帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔九十八〕中納言まいり給て

2011-06-22 00:07:11 | 古典

 



                                帯とけの枕草子〔九十八〕中納言まいり給て



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言 枕草子〔九十八〕中納言まいり給て

 
中納言(隆家、中宮の弟君)が参上されて、宮に御扇を献上されるのに、「隆家は、とってもすばらしい骨を得ています。それを張らせて献上しようとするのですが、いいかげんな紙は張れませんので、探し求めているのです」と申される。
 
「いかやうにかある(その骨・どの様ですか…いか様ですか)」と、宮がお尋ねになられたので、「すべていみじう侍り。更にまだ見ぬほねのさまなりとなむ人びと申す。まことにかばかりのは見えざりつ(すべてが並々ではないのです。未だ見たことのない骨の様ですと人々は申します。ほんとうに、これほどのは見られません)」と、声高におっしゃるので、「さては、あふきのにはあらで、くらげのなゝり(さては、扇のではなく、くらげの・骨ですね…見ぬとは、合う木のではなく、くらげの・ほ根ですね)」と言うと、「これたかいへが言にしてん(それ、隆家の言った言葉にしょう)」と、わらひ給(お笑いになる)。
 このようなことは、かたはらいたき(気恥ずかしい)ことのうちに入れるべきだったけれど、「ひとつなおとしそ(一つも落とすな)」と、女たちは・言うので、いかゞはせん(どうしょうかしら…烏賊の話は・如何しましょう)。

言の戯れと言の心

 「ほね…骨…ほ根…お根…おとこ」「あふき…扇…合う木…おとこ」「いか…如何…烏賊」「やう…様…形…姿」「くらげ…海月…骨がない…よれよれ」「見ぬ…見ない」「見…覯…媾…まぐあい」。


 「くらげ」は「いか」という宮のお言葉によって引き出された。

 隆家の若いころの話。長徳元年(995)初夏、十七歳で権中納言になった。殿(道隆)が亡くなる前である。
 
 殿亡き後、まもなく、叔父道長との闘争が始まる。数ヶ月で道長の術中に堕ちたのでしょう。従者が花山法皇に射かけるという決定的な事件を起こし、長徳二年初夏には、兄の内大臣伊周と共に左遷の憂きめにあった。

 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず   (2015・9月、改定しました)

 
 原文は「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」による