今朝は本当に、びっくりしたよ、ロッキー。
玄関のたたきに餌皿を並べる。戸を開けると、堰を切ったように待ち構えていた猫たちが雪崩れ込む。でも今日はそれだけではなかった。
その中にお前がいたとは! 僕は一瞬我が目を疑ったよ。
最後にお前がこの家を出たのは、そう、7月だった。梅雨が明ける頃。迷い猫のアポロが来てからまもなく。だからもう、2ヵ月半は経って . . . 本文を読む
短冊形の長い空から粉雪が吹き寄せる。空は白く雪も白い。額縁になぞらえた真竹の濃緑が粉雪に霞む。堆積する雪は枝をしならせ先を鋭く研ぎ澄ませた雪氷片を、とうに落ち尽くした葉に替わってひとつ、またひとつと風に散らせる。その竹林の中に一匹の猫がいた。降り積む雪は厚さを重ね氷の滴は連なり合ってひとつの層となり、手足を丸めた猫の体は中身の無いただの毛皮のように通り過ぎる時間の中に埋もれていく。
猫はまるで動 . . . 本文を読む
昨夜から我が家に猫が1匹迷い込んでいます。
クマ猫とトラ猫の雑種。ほっぺたが半分色つき。
人懐こい。オス。いっぱしの大人。
お心当たりの方は、猫家(メールアドレスhttp://agrico1@mail.goo.ne.jp)まで至急ご連絡ください。
・・・というわけで今我が家は少し騒がしい。
始めは発情の猫が迷い込んだか、と思ったけれどどうも違うようだ。
今までこの界隈で私が目にしたことが無い猫 . . . 本文を読む
お前はすぐに僕の腕の中に収まった。その時でもちゃんとそこが自分の指定席だと知っていた。この朝僕がこの道を通るのも、山道を埃を巻き上げながら駆け下る車が自分の真ん前で停車するのも、何もかもそうなることがとっくの昔にわかっていたかのように、お前は大人しくすべてを預けて僕の腕に抱かれた。その時お前の伝えたいことは僕にわかったし、僕の言うこともお前はわかっていたに違いない。
それはお前の哀しい . . . 本文を読む
ホルスに会いに行かないと・・・
俄かにそのことを思い出して、僕は朝食の箸を置く。ずっとずっと前から思っていたことだった。忙しさにかこつけていつの間にか過ぎ去ってしまったひと纏まりの時間。今を逃せばこの先また何ヶ月か経ってしまうかもしれない。ちょうど外はまだ午前中だというのに薄暗くなり、今にも雨が降り出しそうな空模様だ。よし、行こう。僕は丼に残ったご飯を一気に平らげて、出かける支度を始めた。
運転 . . . 本文を読む
朝一番に大鍋に湯を沸かし、鶏を煮出す。
今日は彼らの食事に鶏汁をかけてやろう。
少し湯気の立つ餌皿を三つ抱えて玄関の戸を開けると、
待ってましたと、堰を切った水のように猫たちがなだれ込んで来た。
・・・
やはりいない。
・・・
私は戸外に出て生まれたての大気に身を浸しながら
大声で叫ぶ。
「レオーーーーーーーッ!」
* * *
彼は少し神経の . . . 本文を読む
ラムが死んで1年と1ヶ月が経った。
我が家で生まれ育った猫たちの中で一番短命だったラム。
その思い出の一端を、ここに書いてみようと思う。
コマリンは2年前に4匹の子供を産んだ。
ロッキー、レオ、マスキー、そしてラム。
男2匹、女2匹の構成。鶏でも猫でも普通はメスに比べてオスの割合が大きい。しかし動物界では食環境がよくなるにつれてメスの生まれる割合が大きくなるようだから、移住2年目にして猫家の「猫 . . . 本文を読む
コマリンという猫がいる。
猫家の猫の初代であるミーコの娘。2年前に4匹の子供を産んで今では皆から「コマリン母ちゃん」と呼ばれている。
生まれた時は兄弟の中で一番小さくて弱そうだった。無事成長できるだろうか本気で心配したものである。それが今は母ちゃんの威厳も強くすっかりふてぶてしくなっている。
あの時の兄弟たちはみな事故で死んだり家を出たりしていて、今では唯一彼女だけが猫家に残ってくれている。本当に . . . 本文を読む
トラ猫はすぐにボクに気がつき、しばらく立ち止まってじっとこっちを見ていた。
時間が止まったように思えた。
この雪深い山道をヨタヨタと歩いてくるボクを見て、彼は何と思ったのだろう。
ボクも長い間動けなかった。
初めて母さんと兄ちゃんたち以外の猫に会った。
そしてやっと会えた猫に、涙の出るほど嬉しかった。
でもあのときのボクは出会った相手が例え幽霊でも怪物でも、同じように喜んだかもしれない。
トラ . . . 本文を読む
ううぅ・・・・・・寒い。
もうどれくらい経つだろう。
ボクら5人はとうに泣き疲れていた。
母さんはどこからも現れない。
もちろんボクらは必死で叫んだよ。
今まであれほど頑張ったことは、後にも先にもなかったさ。
でもいくら呼んでも、深い林の中にボクらの声は吸い込まれてi行くばかり。
母さんばかりかボクらをつれて来た人も、どこに行ったのかあれ切り姿を見せなかった。
泣き疲れたボクらがお腹がペコペコ . . . 本文を読む
物心ついた時は母さんのふさふさした毛に包まれていた。側にはニイちゃん、ネエちゃんたちがすやすやと眠っている。母さんの体は柔らかくてとても優しい。そのあまりの気持よさに、ボクはそのまままた寝入ってしまう。そんなことを今でも夢の中のことのように憶えている。
ボクはその小さな家に生まれた。そして子猫と呼ばれた幸せな時代をそこで暮らした。
名前は・・・そうだな、あの頃はクロチンと呼ばれていた。鼻と口元 . . . 本文を読む
ダンプを機械の脇に付けて、バックホーのエンジンをかける。残りの土もあとわずかなので、もう少しでこの仕事も終わりそうだ。日暮れまでには、どうにかなるかもしれない。さあ、急いでやってしまおう。
ブームを伸ばして今まさに残りの山を崩そうとしたら、土山の上にロッキーの姿が見えた。
ロッキー、こんなところにいちゃ、危ないじゃないか。
機械のエンジンを停めて近づくと、ロッキーは目を丸くして、落ち . . . 本文を読む
ボクの名はロッキー。向こうに見える板張りの小さな家がボクのうちだ。みんなはあの家を「猫家」と呼んでいるけれど、確かに猫はたくさんいる。ボクの兄貴も、妹も、父ちゃんも母ちゃんも、それとバアちゃんも、みんな一緒に住んでいる。中には山に捨てられて迷い込んで来た猫もいるけど、ボクらはみんな、家族なんだ。
何しろ猫だけで7匹もいるものだから、ご飯時などは大変だ。そろそろ時間かな、と思う頃に、みんなどこからか . . . 本文を読む
愛が足りない
そう、タインは思った。
家主はどうも他の兄弟たちをばかり可愛がっているような気がする。
みんなが家に入っているときも、自分だけ外に出されたりするし、
ご飯の時も、自分がいくら催促しても返事もしてくれなくなったりもする。
コマリン義母さんやマスキー姉ちゃんだって、最近ちっともボクを構ってくれない。
やはりボクは愛されていないんじゃないだろうか。
そう思うと、やり切れない。
そんな時は . . . 本文を読む
クマが帰って来なくなってから5日になる。
近所のお婆さんが言うには、何日か前に足を引きずって山ノ下への道をピョコピョコと歩いていたという。
山ノ下にはクマの愛人、シロちゃんがいて、クマは日頃そこに入りびたりなのだ。
猫家にはいつも、お腹が空いた時にだけ帰って来る。
私は心配になって、お盆の初日の朝早く山ノ下に行った。
そこのお婆さんに断って、納屋を捜させていただく。
納屋の二階にはクマとシロちゃ . . . 本文を読む