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帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百七十九〕節分違へなどして

2012-01-16 00:06:37 | 古典

  



                                             帯とけの枕草子〔二百七十九〕節分違へなどして



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百七十九〕せちぶんたがへなどして

 
 文の清げな姿

 節分の方違えして夜深く帰る。寒いこと、どうにも耐え難く、おとがいなどもみな(凍り)落ちそうなのが、辛うじて帰り着いて、火桶をひき寄せたとき、炭火が多くあって少しも黒い所もなく愛でたいのを、こまかな灰の中より起こし出したのこそ、とってもすばらしいことよ。

 また、何か話をしていて、火が消えそうなのも知らずに居たところ、他の人が来て炭を入れておこすのは、ひどくにくらしいことよ。それでも炭を周りに置いて、中に火をいれてあるのは良い。みな他へ火をかきやって、炭を重ね置いた頂きに火を置いている、とってもいらいらする。


 原文

 せちぶんたがへなどして、夜ふかくかへる。さむきこといとわりなく、おとがひなどもみなおちぬべきを、かろうじてきつきて、火おけひきよせたるに、火のおほきにてつゆくろみたる所もなくめでたきを、こまかなるはいのなかよりおこしいでたるこそ、いみじうおかしけれ。
 又ものなどいひて、火のきゆらんもしらずゐたるに、こと人のきて、すみいれてをこすこそ、いとにくけれ。されど、めぐりにをきて、中に火をあらせたるはよし。みなほかざまに火をかきやりて、すみをかさねをきたるいたゞきに、火をおきたる、いとむつかし。


 心におかしきところ
 せつ分(切な思いを切り分けて心)違えして、(彼は)夜深いのに帰る。心寒いこと、とても耐え難く、顎にも、みな(水…はな水)落ちそうで、辛うじて気付いて、火桶を引き寄せたときに、(真っ赤な思い)火の大きくて、少しも黒いところもなく、愛でたいのを、細やかな燃えかすの中より起こし出したのこそ、とってもおかしく笑えてきたことよ。

 また、ものなど言っていて(思い)火が消えたらしいのも知らずに居たところ、(彼の心に)別の女が出て来て、「済み」だと(彼が)言い入れてよこすのは、とっても憎らしい。  
 だけど、(女たちを)周辺に置いていて、中(中心に男の思い)火を置かれたのは良い。みな他の方へ思い火を払いのけて、す身(新たな女)を重ね置いた頂上に、(男の思い)火を置いている、とっても不愉快。


 言の戯れと言の心

  「せちぶんたがへなど」という言葉の「など」は他にも意味があることを示している。

 「節分…季節の変わり目…切分…接分」「せち…せつ…切…切り裂く…一途な心…親切、切実などの切…接…交接」「分…分割…分裂」「たがへ…方違…違え…(気分などの)くいちがい…(性かくなどの)不一致」「みな…水…涙…鼻水」「きつきて…(我が家に)来着きて…気付いて」「火…思い火…情熱の火」「おかし…をかし…すばらしい…可笑し…(自嘲気味だけれど)笑えてくる」「すみ…炭…済み…す身…女の身」「す…洲…女」「灰…思い火の燃えかす」「むづかし…すっきりしない…不快…いらだつ…むかつく」。


 
 和歌は「心に思うことを、見るもの、聞くものに付けて、言いだせるなり」と、古今集仮名序にあるように、文章でも、会話でも、同じ表現方法を採る。済みも女も炭に付けて、思いの火は炭火に付けて、表現してある。 
 一夫多妻の世の中では、囲った女たちと同じ階位にあって、男が中心にいて平等に思いをかけるのはゆるせる。けれども、女を重ね置いた上から男の思いをかけるようなのは不快であるということが、「清げな姿」「心におかしきところ」と共に述べてある。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新日本古典文学大系枕草子による。