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トップ交代 中国を読み解く
NHKニュース
11月15日 21時00分中国で15日、共産党大会で選ばれた中央委員の総会が開かれ、習近平氏をトップとする新たな最高指導部が発足しました。
激しい権力闘争の末に選出された最高指導部の顔ぶれから読み取れるものは。
習近平体制の課題は。
中国の今後の行方を、現地で取材に当たっている国際部の逵健雄デスクが解説します。
新最高指導部は7人
15日、北京の人民大会堂。
共産党のトップの座を胡錦涛氏から引き継いだ習近平総書記を先頭に、選出されたばかりの最高指導部に当たる政治局常務委員の面々が、内外の報道陣の前に姿を現しました。
新しい最高指導部の人数は、大方の予想どおり2人減って7人になりました。
習氏以外のメンバーは、序列2位の李克強氏、3位の張徳江氏、4位の兪正声氏、5位の劉雲山氏、6位の王岐山氏、7位の張高麗氏です。
習氏は、1人ずつ名前を呼んで報道陣に紹介したあと、「われわれは、必ず重い負託に応え、使命を果たす」とあいさつしました。
密室での攻防の結果は
今回の最高指導部のいすを巡る密室での攻防は、いつにも増してしれつでした。
現役の幹部と引退した長老が入り乱れ、自分の利益を代表する人物が1人でも多く指導部入りすることを求め、まさに「権力の存亡」を懸けた駆け引きを、ぎりぎりまで続けたとみられています。
最終的に選ばれた最高指導部の顔ぶれは、胡錦涛前総書記の息がかかった「共青団派」と、習近平総書記が代表格の高級幹部の子弟グループ「太子党」を含むその他に大別すると、1対6の結果となりました。
共青団派は、序列2位の李克強氏だけです。
これに対し、習近平氏が総書記の座をつかんだのは、胡錦涛氏の前任の江沢民氏らが後押ししたためとされ、ほかの5人も、太子党や江氏に近いとみられています。
軍トップも習氏に
当初、胡錦涛氏が軍のトップの中央軍事委員会主席に留任するのではないかという見方もありましたが、このポストも習近平氏が引き継ぎました。
江沢民氏は、総書記を胡氏に譲ってからも2年間、軍事委主席にとどまって、いわば「院政」を敷き、その後も、今回の指導部人事の紛糾に見られたように、影響力を行使し続けました。
それだけに、胡氏が江氏と同じ道をたどらなかったのは、それほどの力がなかったためだという見方があります。
一方で、党のトップでなくなった以上、軍を統括する立場からも退くというのは、出処進退としては分かりやすいといえます。
政治局常務委員の1つ下のランクの政治局委員には、共青団派で「小胡錦涛」とも呼ばれる49歳の胡春華氏が昇格し、胡氏が「習近平体制の次」に向けた布石も打った形になっています。
“3つの火はたかない”
では、13億人の中国国民を率いることになった習近平氏の人となりや政治スタイルは、どのようなものなのでしょうか。
12年前、習氏が福建省長に就任して間もないころに受けた雑誌のインタビューで、みずからの施政理念をこんなふうに語っています。
「弱火で水を温め、沸いてからも火を絶やさず、時々、水もつぎ足す。3つの火はたかない」。
これは、「新任のトップは、3つの火をたく」という意味の中国のことわざを踏まえたものです。
ポストに就きたての者は、往々にして、能力を示そうと、すぐに目立つことを3つほどしようとするものだが、小さなこと(弱火)を息長く続けて成果を出すのが、自分のやり方だと、習氏は言いたかったのでしょう。
台湾のメディアは、福建省の当局者や福建省に進出している台湾企業の幹部が、「会議では出席者の意見をよく聞いたあと、簡潔に結論をまとめる」、「口数が少なく、威張ったところがなく、人の話に進んで耳を傾ける」などと、習氏を評する声を紹介しています。
私は、前々回の共産党大会で、福建省から浙江省に転任したばかりの習氏と名刺を交換したことがありますが、確かに威張ったところがなく、おうような物腰が印象に残っています。
既得権益に切り込めるか
あれから10年。
中国は、GDP世界第2位の経済大国に成長しましたが、そのかじ取りを担う習近平氏は、地方勤務時代とはけた違いの難題を前に、内心は、とてもゆったりと構えてはいられないでしょう。
「調和のとれた社会」の実現を掲げてきたはずの胡錦涛体制下で、貧富の格差、幹部の汚職、環境破壊などの社会矛盾はかえって深刻化し、庶民の不満は、かつてないほど高まっています。
この間、中国でもインターネットが普及し、人々の意識も変わり、党は矛盾を覆い隠すことも、不満を力で完全に抑えつけることも難しくなってきました。
党は、安定を保つために引き続き高成長に頼ることにし、2020年までに、GDPと国民平均所得を倍増するという目標を掲げました。
しかし、パイが大きくなる分を、成長から取り残されてきた人たちに分配できなければ、1党支配は揺らぎかねません。
習氏は、15日の人民大会堂での「顔見せ」のあいさつで、よい教育、安定した雇用、満足できる収入、頼れる社会保障、水準の高い医療サービス、快適な住まいなどを列挙し、「国民のよりよい生活への憧れを満たすことが、われわれの目標だ」と述べて、親民的な姿勢を強調しました。
江氏らの後押しによって総書記の座に就いたとみられている習氏が、しがらみにとらわれることなく、既得権益に切り込むことができるかどうかが、課題となります。
政治体制の改革に注目
幹部の汚職にメスを入れる改革も待ったなしです。
今回の党大会の初日に胡錦涛氏が行った演説の中には、「腐敗の問題をうまく解決できなければ、党は致命傷を負い、ひいては党と国が滅びる」という一節がありました。
演説は、習近平氏が中心となって起草したとされ、現状に対する強い危機感は、新旧指導部に共通のものです。
習氏は、党内の会議や、幹部養成学校である中央党校の校長としての講話などで、官僚の「徳」を重視する姿勢を重ねて示してきたということです。
民主化については、これまでに積極的な発言は伝えられておらず、どういう考えを持っているか明らかではありませんが、何らかの政治体制の改革に踏み出すのかどうか、注目が集まっています。
対日強硬姿勢続くか
最後に、外交面での習近平氏の言動を見てみます。
2009年のメキシコ訪問の際には、「腹がいっぱいになってやることがなくなった外国人が中国の欠点をあれこれ、あげつらっている」と、いささか荒っぽい発言をしています。
現地在住の中国人との会合でのことで、習氏の本音の一端がうかがえます。
ことし9月の日本政府による沖縄県の尖閣諸島の国有化については、訪中したアメリカのパネッタ国防長官との会談で、「日本が、世界の反ファシズム戦争勝利の成果を否定し、戦後の国際秩序に挑戦しようと企んでいる」と決めつけました。
これ以降、中国政府は国際社会での宣伝戦で、この理屈を前面に打ち出しています。
習氏はさらにパネッタ氏に向かって、「アメリカは言動を慎むべきだ」と強い調子でくぎを刺しました。
尖閣諸島周辺の海域に連日、海洋監視船を送り込んできている国家海洋局の劉賜貴局長は去年2月に着任しましたが、それまでは福建省で長く勤務しており、習氏の福建省長時代からの腹心とみられています。
尖閣諸島を巡る中国政府の強硬姿勢は、新しい最高指導部の発足前から習氏主導でとられていた可能性があります。
今回の党大会では、総書記の演説に初めて「海洋強国の建設」も盛り込まれ、海洋権益を巡る中国の姿勢に今後も変化はないものとみられます。
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