ブログ日和。

映画と、『ER緊急救命室』『ザ・ホワイトハウス』などの海外ドラマと、世間に対してのツッコミを徒然に書いていきます。

『バベル』

2007-04-25 19:40:28 | 映画
面白い、たぐいの映画じゃない。最初に銃撃事件があって、それ以上の出来事は起こらない。何かに狼狽える人々の物語だ。

試写を観た聾者からの提案で日本語の会話にも字幕が付いた。もちろん必要なことだけど、邪魔だろうと思っていた。個々の手元に字幕が出るようなシステムを積極的に付けることが重要だろ、と。しかしこの映画を観て分かった。自分だって手話に字幕が必要じゃないかと。あまりにも当然のことに気が付いていなかった。手話が分かる人には邪魔ではないか。さらに言えば、言語が入り乱れるこの物語を字幕なしで理解できる人は、まずいない。字幕を通して、コトバというものを自分中心に考えていたことか考える。

そんな気付きがありながら特に印象に残ったのが、菊池凛子演ずる聾の女子高生がクラブに行くシーン。奥に入って行くにつれ増していく音。重低音がスピーカーから体全体に響く。次の彼女のカットでは無音。その繰り返し。聾者は「音」を感じ、私は無音の世界を経験する。そのクロスに新たな感慨。直後の、フラッシュの中で友達のキスを見て愕然とした表情に一コマ一コマ変化していく様。衝動的な感情への畏怖と嫉妬を感じた。決して埋められない欲望を埋めようとする姿が、いじらしくて、人間らしい。

「神は、人を、分けた」という作品のコピーが、配給会社が最初に用意したものだった。その後に悲劇的な話を想像されるのを嫌ったのか、「届け、心」というものに代わった。日本とアメリカ、富める国の人間には救いが用意されているが、モロッコとメキシコの持たざる国の人々には、救済は用意されていない。これが何も届かない現実なのかとも思う。

ハッピーエンドでも何でもない。それでも、「やっぱり人は分かり合えないのだ」というありきたりな結論にしてしまう前に観て。そう簡単に割り切って答えは出ないと思う。

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