています。30年たったこんにちでも、じゅうぶん聴くに堪える演奏です。

マクギーガン『ヘンデル/セルセ』

2008年05月21日 | CD ヘンデル
Handel
Serse
Malafronte, Smith, Milne, Bickley, Asawa, Thomas, Ely
The Hanover Band & Chorus
Nicholas McGegan
75605 51312 2

1997年録音。68分31秒/65分24秒/42分17秒。DHM。もともと英Coniferから出ていたもの。"Ombra mai fù"をもともとのオペラの文脈で聴いてみたくて買いました。まあ文脈とかいっても序曲が終わるとレチタティーボをはさんでいきなり「オンブラ・マイ・フ」が始まっちゃうんですけどね。マクギーガンという指揮者については毀誉褒貶さだまらないのでちょっとびくびくしながら買う。マクギーガンの指揮は決して先鋭的ではなくむしろおだやかな音づくりですが、それでいて説得力のあるヘンデルを再現できているんだからたいしたもの。CD3枚通して聴いたあとに、ああいいヘンデルを聴いたなあというふっくらした満足感に包まれる。不満もないではありませんが、買ってよかった。

ヘンデルのオペラはあれもこれもと聴いてるわけぢゃありませんからほかのオペラと較べてどうこうとは言いにくいんですが、この『セルセ』は曲自体の出来がいいと思います。いいメロディーのアリアが全曲あっちにもこっちにも出てきて、飽きないです。第3幕さいしょのシンフォニアもいい曲だわあ。全体にダカーポアリアが少なく、話がすたすたと進むのでダレないのもいいですね。

歌手は頭がこんぐらかるくらいたくさん出てきますが、いちばん耳に残るのは日系アメリカ人のカウンターテナー、ブライアン・アサワです。柔らかで表現力のある美声。ついで敵役のアタランタを歌うリサ・ミルンてソプラノがいいです。

不満は、ヒロインのロミルダが魅力に欠けるとか、セルセとアルサメーネの声質がちょっと似ていて聴きわけにくいとか、そういうところですね。ロミルダはジェニファー・スミスで、わたしはこの人むかしから苦手なんですよ。ハスキーな声で、華がないから。アサワとスミスは恋人同士の役なんですが、この2人のデュエット聴いててもなかなか恋人同士に聞こえてこなかったりする。

脇役でデイビッド・トーマスが出てます。今回は役柄がそもそもユーモラスなので、やりたい放題やってます。