帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第一 春歌上(43)春ごとにながるゝ河を花とみて

2016-10-12 18:58:40 | 古典

               


                            帯とけの「古今和歌集」

                   ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


  
「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで聞き直せば、隠れていた歌の「心におかしきところ」が顕れる。それは、普通の言葉では述べ難いことなので、歌から直接心に伝わるよう紐解く。

 

「古今和歌集」巻第一 春歌上43

 

水のほとりに梅の花咲きけるをよめる    伊 勢

春ごとにながるる河を花とみて おられぬ水に袖やぬれなむ

(水のほとりに梅の花が咲いたのを詠んだと思われる……女の辺にお花が咲いたのを詠んだらしい)(伊 勢)

(春くる毎に、花影映り・流れる川を、梅の花と見て、折れない、水に衣の袖、濡れるのでしょうか……春情ごとに・張る毎に、流れる彼端を・泣けてくる女よ、おとこ端と見て、折れない、見ずに、身の端、濡らしてもらえるのでしょうか)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「春…季節の春…春情…張る」「ごと…毎…事」「ながるる…流れる…(物が水に)流れる…中止となる…なかるる…泣けてくる」「るる…る…自然にそうなる(自発)の意を表す」「河…川…言の心は女…かは…彼端…あの身の端」「は…端…身の端」「花…木の花…梅の花…男花…おとこ端」「みて…見て…思って」「見…覯…媾…まぐあい」「おられぬ…折ることが出来ない…逝けない」「水…言の心は女…見づ…見ず」「袖…衣の袖…身のそで…身の端」「や(濡れ)なむ…きっと(濡れるの)だろうか…(濡ら)してもらいたいよ…(濡らす)ことができるのか」「や…疑問の意を表す…感嘆・詠嘆の意を表す」「なむ…確実に実現することを推量する…相手に願う意を表す…可能な事に対する推量の意を表す」。

 

高嶺の木の花に片恋したか、川に映る花を折れないもどかしさに、涙で袖濡らす女の思い。――歌の清げな姿。

張るごとに、早ばてする彼端を、わが花と見て、折ろうとすれど・折れていて、折れない、をみなには、身のそで濡れること出来るのでしょうか。――心におかしきところ。

   女のほんとうの思いを、清げな姿に包んで、言の戯れの意味を利して表現したのである。このような歌は、仲間の女たちの共感を得るだろう、思い当たる男どもの心には深く刺さるだろう。
 伊勢は、古今集女流歌人の第一人者である。 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)