ブログ日和。

映画と、『ER緊急救命室』『ザ・ホワイトハウス』などの海外ドラマと、世間に対してのツッコミを徒然に書いていきます。

輝く!ピロデミー賞2012

2013-01-03 17:04:15 | ピロデミー賞
全国、四捨五入すれば10人程度は存在すると思われるピロデミー賞ファンの皆様、お待たせしました。第9回の「輝く!ピロデミー賞」各賞の発表です。

【2012年ベストテン】
1 サニー 永遠の仲間たち
女版「パッチギ!」。歌に恋に大ゲンカにと、痛快で晴れやかな気分にしてくれる。ハチャメチャやってるけど、しっかり時代も描いてて、韓国は386世代以降も着実に監督が育ってるなと実感。
2 別離
裁判員になったかのような気持ちにさせられるサスペンス。ハラハラする場面に家族の有り様とイランの社会が透けて見えてくる。特に主人公の妻と妊婦の家政婦の人物像が興味深かった。
3 かぞくのくに
ラスト間際の兄が車で去るシーンは、痛くて切なくて心えぐられる。ヤン監督から「兄に対して私が出来なかったことを」と言われ、アドリブで演じたと聞き、納得した。
4 最強のふたり
「違っていても仲良くしよう、ではなく、違っているから仲良くしよう」という、まどみちおの言葉を地で行く物語。ふたりの笑顔に、セプテンバーの曲がよく合う。
5 夢売るふたり
無言で思索する場面での、お松の凄み。「今が一番いい顔しとる」という阿部サダヲの言葉が、女の恐さを象徴してる。
6 少年は残酷な弓を射る
徹底的な母親に対する嫌がらせ。理由の見えない絶望感といったら…。呆然と、どんどん表情を失くしていくティルダ・スウィントンが素晴らしい。
7 ロボット
あるもの全部放り込みました的なパワフルな映画。結局、歌って踊るのも、楽しくてしょうがない。年に1本はこういうインド映画を見たい。
8 ミッドナイト・イン・パリ
「昔は良かった」ノスタルジーへの憧れを、きっちり皮肉で打ち砕く。ラストの雑貨屋のお姉さんとくっつくのは、「今を生きてる君には、今が一番いい時代なんだ」ってメッセージに思えた。
9 私が、生きる肌
発想がエキセントリック過ぎて、かなりキてる作品。復讐からもう別の次元に行っちゃってるんだろね。くわばらくわばら。
10 ライク・サムワン・イン・ラブ
自分を知ってほしいという感情と、知られることへの躊躇と。老教授と若い女の2人の主従入れ替わり、最後は共犯関係のような心境に至るやり取りが面白い。夜の描かれ方も綺麗で、好き。
次点 ル・アーヴルの靴みがき
善人ばかりの登場人物に、シニカルな笑いが相まって、ささいな日常が尊いものに見えてくる。カウリスマキは色遣いが本当にいいよねぇ。
次々点 人生はビギナーズ
「トラップ大佐」がゲイだったというのは想像できなかったけど、実際見てみると自然な感じで受け入れられた。息子の視点で描いたっていうのが良かったんだろうな。

特別賞
・11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち
左翼の若松監督が撮る右翼。全学連とアジり合いをする場面に、思想は違えど共通するこの国に対する思いがあったのだと感じた。
・これは映画ではない
タイトルから穏やかじゃないけど、監督の胸中が痛いほど伝わってくる。表現者にとっては辛い記録でもあるけど、検閲があるが故に生まれた希有な映像でもあるわけで。

今年は富山への転勤によって、単館系の作品が封切られるのが3ヶ月遅れぐらいの環境になっちゃったけど、フォルツァ総曲輪という作品チョイスの良い映画館に出会えて良かった。

【最優秀女優賞】
樹木希林 「我が母の記」
希林ばあちゃんの呆けっぷりがサイコー。その場にいない人に対して話しかける様は、もはや名人芸と言って過言でない。人間国宝もの。
【最優秀男優賞】
井浦新 「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」「かぞくのくに」
今年2度、話を聞く機会があって、役に対して本当に真摯な向き合い方をしてる人だなと。待機作も楽しみでしょうがない。

■ドラマ部門
【国内ドラマ賞】
NHK カーネーション
フジ ゴーイングマイホーム
【海外ドラマ賞】
シャーロック2
【最優秀女優賞】
尾野真知子(カーネーション、小原糸子役)
【最優秀男優賞】
渡辺謙(NHK 負けて、勝つ ~戦後を創った男・吉田茂~、吉田茂役)

カーネーションは、後半になっても素晴らしかった。夏木マリに糸子役が代わったことに批判はあったけど、あれはあれで。ゴーイングマイホーム、視聴率は完敗。でも、ああいう静かに味わうようなドラマは、各局が年1作は作るべき。渡辺謙の吉田茂役は、若すぎるデカすぎるってのは分かる。でも、苦虫を噛み潰したような、クシャおじさんみたいな、あの表情は良かったと思う。

■ゴールデン・タンジェリン賞(略してタジー賞)
 最も「アレ」な感じの作品と俳優に贈られます。

【タジー作品賞】
・メランコリア
タイトル通り物語が憂鬱でたまらないし、意味プーな展開。ただ、冒頭の超スローモーション映像は、繊細に描かれた絵をじっくり見てるようで、そこは好き。
・ヘルタースケルター
エリカ様にまつわるイメージを最大限に使ったあざとさは、逆にアッパレというしかないのかも。
・ツナグ
死を泣かせるためのアイテムにしか思ってないようなつくり。そんなのに八千草や仲代といった超大御所が出てるのが謎。
・終の信託
尊厳死が一般的でない時代を描いたのであれば理解できるけど、そうじゃないからどう見ても医者側の落ち度にしか見えない。それに、検察官役の大沢の大仰な演技と棒読みの草刈の応酬が続く終盤45分は、見ているこっちとしては地獄。周防監督やっちまったな感がハンパない。

【タジー女優賞】
・キルステン・ダンスト(メランコリア)
・沢尻エリカ(ヘルタースケルター)
・草刈民代(終の信託)
【タジー男優賞】
・草剛(あなたへ)
漁師役の大滝秀治のガチ演技を見たら、あんな軽い演技は許せなくなる。
・大沢たかお(終の信託)

輝く!ピロデミー賞2011

2012-01-01 13:29:31 | ピロデミー賞
全国7,8人のピロデミー賞ファンの皆様、お待たせしました。第8回ピロデミー賞各賞を発表いたします!


■映画部門

【トップ10】
1 冷たい熱帯魚
2 人生、ここにあり
3 ウィンターズ・ボーン
4 エンディングノート
5 モテキ
6 コンテイジョン
7 大鹿村騒動記
8 奇跡
9 ブラックスワン
10 英国王のスピーチ
次点 監督失格
特別賞 がんばっぺフラガール

【最優秀女優賞】
ジェニファー・ローレンス(ウィンターズ・ボーン、リー役)
【最優秀男優賞】
でんでん(冷たい熱帯魚、村田幸雄役)

ダントツで『冷たい熱帯魚』がトップ。もう2度と見たくないとトラウマを植え付けてくれるぐらい衝撃作だった。だって、見終わったら頭が痛くなってしばらく動けなかったんだもの。でんでんの二面性に恐れおののき、吹越満の変貌ぶりに脱帽。『モテキ』は長澤まさみの「殺人スマイル」にやられた!彼女との接戦の末、女優賞を獲得したのは『ウィンターズ・ボーン』のジェニファー・ローレンス。生きることに疲れ果てるんだけど、毅然とした覚悟を感じるあの表情、良かったねえ。地震と原発事故後に見た『コンテイジョン』、デマを吹聴するジャーナリストとそれを信じ切ってしまう人々。本当に怖いのは信用とか信頼が失われて硬直化した社会なんだなと。『大鹿村騒動記』は原田芳雄の追悼というより、単純に笑えてホロッと出来て、ずっとこの人たちを見ていたいと思わせる邦画の良さがにじみ出てる作品だったから。


■ドラマ部門

【国内ドラマ賞】
NHK カーネーション
【海外ドラマ賞】
ケネディ家の人びと
【最優秀女優賞】
尾野真知子(カーネーション、小原糸子役)
【最優秀男優賞】
松尾スズキ(NHK TAROの塔、岡本太郎役)

■ゴールデン・タンジェリン賞(略してタジー賞)
 最も「アレ」な感じの作品と俳優に贈られます。

【タジー作品賞】
まほろ駅前多田便利軒
ツリー・オブ・ライフ
東京オアシス
アントキノイノチ
【タジー女優賞】
榮倉奈々
【タジー男優賞】
山本太郎 高岡蒼佑

『アントキノイノチ』はラストの改変がひどすぎる。『恋空』辺りからのTBS映画のお涙頂戴路線には辟易。そういうことで榮倉奈々も引きずられて受賞と相成りました。『ツリー・オブ・ライフ』、なにあれ。見てる時の客席のぽかーんとした表情は忘れられない。『東京オアシス』は、雰囲気美人を目指して勘違い。『まほろ駅前』はあの2人の醸し出す雰囲気に耐えられなくなりましたとさ。山本サン、高岡サン、もう少し自分と立場の違う人のことも考えてから発言や行動して下さい。

                  ☆★☆★☆☆★☆★☆

あまりにも大きく辛い現実を目の当たりにした2011年。否が応でも映画に対してもそのことを重ねて見てしまう。おそらく今年は震災を受けての作品がたくさん出てくるのだろうと思うけど、世間が「絆」「つながろう」の一括りで片付けてしまいそうなことを、もっと違った角度や考えでえぐってほしい。それから、世界の「独裁者」がいなくなって、日本国内に新たな「独裁者」が登場。このこともどう描くのだろう。映画もドラマも、いま、この時代に作っていることの意味を考えていってくれれば。
…と、自分のことは棚に上げて言うのは良くないですね。自分も「小さなことからこつこつと(by西川きよし)」の気持ちでやっていきます。今年もどうぞ、よろしくお願いします。

さよならの向う側

2011-01-30 23:10:52 | 映画
片桐はいりは学生時代、銀座文化劇場でモギリのアルバイトをしていた。当時のことを『もぎりよ今夜もありがとう』という本に書いている。「映画館が呼吸するのを見た」というのだ。寅さんの正月上映でお客たちが爆笑するたびに「扉が、ばふん、ばふん、と開いては閉じる」らしい。それは映画をつくった人の喜びに勝るとも劣らない、至福の時間だという。立ち見でいっぱいだったその劇場も、今は指定席制のシネスイッチにかわっている。

この数年間、いくつもの映画館の閉館を見送ってきた。2月1日、また一つお別れをしなければならない。それも自分が7年間勤めてきた劇場だと思いは格別だ。渋東シネタワー1と2。渋谷東宝の名を継ぐ劇場として1991年に開館。パンデオン亡き後は渋谷最大の劇場に。3と4は今後も営業を続けるようだけど、7月には「TOHOシネマズ渋谷」リニューアルオープンするとか。一方で、大半の後輩のアルバイトたちは明日で「楽日」を迎え、バラバラになっていく。言いようのない寂しさが募る。

変化や新陳代謝は必要だし必然だ。鴨長明も福岡伸一も言っている。でも、ちょっと待ってという気持ちもある。せめて名前を残すとか、名作上映をやるとか、なにか手立てはあるはずなのにそれもないらしい。

自分にも片桐さんと同じような経験がある。『スターウォーズ・エピソードIII』の先行上映の時だ。スタッフロールが終わり、場内が「遠い昔、遥か彼方の銀河系」から現代の東京・渋谷に戻ってきたちょうどそのとき、客席からワッと拍手が起きた。扉を開けようとしていた体にジンと熱いものが流れた。それは、この仕事をやってて良かったと思えた瞬間だった。

そう、ハコ=劇場には人々の記憶が詰まっている。初めてのデートで見に行ったとか、家族そろって号泣したとか、受験に落ちたあと見に行って立ち直ったとか。それをダンボール箱を畳むかのように閉じてしまうのは、なんだかもったいない。シネコンみたいなキレイな劇場はそれはそれでいいかもしれない。でも、映画の記憶全てに、甘ったるいキャラメルポップコーンの匂いが漂っているのは嫌なのだ。

まあ、なんだかんだと言ってもしょうがないのかもしれない。
それなら、さよならのかわりに言わせてほしい。

たくさんの出会いをありがとう、渋東。

輝く!ピロデミー賞2010

2011-01-01 15:58:51 | ピロデミー賞
全国5,6人のピロデミー賞ファンの皆様、お待たせしました。第7回ピロデミー賞各賞を発表いたします!


■映画部門

【今年の十本】(観た順)
『誰がため』
『(500)日のサマー』
『ボーイズ・オン・ザ・ラン 』
『パリ20区、僕たちのクラス』
『フローズンリバー』
『トイ・ストーリー3』
『オーケストラ!』
『告白』
『悪人』
『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』
『ヘヴンズストーリー』

☆特別賞☆
『HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-』(プラネタリウム用作品)
『月あかりの下で-ある定時制高校の記憶-』

【最優秀女優賞】
寺島しのぶ 『キャタピラー』

【最優秀男優賞】
リカルド・ダリン 『瞳の奥の秘密』


2008年のピロデミー賞は、『ダークナイト』とか「悪」を描いたアメリカ映画がいくつか入ってたけど、今回は邦画にその傾向があったのかなと。『告白』にしろ『悪人』にしろ、テレビ局が出資してないのにヒットしたという意味も大きいと思います。テレビで放送することを織り込み済みで作った映画をわざわざ映画館で見たくないし。
『(500)日のサマー』『ボーイズ・オン・ザ・ラン 』→『モテキ』の流れはあまりに身近すぎて、手で顔を覆いながら指の間から見てるような感覚でした。
「3D元年」、割増料金で何作か見ましたが、3D表現を生かし切れてるのは『ヒックとドラゴン』ぐらい(選外だけど)。たいていは必要性を感じず、トーキー、カラーに並ぶ第3の革命とは思えず。
学校を描いたドキュメンタリー『月あかりの下で』とドキュメンタリー風『パリ20区、僕たちのクラス』は、改めて子どものために大人は何が出来るのかということを考えさせられる良作。それに、大人は子どもたちからもっと学ぶべきだということも指摘しているのだと思います。


■ドラマ部門

【国内ドラマ賞】
テレビ東京『モテキ』

【海外ドラマ賞】
『ザ・ホワイトハウス シーズン7』

【最優秀女優賞】
満島ひかり テレ東『モテキ』

【最優秀男優賞】
遠藤憲一 フジ『不毛地帯』


『モテキ』はマンガを先に読んだのだけど、ドラマもいろんな演出があって楽しめました。満島ひかりは「ロックンロールは鳴り止まないっ」の絶唱で女優賞決定。『ザ・ホワイトハウス』『24』もとうとう最終回を迎えて、今後海外ドラマは何を見ればいいのか、当てがありません。誰かオススメ教えて。エンケンフィーバーは続き、年をまたぎ受賞。あの顔を朝に見ることになるとは(笑)。


■ゴールデン・タンジェリン賞(略してタジー賞)
 最も「アレ」な感じの作品と俳優に贈られます。

【タジー作品賞】
『ウルルの森の物語』
『ゼブラーマン -ゼブラシティの逆襲- 』
『大奥』
『SPACE BATTLESHIP ヤマト』

【タジー女優賞】
沢尻エリカ

【タジー男優賞】
船越英一郎 『ウルルの森の物語』


中でも『ゼブラーマン』は見てて思わずサイテーと呟いてしまうほどの出来。ある意味突き抜けててこれを全国ロードショーするって勇気あるなあって。沢尻サンは何にも出てなかったけど、2年ぶり4度目の受賞。あ、大桃サンと麻木サンは女優じゃないと思うので、ノミネートしませんでした。海老蔵サンも然り。船越サンはふた昔前のトレンディドラマ風の演技がまぶしすぎて。

☆★☆★☆

社会人になって、大阪に引っ越して、一人暮らしを始めて、個人的に激動の一年でした。もっといっぱいの作品を見られればなと常に思うんだけど、なかなか見落としてるものも多くて。ぜひぜひオススメを教えて下さいませ。
映画館にもさまざまな動きが出てます。恵比寿ガーデンシネマや梅田ピカデリー、それに我がシネフロントも閉館するという状況が正直寂しい限りです。今後、シネコンに集約されていくのだろうけど、作品の多様性みたいなものは担保してほしいなあと。このあたりのことはまたそのうち書きます。

さてさて、今回もお付き合いありがとうございました。みなさんにとって良い一年になりますように!

『告白』 中二病の闇

2010-06-20 19:42:12 | 映画
学級崩壊している教室で、担任の森口悠子はゆっくり語りだす。「娘はこのクラスの生徒に殺されました」―。衝撃的な告白に、さまざまな反応を見せる生徒たち。そして、森口は教師を辞める…。

「有名になりたい」「人気者になりたい」「自分はもっと評価されてもいい」「なんであいつが」「みんないなくなればいいのに」「自分は必要とされてない」…。そんなことでいちいち悩んだり落ち込んだり。「中二病」といえばそんな感情から派生する珍妙な行動や思考をさす言葉(と理解してます)。これを『色即ぜねれいしょん』では、70年代の鬱屈する少年の成長物語として描いていて、見る人にノスタルジー的な安心感をくれる。じゃあ、今は?

今も、中二病を患う少年少女の本質は変わってない。でもケータイやネットの出現で、中二病の欲望を叶えるものが簡単に手に入るようになってしまった。それは、想像の中で悶々と処理されてきたものが、ちょっとしたことで実現してしまうということ。この『告白』では、中学生だけではない、教師も親も人間が皆持っている中二病のグロテスクな側面がありありと見せつけられる。クラス、学校という「世間」の描かれ方も、生々しい。

と、重い映画のように書きつつも、映像は洋楽がかかりミュージックビデオのように軽く流れていく。松たか子の感情を排した淡々とした語りも相まって、奇妙な空間が出来上がってる。もしかしたら原作と違うテンションかもしれないけど、中島監督はうまくやったと思う。

「先生の娘を殺したのは、誰?」というのが宣伝のコピーだけど、見終わった今、「殺したのは、何?」という問いがグルグル頭の中を回ってる。

『月に囚われた男』

2010-05-02 23:42:37 | 映画
大阪に来て初めて映画を見ました。2ヶ月ぶり。本当は『オーケストラ!』が見たかったんだけど、満席で。あ、映画サービスデーだったのね。というわけで、こちらを見ました。

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月はエネルギーの宝庫らしい。石油の枯渇した未来の地球ではそれを頼りに暮らしている。サムはその採掘のために一人で月にいる。それもこれも妻と娘のためだ。接点はビデオレターだけ。彼の孤独感は推して知るべし。

物語はほぼ一人芝居で進む。厳密に言えば…違う?そこらへん、この映画のムズカシサ。『アイランド』や『スカイ・クロラ』的なって書いちゃうと、ネタバレなのかな。はっきりいっちゃいましょう、そうです、クローンの話です。傍から倫理的にクローンの是非を問うようなことじゃなくて、クローン人間がそのことに気がついてしまったらどうなるのか。帰る家が無いと分かれば、孤独感は絶望へと変化する。

一見、ミステリーのタネ明かしを楽しむタイプの映画のように思えるけど、それだけじゃない。クローンを生きる哀しみと、それを共有することで生まれる奇妙な感情、ひいては文明への警鐘が含まれる。あまりにも簡素で無機質でスタイリッシュな映像に、そのメッセージが浮かび上がる。

なぜか基地のある地区は「サラン(愛)」。作業着にもハングルで書いてあった。韓国がこの分野で覇権を握ったのかな。他にもこの映画、いくつか謎があります。

『ボーイズ・オン・ザ・ラン』

2010-03-03 12:41:08 | 映画
主人公・田西はガチャガチャ玩具メーカーの営業。仕事もプライベートも何をやってもダメダメ。そんな彼の前に後輩ちはるが現れる。不器用ながら付き合い始めそう、と思ったところで、ある事件が起きて疎遠になってしまう。田西役の峯田和伸の、鬱屈とした感情を抱え込む男の姿に、情けなさを笑いながらも、同時に自分を重ね合わせてしまう。好きな女の子のために立ち上がる田西に、「がんばれ!」と応援しない男はいないだろう。リア充以外は。

そう、リア充以外は、なのである。その後、田西も我々も現実を見ることになる。田西とちはるの思いは清々しいまでにすれ違い、リア充との「格差」を思い知る。終盤、ヒロインと思われていたちはるの実態が分かってきて、今までやってきたことが見事にガラガラ崩れていく。それでも一遍走り出したら止まれないのが男なんだ――!

ということで、これもラブストーリーではないし、サクセスストーリーでもない。構図は『(500)日のサマー』に似ている。が、もちろん、比較するまでもなく、なっさけなくて、下品で、低俗な話。でも「それのどこが悪いんだ!男はそういう生き物だ!」と胸を張りたくもなる。そんな力強ささえも感じさせる映画だった。ソープ嬢役のYOUもそうだけど、社長のリリー・フランキーや小林薫の配役は、まさにハマリ役。小林薫に「いい、ションベンでした」なんて言わせるのずるいよー。笑うしかないじゃん。

『おとうと』 激突!小百合VS鶴瓶

2010-02-23 12:38:57 | 映画
吉永小百合という女優は、「善良な市民」として登場することが多い。この映画でも亡き夫と開いた薬局を慎ましく営んでいる。彼女が「正しい日本語」で娘に優しく語りかけ、恐縮しながら隣近所に頭を下げる。観客は誰もが彼女の味方をしたくなる。すると、スクリーン上で彼女は正義の化身となっていく。でも、そんな「いい人・小百合」に抗したいヘソ曲がりな自分もまたいるのだ。

鶴瓶演じる弟は、そんな「正義」をぶっ壊す。大阪で大衆演劇をやりながら、東京の姉の元にふらっと現れるさまは、寅さんとよく似ている。小百合の娘、蒼井優の結婚式を派手に酔っぱらってめちゃくちゃにする。こうなると、小百合も「正しい日本語」だけでは太刀打ちできない。怒りを通り越して呆れ、そして助けたくなってしまう、そんなダメさ加減が鶴瓶の「おねえちゃん!」の人懐っこい声によく出てる。

その後、鶴瓶は借金がバレて、「正しく健全に生きてる人間に、俺みたいな惨めな人生はわからん」と言って出て行くのだけど、末期ガンでホスピス施設に入所しているところを見つかる。やつれながらも酒を飲もうとしたり、最後の最後まで小百合を振り回す。鶴瓶は小百合と見事に闘ったと思う。もちろん実際に闘ったわけじゃないけど、凌駕する演技、キャラクターだった。満足。

山田洋次の久々の現代劇ではあるけど、コテコテの昭和風物語。脇を固める役者人もベテラン揃い。特に義母役の加藤治子は絶品。観客の笑いを誘うイヤミの言い回しとか、そうそうこれが日本の姑だよなと、思わず納得させられてしまった。きちんと作られてる作品だけに、寅さんのビデオが出てきたり、鶴瓶が「麦茶はおいしいなあ」とか言ったり(CM出てるでしょ)、中居正広がわざと目立つような形でホテルのボーイ役で出てたりする、そういう余計な演出が目に余ったのが残念。

『Dr.パルナサスの鏡』

2010-02-22 14:45:29 | 映画
ヒース・レジャーの遺作。主役が撮影の途中で亡くなってしまうなんて、奇想天外物語を撮ってきたテリー・ギリアムも想定外だったろう。それでも、未撮影だった鏡の中のシーンでは「別人」になってしまうというアイディアで克服。そんなことも含めてギリアム節の集大成のように思える。

旅芸人一座が見せる不思議な鏡の中に飛び込むとそこには、その人の欲望の世界がある。この描き方が、色鮮やかだが毒がある。そしてよくよくみると安っぽい(笑)。そんなむせ返りそうな景色にも人々は魅了されていく。自分もその一人。頭がクラクラしながらも、吸い込まれるような力がある。外連味たっぷりの映像から、現代人が忘れてしまった「物語」や想像力の大切さと言ったものを訴える。

『アバター』なんかより、これこそ3Dで上映すべきでしょ。見世物小屋の猥雑で怪しい感じのほうが相応しいと思うんだけど、違う? でも、実際にそんなの見たら気持ち悪くなって吐くかもね。(^_^;

『(500)日のサマー』

2010-02-20 23:39:21 | 映画
ポストカードのデザイン会社に勤める男女の出会いから別れまでの500日間の物語。こう書けば確かにラブストーリーと思える。だけど、冒頭のナレーションは「これはラブストーリーではない」。これの前に見た『キャピタリズム』の原題のサブタイトルが「ラブストーリー」。もう何が何だか分からない。

トムは秘書として入ってきたサマーに一目惚れ。数日後、サマーと音楽の話で意気投合。そして一ヶ月後、コピールームでサマーの方からキスされる。願ったり叶ったりのトムだったが、それは「悪夢」の始まりだった…。映画は、500日間を行ったり来たりして、付き合い始めて有頂天になって街行く人と一緒に踊り出したり、「理想」と「現実」の二分割でトムの内面が表現されたり、趣向に凝ってる。さすがミュージックビデオ出身の監督さんです。

サマーって良くも悪くもいわゆる小悪魔系。めちゃくちゃカワイイわけでもなく、雰囲気美人といったところ。だからこそ、男は惹かれてしまうのかも知れない。「真剣に付き合う気はないの」とか言いながら、一夜を共にすることを厭わなかったり(むしろ積極的)と、端から見れば「何様なの、この女?」だけど、トムにすれば「惚れてまうやろー!」と心の中のチャンカワイが騒ぎ出してしまうのだ。

トムを草食男子と見る向きがあるけど、そうかな。トムはトムでサマーに対していろいろアプローチを掛けてるわけで、恋愛に消極的ではない。むしろ、サマーの方が恋愛経験に長けていて、乏しいトムが振り回されるっていう構図なんだろな。同じ男として同情はするけど、気分屋の女子と付き合うためには、それなりの「お勉強」が必要だよね。 …って偉そうなことを言いながら、この映画、いろいろ思い当たる節があったりなかったりラジバ…。