“河野総裁”なら霞が関は大混乱 官僚を「掌握」できるのは誰か 河野氏「害務省」高圧言動で心離れた 岸田氏、現実的政策で歓迎ムード 高市氏、政策通で国会答弁心配ない 野田氏、姉御肌も外交・安保に弱み
自民党総裁選(29日投開票)は最終盤に突入した。知名度で先行した河野太郎行革担当相が「親族企業と中国の関係」や「大増税必至の年金改革案」で失速気味となり、岸田文雄前政調会長や、高市早苗前総務相と激しく競り合い、野田聖子幹事長代行が追い掛ける展開だ。中国の軍事的覇権拡大など、激動する世界で日本の未来を切り拓くには、霞が関官僚をうまく使いこなす必要がある。かつて田中角栄元首相は、ずば抜けた発想力と決断力、実行力、人間力などを武器に官僚たちを魅了して掌握した。今回の総裁選、官僚が「警戒する候補」「熱望する候補」は誰なのか。
「害務省の風土」
ある外務省OBは、古巣「外務省」をもじった、こんなタイトルのブログの画像を記者に見せてくれた。
河野氏が自民党政調副会長だった2008年4月に発信したもので、カンボジアでの無償資金協力をめぐり、「害務省のODA管理にまたほころび」「害務省の風土や文化の問題」「なぜ、害務省は相手に喜んでもらうことを考えないのか(抜粋)」などと辛口の言葉が並んでいた。短い文章に「害務省」という単語が17個(タイトルも含む)も入っていた。
同OBは当時を振り返り、「河野氏は、外相経験もある河野洋平衆院議長(当時)の長男のため、省内も注目していたが、あのブログで心は離れた。河野氏は17年8月に外相に就任したが、周囲に当たり散らす態度が目立ち、うんざりした」と明かした。
河野氏は「週刊文春」に官僚への高圧的言動を「パワハラ」と報じられたが、政策・施策の進め方にも疑問が出ている。
官邸関係者は「河野氏は防衛相時代、新型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』の配備計画を大した根回しもなく断念した。さらに、概算要求の時期、『これは必要ないよね?』と細かく削った。防衛省内にも怨嗟(えんさ)の声がある」と声をひそめる。
こうしたなか、総裁選中盤で、「親中派」として知られる父の洋平氏が大株主、弟の二郎氏が社長を務める親族企業「日本端子」(神奈川県平塚市)と中国の関係が問題視された。
霞が関では、「親族企業の問題は今後、野党やメディアの厳しい追及が予想されるため、『国会を乗り切れるのか』『来年の参院選まで政権が持つのか』『官邸と党の関係がどうなるか見えない』などとささやかれている」(官邸関係者)という。
河野氏は26日のインターネット番組で、「日本端子」の問題について、「何か特定のために政治活動をゆがめるつもりは全くない」と強調した。
他の総裁候補はどうか。
名門・宏池会(岸田派)を率いる岸田氏は、祖父の代から政治家一家だが、父の文武氏は通産官僚から衆院議員になり、元大蔵官僚の宮澤喜一元首相も縁戚など、周囲に霞が関関係者が多い。
岸田氏は今回、日本経済の再浮揚に向けた政策を披露したが、あくまで「財政健全化の旗は堅持する」方針だ。
現役の財務官僚は「現実味のある政策が多く、やりやすい。エキセントリックなことは言わず、恐れは少ない」と“歓迎ムード”のようだ。
「日本初の女性首相」を目指す高市氏についてはどうか。財務官僚は続ける。
「政策通で国会答弁に心配はない。出馬会見でも、一部記者の不規則発言をいなしていた。ただ、将来の『情報通信省』設置構想など、『改革』が旗印で、事務方は付いていくのが大変だろう」
野田氏については、「姉御肌で、十分な人生経験も積み、視野が広いという印象だ。年金や財政問題では鋭く斬り込んでいるが、外交・安全保障はいまひとつ。野田氏を支える現場は困るだろう」という。
■八幡氏「官僚との相性」分析
「日本列島改造論」を掲げて猛進していた角栄氏の時代とは違うが、現在の霞が関官僚の実態はどうなのか。
元通産官僚で評論家の八幡和郎氏は「官僚の基本心理は、『改革に向けて引っ張ってくれるトップリーダーを求めるタイプ』か、『余計なことは言われたくないタイプ』の大きく2つだ」といい、4候補と官僚の相性を次のように考察した。
「河野氏は、官僚と方針が一致するときは頼りになるが、違う意見になると聞かない一面がある。これでは、官僚は精神衛生上、良くない。『パワハラまがいの物言いは止める』と明確に言わない限り、行政機構が腐ってしまう。岸田氏は、外交交渉では能力を発揮したが、官僚が新たな政策に挑戦したいときに引っ張ってくれるのか、一抹の不安がある」
さらに、続けた。
「高市氏は法律の理解力が高いだけでなく、自ら立案して提案する力がある。官僚と無理な議論をせず、距離感にも優れている。霞が関の評判は極めていい。野田氏は人柄がよく、理解力もあると評価されている。霞が関官僚にとって、やりにくい人ではない」