アグリコ日記

岩手の山里で自給自足的な暮らしをしています。

シベリア凍土

2005-05-18 16:43:02 | 思い出
    建物ん中でも場所によっちゃ零下20度近くなった。死んだ奴ぁ通路に置いておく。初めのうちぁ毎日穴掘って埋めてたけどよ、一日に4ったり5たりも死ぬもんだから、とてもしんどくて追いつかない。土ぁガッチリと凍ってんだ、つるはしでないと歯が立たねえ。通路に出しときゃすぐ凍っちまうもんだから、まずセッカ板で棺桶こしらえてよ、そん中に入れといて後で纏めて葬る。木の隙間から中が覗いて見える。オレたちゃあ、 . . . 本文を読む
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青春のアルゼンティン

2005-04-16 12:31:48 | 思い出
この冬から書き始めた「アルゼンティン・シリーズ。 遠い昔の事なのでとうに記憶の範疇からさえも外れてしまっていたことが多く、当初はまあ、ひと月も書き続けれたら凄いな、なんて思っていた。ところがどうして、古い手帳を繰るうちに思い出は思い出を呼び、とうとう春になってもまだすべてを書き終えていない。 冬の朝仕事を終えたひと時、薪ストーブの上でコーヒーを温めながら、雪に埋もれた窓外を見やりつつ手繰った細い . . . 本文を読む
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水色のシエラ 2

2005-04-15 06:38:24 | 思い出
この時僕はひとつだけ命拾いしていた。 実は昨日野営地を決める時に、川のほとりの平坦な場所にテントを張ろうとどれほど思ったことだろう。そうすれば敷設も楽だし焚き木も集めやすい。それに水もすぐ汲める。河原はその辺りで唯一の平坦な場所だったし、いかにも宿営の場所としておあつらえ向きに見えた。けれどその時僕は、あまり川の近くでテントを張るもんじゃないという野営の掟を何となく思い出していた。だから念のため、 . . . 本文を読む
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水色のシエラ 1

2005-04-14 19:42:44 | 思い出
水色のシエラは、僕の体に大自然の力を刻み込んだ。 人間は自分の力で生きているのではない。大自然が僕らを生かしてくれているのである。           *        *        * 君はもう、シエラに行ったかい? コルドバに住み始めてから、何度 . . . 本文を読む
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スラムの女の子

2005-03-25 08:28:46 | 思い出
猫、らくだ、馬、鯉、蝶ちょ・・・ 昔僕は折り紙でいろいろなものを作れた。それは元をただせばアルゼンティンに行く時に買った一冊の本が始まり。子供が好きな僕は、海の向こうに行ってもそこの子供たちと付き合いたい。そのためには何か子供を惹き付けるものをひとつくらい身に付けた方がいいだろう。そこで本屋を彷徨った末に見つけたのが分厚い折り紙の本だった。純日本的なこの遊びは、きっと向こうの人たちに珍しがられる . . . 本文を読む
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マルヴィーナス 2

2005-03-13 07:59:35 | 思い出
アルゼンティン海軍巡洋艦ヘネラル・ベルグラーノは原潜の放った数本の魚雷によって、乗員323名とともに沈没する。原潜が実戦投与されたのは人類の戦争史上これが初めてであり、コンカラーは戦艦を撃沈した世界で唯一の原潜として歴史に名を残すことになった。 マルヴィーナス侵攻後最初の戦闘らしき戦闘で。アルゼンティン艦隊は原潜の動きを阻止するどころか捕捉することさえできなかった。駆逐艦2隻が右往左往してそこ . . . 本文を読む
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マルヴィーナス 1

2005-03-12 09:35:01 | 思い出
南大西洋上の島では今、短い春が終わろうとしていた。 吹く風は涼しく、全島は枯草色に染められて行く。 マゼランペンギンが陽光を浴びて小石だらけの海岸に群れる季節になった。時は4月、極地に近いこの島には夏が無い。 これから訪れるのは寒波と氷に覆われた厳寒の長い冬である。百年一日のごとく繰り返される大自然の営み。これから当分の間、島を訪れるのはペンギンとアシカ、そして渡り鳥だけになるはずだった。 しかし . . . 本文を読む
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眠れぬアルゼンティンの夜

2005-03-08 10:47:11 | 思い出
百万ペソを手に入れたら、君は何に使う? アルゼンティンの首都、ブエノス・アイレスの国際空港エセイサに着いた時に僕は手持ちの米ドルを換金した。初めての海外渡航、今から20年前の話だよ。日本人が今ほど外国に出ていなかった頃だ。僕は東京の4畳半風呂なしトイレ共同の小さなアパートを畳んで、いきなり2000万キロを飛び越えて地球の裏側まで来てしまった。 学校でスペイン語を習っていたからといって話せたわけじ . . . 本文を読む
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ジプシーの歌

2005-03-05 18:11:51 | 思い出
Verde que te quiero verde. Verde viento. Verdes ramas.…     この詩はガルシア・ロルカの「ROMANCE SONAMBULO」(夢遊病者の歌)の冒頭の句。大学生の頃、殺風景で広々とした教室で読んだ覚えがある。勉強嫌いの私の胸にも、なぜかこの詩だけは長い間ピタッとくっついて離れなかった。誰にもそんな詩のひとつやふたつはあるだろう。 ガルシ . . . 本文を読む
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肉屋のおやじさん

2005-03-04 09:53:44 | 思い出
バスを降りると目の前にその肉屋はあった。 コルドバ郊外の小さな集落。集落という呼び方がいいものかどうか、ちょっと迷ってしまう。でも住宅街というにはそんなに家は無いし、田園地帯と呼ぶには広々とした畑があるわけでもない。市街から30分ほど揺られた町の外れ。学校帰りの僕はいつもそこでバスを降りた。 通りに面して何件かの店が並んでいる。肉屋、パン屋、雑貨屋、酒屋・・・それ以外の店はもう思いつかない。古い . . . 本文を読む
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山上の半袖シャツ

2005-02-26 09:51:45 | 思い出
君は、「あの山に登りたい」と思ったことがあるだろう? それはどこの山とも言えない。ある時は仕事に疲れてふと見上げる窓に映る山だったり、または初めて歩く街角から見えた山だったりする。時には高速道路を車で走っていてふと目に入った山だったりもする。 あぁ、あの山の上に立ったらどんなにか気持ちがいいだろう、風と、空と一体になってゆうゆうとした気分で周りの景色を見回してみたい。なんとなくそんな風に思うことが . . . 本文を読む
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100ドルと一杯の食事

2005-02-24 11:13:25 | 思い出
僕は決心した。 もう、この町を離れよう。 あの100ドルのことは諦めるんだ。 これから車を拾って、真っ直ぐコルドバに帰る。 そして何かを食べてぐっすり寝よう。 既に力の無くなった体をベンチから引き剥がすようにして、僕は街道に向かった。          *       *       * 国境を越えるためにこの町を通ったのはもう半月以上前のこと、これからアンデスを越えてチリに入るという時だっ . . . 本文を読む
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南の突端

2005-02-22 10:31:46 | 思い出
地を這う霧は心までを濡らす。視界を埋め尽くす乳色の霧が静かに静かに海からのそよ風に掃われると、そこにはお花畑があった。白、黄色、細かい花の群落が緑のキャンバスに太毛で刷いたように流れる。白い蝶が舞う。紅色の花がさわと首を揺する。そのなだらかな原は視界の縁で急に姿を失う。そしてその崖の先には紺青の海が広がる。 桃源郷というのはこのようなところなのだろうか。ここは、今まで僕が目にした世界の中で最も美し . . . 本文を読む
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ベリー・パックの女たち

2005-02-20 10:24:31 | 思い出
1台の乗用車が目の前に停まる。 金ピカに輝くアメ車だ。ひと目で高級車とわかる。車は広い道路の道幅を我が物顔に占有している。まるで大国が自己主張をしている感じだ。停車すると同時に電動ウインドウがスルスルと降りた。 運転席からがっしりした体格の男が顔を出す。僕はてっきり道でも尋ねられるのかと思った。ここはサンティアゴ郊外の街道沿い。しかしこんな所で東洋人の顔をした僕に道を尋ねる人などいるものだろうか。 . . . 本文を読む
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奇跡

2005-02-18 18:00:00 | 思い出
タルカの郊外で、僕は街路樹を見上げていた。 小学校のグランドがそのまますっぽりと入りそうな幅広の道。両側には両手で抱えきれない太い木が閲兵式の兵隊のように並んでいる。背中を真っ直ぐに伸ばしたその枝先は見上げても見上げても空に霞んで先が見えない。もしかしたら梢は本当に天まで届いているのかもしれないな。そんな巨木が街道に沿って見る限りずうっと立ち並び、四方に張り出した枝の隙間から午後の日差しが燦然と零 . . . 本文を読む
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