ピート・ローズの発言

2013-08-23 19:18:53 | 雑感

ピート・ローズの「イチローの4000本安打を私の4000本と等価値とは認めない」という趣旨の発言が日本人の間でかなり反感をかっているようである。

結論から言えば,言ってることは正しい。やはり「等価値」とは言えない。そもそも,「メジャーリーグ」記録の話をしているのだから,メジャーリーグでの記録に限定されるのは当然である。4000本打った「イチローが凄い」というのは当然であるが(ローズもこれは繰り返し認めている),「メジャー史上3人目の快挙」という評価にはならない,というのは当たり前である。ローズの発言趣旨はここにあるので,全く正論である。

もっとも,一々細かい反論をしたりしているのがみっともないのは事実である。イチローが10年連続でシーズン200安打を記録した時も,「私は198安打の年が2回あった。そのうち1回はストライキでシーズンが短縮化された」,「他にも年間225本ペースで打っていた年がストライキでシーズン中止になった」,「だから私は200安打を12,3回達成できたのだが,イチローは未だ10回だ」などとみみっちいことを言っていた(シーズン200安打10回と言うのがメジャー記録で,ローズの記録にイチローが並んだのである)。

一流選手なんだから他人の偉業を素直に認めろ,というの今回の「反感」の正体だと思うのだが,ローズが女々しい子ことを言いたがるには理由がある。彼は永久追放処分を受けているので,名誉の殿堂入りも永久欠番の可能性も絶無であり,MLBの公式舞台に戻ることもできない。だとすると彼の存在意義は「記録」しかないのである。したがって,他の選手以上に「自己記録」の価値に拘りを持たざるをえないのだ。年齢が72歳と言うのも拍車をかけていると思う。ローズは他にもメジャー歴代2位の44試合連続安打,ワールドシリーズ制覇3回など輝かしい記録を持つ。しかしローズが尊敬されることはもはやないのである。

ところで,「日米通算」という日本独自の尺度であるが,アメリカ人は正直まるで興味を持っていないのが事実だ。日本とMLBはレベルが違う,というのがその理由だが,これに対して「WBCでは日本が連覇している」=「日本の方が上」という妙なことを言う人間出てくるのが常だが,これは失当である。冷静に考えても,野手で成功したのはイチローと松井だけ。松井にしても,ホームランバッターとしてはまるで通用しなかった。その他,井口,松井稼,福留,西岡など野手はまるで通用しなかった。野茂やダルビッシュ,佐々木は成功した部類だが,それでも日本時代ほどの圧倒的なパフォーマンスというわけではない(ダルビッシュは5年連続防御率1点台だったのだ!)。松坂,伊良部にいたっては2年ほどしか通用しなかった。これが厳然たる事実である。どちらが上下という話題は無意味だと思うが,事実は事実であろう。試合数がメジャーの方が多いなどの意見もあるが,一般的にシーズン10試合から15試合程度は休ませるし,その他途中交代も多い点を見落としている。何より移動距離・スケジュールのきつさが半端ない。例年高校野球の時季,阪神は「死のロード」に出る,などと言われるが,それでも東京から広島間の移動に過ぎない。メジャーは米本土だけでも日本の20倍の広さを移動し,基準時が3つある中を移動している。20連戦,25連戦,ダブルヘッダーなんてざらである。おまけに引き分けが無いから延々と試合を続ける事も普通だ。これを半年間続けているわけだから想像を絶する。何よりも本当に日本の方が「上」なら,そのキャリアをかけて一流選手が全盛期にメジャーに挑戦することは無いはずである。この事実でこの議論については十分だろう。

しかし,実はここからが「本論」である。このように「日米通算」には価値を見出していないアメリカが,今回の「4000」については明らかに異なる対応を示している点である。「日米通算だろうが4000はとにかく凄い」という論調である。それだけ「4000本」は異次元の領域なのである。因みに同じイチローの「日米通算3000」の時は,それほどの関心を呼んでいない。しかし今回の「4000」は日米だろうがなんだろうが,とにかく「凄まじい水準」だと言うことである。現に,クーパーズタウンの野球殿堂は既に「通算4000本」に関する調査を開始している。マイナーリーグないしニグロリーグ+メジャーリーグなどの通算で4000を越えた人間はいるか,という調査なのだが,どうも10人程度はいるようだ。それでも140年の歴史の中で10人程度しかいないのである。くしくもジーターが,「リトルリーグからの通算だとしても4000は凄い」という非常に分かりやすいコメントを出している(このコメントに関し,「リトルリーグでも4000本は凄い」という発言をしたと報道しているメディアがあるがこれは酷い)。

日米通算でもない「日本記録」にメジャーが敬意を表した事例は2,3ある。1つは福本がルー・ブロックの盗塁世界記録を樹立したとき(現在はリッキー・ヘンダーソンが記録保持者)。2つは,王がハンク・アーロンの通算本塁打記録を抜いたとき。3つ目は,衣笠がルー・ゲーリッグの連続試合出場記録を抜いたときである(現在は,カル・リプケンJrが記録保持者)。いずれも「偉大すぎる記録」の更新のときだ。凄いことには当然敬意を払うのである。ただ,「メジャー記録」ではないだろう,ということである。

因みにイチローの日米通算4000本目は,メジャー通算2772本目であり,これは,あのルー・ゲーリッグの2771本を上回る一本だった。この価値が実は凄いのである(ジーターが抜いた時も盛り上がった)。いずれにせよ,イチローは「凄すぎる」のである。「メジャー史上3人目」ではないだろうが,「4000本安打」を放った孤高の存在であることに変わりは無い。アメリカでもイチローの名誉の殿堂入りを疑う者は誰もいない。

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