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帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第五 秋歌下 (262)ちはやぶる神のいがきに這ふ葛も

2017-08-05 19:18:18 | 古典

            

 

                       帯とけの古今和歌集

                       ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直している。古今和歌集の歌には多重の意味があり、その真髄は、公任のいう「心におかしきところ」である。人のエロス(生の本能・性愛)の表現である。それは、俊成がいう通り、歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる。

歌のエロスは、中世に秘事・秘伝となって「古今伝授」となり、やがて、秘伝は埋もれ木の如くなってしまった。はからずも、当ブログの解釈とその方法は「古今伝授」の解明ともなるだろう。

 

古今和歌集  巻第五 秋歌下262

 

神のやしろあたりをまかりける時に、斎垣の内のもみぢ

を見てよめる                貫 之

ちはやぶる神のいがきに這ふ葛も 秋にはあへずうつろひにけり

(神の社の辺りを行った時に、斎垣の内の木々の紅葉を見て詠んだと思われる・歌……女の森の辺りを往来した時に、内のこの端が、も見じしたのを見て詠んだらしい・歌) つらゆき

(神威の強い神の、斎垣に這ふ生命力の強い葛も、秋には堪えられず、萎えてしまったことよ。……血早振る、女の井餓鬼に、這う、女草も、男の厭きには耐えられず、色情衰えたことよ)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「ちはやぶる…神威・霊力の強い…千早振る…勢いの強い…とっても盛んな」「神…かみ…上…髪…女」「いがき…斎垣…神聖な領域を示す垣の名…物の名は戯れる。井垣・井餓鬼・おんな」「くず…葛…蔓草…生命力の強い草…草の言の心は女…ぐす…具す…おんな…連れ添う物…おとこ」「秋…飽き色…厭き色…連れ添うものの厭き・おとこの厭き」「あへず…堪えず…耐えず…こらえきれず」「うつろひ…悪い方に変化する…衰える…なえる」「に…ぬ…完了を表す」「けり…感動を表す・詠嘆を表す」。

 

ちはやぶる神威の強い神の、斎垣に這ふ生命力の強い葛も、秋には堪えられず、萎えてしまったことよ。――歌の清げな姿。

血早振る、女の井餓鬼に、這う、具すも、連れ添う物の厭きには、耐えられず、色情衰えたことよ。――心におかしきところ。

色情の果て方を詠んだ歌のようである。
 

清少納言は、貫之のこの歌の意味のすべてを聞き取り、覚えていたようである。枕草子(268)「神は」に、次のように記す。

ひら野は、いたづら屋のありしを、なにする所ぞと問ひしに、御こしやどりといひしも、いとめでたし、い垣に、つたなど多くかかりて、もみぢの色々おほくありしも、「秋にはあへず」と、貫之が歌思ひいでられて、つくづくとひさしうこそ、たてられしか。

 

(平野神社は、余分な家屋があったので、何する所かと問うと、神輿宿りと言ったのも、とっても愛でたい。斎垣に葛など、とっても多く掛かって、紅葉も色々と多くあったのも、しんみりりと久しく、見つめて・留まっていた……女の・山ばのなくなったひら野は、役立たぬおとこや、あったので、何しているところよと問い詰めたら、おとこの・身興し宿り中、といったのも、最高に褒めてあげたい、井餓鬼に具すなど多く掛かって、おとこは・も見じも色々おおくあったものの、しんみりと久しく、ひら野に立っていた・のち厭きには堪えられずうつろいにけりよ)。この文章は、和歌と同じ文脈にあり、「清げな姿」に「心におかしきところ」がある。 色情の果て方を、清げな姿にして表現した文のようである。


 「同じ言葉であっても、聞き耳によって、(意味の)異なるもの、それがわれわれの言葉である」と枕草子(3)にある。

「ひら野…地名または神社の名…名は戯れる。山ばではない処」「いたづらや…無駄屋…役立たずか…むなしいものや」「御こしやどり…御神輿の泊まり…お身興しの為の休息中」「いとめでたし…とっても愛でたい…無条件に最高にほめたたえたい…(その言い方)すばらしい最高だわ」「いがき…斎垣…井餓鬼…おんな」「つた…葛…蔓草…おんな」「もみぢのいろ…(背景の木々の)紅葉色…おとこのも見じの気色…おとこの厭きいろ」「つくづくと…力無くしんみりと…しみじみと…することもなく」「たてられしか…停まっていたことよ…留まっていたことよ…突っ立っていたことよ」。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)