BIN山本の『映画にも程がある』

好きな古本との出会いと別れのエピソード、映画やテレビ、社会一般への痛烈なかくかくしかじか・・・

ひ と 夜

2010年11月05日 | 古本
 アタシらは20人ばかり、スタジオの中でザワザワと仕事の準備をしていた。
そこえしばらく音沙汰の無かった〔女〕がヨロヨロと歩いてきて倒れた。みると
いつの間に身体は子供のように小さくなっていて、痩せこけていた。手は、中空で
物を捕り損ねた鳥の足のように丸まって、血の気も無く白く小さく、死人のように
冷たかった。アタシはその〔女〕の手を取り一指づつ開かせ、直前に読んでいた
藤沢 周平の短篇「賽子無宿」のラストシーンにあった、ある似たセリフをみんなの
前ではっきりと云った。しかし〔女〕からの反応は無かった。もうどこか遠い世界
へ行っているのか、アタシは焦った。

 朝まではっきりと覚えている、久々の夢だった。読んだ本のある特定のシーンと
自分がみた夢遊の中で、混同していたようだ。夢と重なったのは以下のところ。
 
 ※ 藤沢 修平「賽子無宿」(さいころむしゅく)より
 <お勢は悪寒で歯の根も合わない喜之助を温めるために、ひと夜裸で男を抱き
  つづけたのだと言った。
   そう言ったのは、次の夜喜之助に抱かれたときである。
  ―でも義理を作ったなどと思わないで。忘れてもらっていいの。>

 沢木 耕太郎さんが選集した〔右か、左か〕というテーマの13人の短篇集。
普段 単行を買ってまでは読まない作家さんと出会えるのは楽しい。

 沢木 耕太郎編「右か、左か」(日本文学秀作選) 文春文庫 定価648円+税
  ( 2010年1月10日 第1刷 )

 「知的な痴的な教養講座」 著者 開高 健  集英社文庫 定価533円+税
  ( 2006年3月7日 第21刷 )
  ※痴的な話しが沢山で、知的になる一冊の文庫。