赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

Ⅱ.『安倍晋三回顧録』に学ぶ 

2023-05-19 00:00:00 | 政治見解



Ⅱ.『安倍晋三回顧録』に学ぶ :230519情報

昨日からの続き)-伊勢雅臣さんの解説を、許可を得て、転載しております。


■4.「厚労省は政権の足を引っ張りすぎ」

様々な局面で頻繁に安倍内閣の足を引っ張ったのは、厚労省でしょう。安倍氏はこう総括しています。
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第1次内閣の時に、年金保険料の納付記録が漏れていた「消えた年金」問題が明らかになりました。18年は、働き方改革の根拠となる裁量労働制のデータがいい加減だった。19年は、毎月勤労統計の不適切な調査を放置する職務怠慢。そして20年以降は、新型コロナウイルス対策で検査や医療の問題が起きました。厚労省は政権の足を引っ張りすぎですよ。[安倍,p309]
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こうした問題が起こるたびに、野党の国会審議、マスコミの炎上で、官邸は火消しに追われるのです。特に年金問題は平成9(1997)年に年金番号導入決定以来、10年経っても5千万件もの記録不整合が残されていた厚労省のずさんさに端を発していました。

安倍政権は、わずか1ヶ月で記録整合化に必要な体制と法律を確立しましたが、朝日新聞などの炎上報道により、政権支持率は44%から30%へと落ち込んだのです。第一次安倍政権崩壊のきっかけとなった問題でした。

厚労省は新型コロナでも安倍政権の足を引っ張りました。富士フイルム・富山化学が開発したインフルエンザの治療薬アビガンを軽症の新型コロナ患者に使いたいという、現場の医師からの要望が強かったので、臨床研究という形で広く投与を進めると、防衛省の自衛隊中央病院でも顕著な成果が出ていました。

厚労省の局長から「アビガンを承認します」と聞いて、安倍氏も令和2(2020)5月4日の記者会見で、5月中の承認を目指す考えを表明していたにもかかわらず、薬務課長が引っくり返したのです。動物実験の結果から、妊娠中の女性が飲むと、障害がある赤ちゃんが生まれる恐れがあるという理由のようですが、それなら妊婦には処方しなければよく、またそもそもインフルエンザの薬としては承認されているのです。
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薬事承認の実質的な権限を持っているのは、薬務課長です。内閣人事局は、幹部官僚700人の人事を握っていますが、課長クラスは対象ではない。官邸が何を言おうが、人事権がなければ、言うことを聞いてくれません。ドイツでアビガンが効いたという症例が数多く出たため、アンゲラ・メルケル独首相が私にアビガンを送ってほしいと言ってきたのです。私が「では輸出しましょう。我が国では承認していないけれど」と言うと、
メルケルは驚いていましたよ。[p34]
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■5.厚労省内部の医系、薬務系、事務系の内部抗争

なぜ、こんな理解不能な「ちゃぶ台返し」がなされたのでしょうか?
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厚労省内もバラバラなんです。医系技官、薬務系技官、キャリア(事務官)に分かれていて、医系やキャリアは次官までポストがあり、局長も多い。一方、薬務系技官は、課長か審議官止まりです。でも、薬とワクチンを承認する権限を握っています。[安倍、p35]
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かつて非加熱血液製剤がエイズウイルス(HIV)に汚染されている危険性を知りながら、回収を指示しなかった厚生省の官僚が罪に問われました。当時の厚生省薬務局長は事務系のキャリアだったので不起訴になり、一方、有罪が確定したのは、薬務系の技官だった生物製剤課長でした。
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局長がハンコを押して承認しているにもかかわらず、課長だけが有罪というのは、薬務系の官僚には不満でしょう。そうした歴史があり、多くの薬務系の技官は、「責任を取るのは私たちなんだから、私たちで決めさせてもらう」という意識が強いのです。[安倍、p34]
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結局、こういう厚労省内の内部抗争によって、アビガンが承認されず、多くのコロナ患者を救う道が閉ざされてしまったのでした。

よく日本の官庁は「省益あって国益なし」といいますが、厚労省は省益どころか、省内も医系、薬務系、事務系の「閥益」のみなのです。


■6.財務官僚の注射が効いていた民主党政権

一方、省内一丸となって抵抗勢力となっていたのが、財務省でした。アベノミクスは財務省との戦いでした。

2012年の野田政権下において民主、自民、公明の三党間において取り決められた三党合意によって、「社会保障と税の一体改革」の一部として、従来5%の消費税率を2014年4月1日から8%、2015年10月1日から10%とすることが定められていました。
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社会保障と税の一体改革は、財務省が描いたものです。当時は、永田町が財務省一色でしたね。財務省の力は大したものですよ。時の政権に、核となる政策がないと、財務省が近づいてきて、政権もどっぷりと頼ってします。菅直人首相は、消費増税をして景気を良くする、といった訳の分からない論理を展開しました。民主党政権は、あえて痛みを伴う政策を主張することが、格好いいと酔いしれていた。財務官僚の注射がそれだけ効いていたということです。[p86]
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(つづく)



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